第54話 日向への返事
「日向!?」
怜への対応をしてやったりと思いながら歩いていたら、さっきまでのやり取りが見える位置に日向がいた。
呼び出し場所はここじゃないはず。
「影斗、ごめん。その」
「見てたのか?」
「う、うん。話までは聞こえなかったけど……」
「そうか。よかった」
「……よかった……」
さっきの独り言聞かれてたら全部台無しだからな。
怜とは信頼し合ってる。それでいきたいんだ。
正直、それは消したはずではっ!? みたいな展開はしてみたいとか考えたが、実際はない方がいい。
ほっとしているところに、日向の顔が目に見えて暗くなったのが見えた。
あれ、僕ミスったかな?
「日向」
「大丈夫。覚悟はできてた」
そう言う日向の体は震えている。答えがどちらにしても怖いか。
僕も緊張で指先が冷たくなっている。
日向の反応からして、僕は何度となく意識せず恥ずかしいことを言っていたみたいだ。
でも、今日は違う。自分で伝えないといけない。
手汗も脇汗もびっしょりだ。喉が渇いて張りつく。
「日向」
「うん」
「日向への答えは、僕が頼んだ通りだ」
「え?」
「僕を将来までマネジメントしてくれるか? 僕の隣にずっといてくれるか? 僕はしてほしい。いてほしい」
「……わたしが?」
「ああ」
「怜ちゃんじゃなくて?」
「怜じゃなくて」
信じられない。といった様子で口に手を当て目をキョロキョロさせている。
昨日、自分から言ったくせに。日向は驚いたように目を丸くしている。
いや、元はと言えば僕が言ったのか。
「そもそも先に言ったのは僕だろ? 日向はいいって言ったんだぞ?」
「本当に怜ちゃんじゃなくていいの?」
「僕は日向がいいんだ」
「ふふ。そっかー。最初から浮気とか? 怜ちゃんが二股でもいいとかって。言わないか……」
「だろ?」
「でも、どうして? さっきまで怜ちゃんと話してて満足した様子だったじゃん。それに家に二人でいたのはどうなの? 怜ちゃん誤魔化してたけど、本当につき合ってないの?」
「ああ……」
ここで誤魔化すのは人としてダメだな。
これからおつき合いしようっていうのだ。
それに、これから知られるかもしれない不安を抱えながら続けていくのは辛すぎる。
そもそも知ってもらうような関係になるんだろ? 隠し通すのは不可能だ。
でも、怖い。いくら日向でも、もしかしたら認められないかもしれない。そう思うとものすごく怖い。僕がやっているということは認めてもらえないかもしれない……でも、日向も同じ気持ちだったんだ。
「怜とはつき合ってない。ただ、ともに戦ってきた戦友なんだ」
「戦友? でも、二人が話すようになったのって大神の一件からでしょ? ここ最近で?」
「ああそうだ。日向も気づいてたろ? 最近のキララの変化には」
「キララ、え、じゃあ、え!?」
「ここまで言えば、さすがに日向なら気づいたか」
興奮気味にぶんぶんと頭を上下に揺らす日向。
情報はそろっていた。
あとは足りない部分をくっつけてあげるだけでいいのだ。
「怜ちゃんがキララちゃんだったの!?」
「あ、いや」
「すごい! それで、大神のことの恩返しに影斗が協力してたんだ! 真に迫る感じは影斗の協力だったんだね! すごいじゃん影斗!」
「いや、ちが」
「どうしよ。わたしキララちゃんに失礼なことした。でも、怜ちゃんに内緒で話してよかったの? あ、そっか、さっきは許可もらってたんだね。じゃあ、家では影斗がアドバイスしてたんだ。切り抜きくらいで自慢してたわたしがバカみたいじゃん」
「いや、違う」
「じゃあ、どういうこと?」
しんと静まり返る。
日向の中では論理が通ってしまっただけに言いにくい。ものすごく言いにくい。
「ぼ、僕が雲母坂キララなんだ」
「へ……?」
「だから、立場が逆なんだ。怜が僕の参謀役。日向の思ってる逆なんだ」
「え!?」
僕が言った瞬間、日向はぐるぐる目を回し、みるみる赤くなっていった。
そしてすぐにゆでだこのようになった。
「へぁ」
その場でふらふらと千鳥足になり、日向はふっと横に倒れた。
「あっぶな」
僕はあわててすべり込んだ。
なんとか間に合い、抱え込むことに成功した。
危うく頭をぶつけるところだった。
体、意外と動くもんだな。
感心しているのも束の間、僕も冷静になってくると日向に直接触っていることを自覚した。
「うおあっ。ごめん。勝手に触って。でも、大丈夫か?」
「……」
返事が、ない?
「お、おい? 日向? しっかりしろ。おい!」
「キララちゃ、切り抜き、わた、わたし。かげキララちゃ、つき合い。好き。ふぁ」
色々と思うところがあったらしく、日向はぶつぶつなにかをつぶやいている。
「なに?」
口に耳を寄せよく聞こうとすると。
「ひゃっ」
いきなり耳に息が吹きかけられた。
いたずら? なんだ。元気なのか。
しかし、急に全体重をかけられた感じになる。
「おい。不意打ちなんてやめてくれよ。びっくりするだろ?」
「……」
相変わらず返事はない。
というより、なんだか動きがない。
気が抜けて動かないにしても動きがなさすぎる気がする。
「ひ、日向?」
「……」
呼びかけながらほほを叩いてみるもなにも反応が返ってこない。
「日向ーっ! 誰か! 誰か助けを!」
僕はあわてて近くの人に助けを求めた。
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