第52話 怜からの告白
「あれ、影斗一人? おかしいわね」
ドアが開けられ入ってきたのは怜だった。
戻ってきた日向ではなかった。
「あれ? どうして怜まで?」
なんで二人は一緒に来なかったんだ?
「どうしてって呼び出したのは私よ? まあ、前回は他の人も教室に呼び出してたから、私が来ないと思うのは仕方ないかもしれないけれど……そもそも、今が呼び出した時間よ? 影斗って本来は早いのよね」
「まあな。学校は日向のペースで登校してるから」
日向と言った瞬間、怜は少し暗い表情になった。
あれ、これって日向も呼び出してた?
「それより、そんなことより、日向が来たんだけど」
「日向さんが? ……やっぱり日向さんのほうが影斗の行動を把握してるってことなのね……。それで? 日向さん、なにか言ってなかったかしら?」
「やっぱり呼び出してたのか? えーと」
正直に言うべきか?
「どうしたの?」
「いやー。……つき合ってくださいって」
改めて口にすると照れるな。
「やられたわ……」
「それはこっちのセリフなんだが!?」
全部怜の思惑通りじゃないのか?
違うの?
僕も怜も驚いたような目で見つめあっている。
え、本当に違うの?
「なに? 日向に告白させることが怜の作戦じゃなかったの? 恋のキューピッド大作戦じゃなかったの? てっきりそんなことをしてたんだと思ってたんだけど」
「なによそれ。わ、私は、私の考えでは……!」
怜は急にくちびるを引き結んで床に目線をそらした。
どうしてここで言いよどむ? 怖いんですけど。
「私、キララちゃんを好きだったの」
「うん?」
なんの話だ?
「キララちゃんのことが好きだったの。だけど……影斗も、好きになってたの……」
「え、なんて?」
「私! 影斗を好きみたいなの!」
突然の大声。
驚いたが、怜は顔を真っ赤に息を荒くしている。
ウソ、ではないようだ。真剣な目で僕の顔をまっすぐ見つめてる。
しかし、怜が僕を!?
「いや、えーと」
「信じられないし、困るわよね。参謀役からこんなこと言われたら。私も初めての気持ちで自分でもよくわからないの。正直、混乱してるわ。影斗に対して尊敬とか、しっととかいろいろな感情があった。キララちゃんだってことも関係あったと思う。初めはファン心理で好きだった。一緒にいると楽しくて、キララちゃんのことだからか、思わず素の自分が出てしまうこともあった。それに影斗はお母様と違って無条件に認めてくれるから、だから私、影斗が日向さんとつき合ってほしくなくて。私が影斗を独占したくて……」
「うん」
メチャクチャほめられてる。正直そこまでとは思ってなかった。単にキララの中の人かつクラスメイトだから、情が移ることもあるみたいな存在に思われてるんだと決めつけていた。
それが、僕も好きだなんて。
でも、そうだったのか、怜にしても日向にしても僕はあまり気持ちを考えられていなかったな。
「私、ここで日向さんに対して、影斗の彼女ですって言おうと思ってたの」
なに言ってんのこの人。
いや、解決法の一つではある、か。いっそ認めてしまう。
参謀役だとバレるよりはマシか。
「ずるいわよね。でも、今になって、これは日向さんと影斗のことを考えてないって、私の独りよがりだって気づいた」
「ああ。本当に実行してたら、多分、もう怜を信頼できなかったと思う」
「そうよね。よかったわ。日向さんが先に来てくれて」
涙声になりながらも体を震わせながらも怜は必死に言葉をつむいでいる。
別にふざけているわけではないのだ。真剣に解決方法を参謀役としても考えてくれた結果なのだ。
「こんなこと言わないほうがよかったのに、口が止まらないの」
涙を拭う怜の姿が急に小さくなったように見えた。
いつも堂々としている怜が今は見る影もない。
きっと告白するなんて初めてのことで怖いうえに、勝手なことを考えていた後悔もあるのだろう。
「だからこれは、おわびとして持ってきたの」
怜はカバンから袋を取り出した。
かわいらしい装飾のついた、おわびと言うよりプレゼントのような、しっかりとしたキレイな包みだ。
「なにこれ」
「開けてみて」
手渡された包みを開けると、怜、いや冷や水さんの最新の手作り作品が入っていた。
冷や水オリジナルのキララストラップだ。
「カップルとして演じるために用意した小道具だったんだけど、今はおわびとして」
「怜」
「きっと影斗が日向さんとつき合っても参謀役はできるわ。私と影との関係はそういうもの。そうでしょ? でも、ほんの少しでも可能性があるならって思うと、そこにかけてみたくなっちゃうの。私が参謀役を名乗り出た時みたいに。別に、私とつき合わなかったら声をばら撒くとは言わない。ただ、もし私を選んでくれるなら、その時は恋人として」
「……怜、僕は」
「でも、返事は明日以降にしてくれないかしら? 今は耐えられる自信がないの。呼び出しておいてごめんなさい。今日くらいは参謀役も休ませて。影斗なら一人でもできるでしょう?」
まじまじと見ていると怜は自信なさげに目線を下げた。
そして、そのままくるりと背中を向けた。
「待っ」
僕の声が聞こえないのかとぼとぼと怜は教室を出ていってしまった。
僕にとって怜はやっぱり憧れで、すごくて、キララを認めてくれる好きと言ってくれる相手だ。
こっちこそ無条件で認めてもらっていた。
キララを好きと言われた時は嬉しかった。
「ウソつき」
袋の中には、今日のための提案書が入っている。
毎回毎回これまでの反省をよく考えてくれている。
そして、改善の大切さを教えてくれている。
僕なんかよりよっぽどいい配信者になれる。いや、怜は……。
「さて、僕はどうしようか……」
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