第51話 日向からの告白
またも教室に呼び出すなんて、怜のやつ一体なにを考えているのか。
なんだかなにもされないはずなのに嫌な記憶がよみがえってきて頭が痛くなってくる。
本当に、大丈夫だよな。
「しっかし毎度のことだが、なにをするのかぐらい事前に教えてくれてもいいじゃないか」
教室に一人、僕はぶつくさつぶやいていた。
怜の頼みで教室に呼び出されていた。なんでも、日向のことを対処するためらしい。どう対処するのか、具体的な方法は聞かされていない。誰が来るのかもわかっていない。
とにかく、また少し早く来てしまった。今回は大神くんが教室にひそんでいることはなかったが、あとからやってくるとかじゃないよな。
いや、大神くんはそんな状況じゃないはずだから大丈夫、だよな……。
ああ、不安だ。任せて本当に正解だったのか? よかったのか? うーん。でも、やる気は尊重したいし。
「ん?」
色々考えている間に時間が過ぎていたのか、スタスタと廊下を歩く足音が聞こえてくる。
一人分だ。
「……怜が日向を連れてきてくれるんじゃないのか? もう説得済みなのか?」
耳をすませて聞いてみるが、足音は何度聞いても一人分。
教室の前で音が止まると、すりガラスに人影が映る。やはり一人だ。
いまいち誰かはわからない。
ガラガラガラッと音を立て、ドアが開かれたことでようやくその人が日向だとわかった。
事前に誰が来るかくらい本当に教えておいてほしい。
いや、この状況でどうしろというのだ!
「や、影斗」
少し緊張した様子で右手を小さく上げながら日向が言ってきた。
「おう」
久しぶりに話しかけてきてくれた気がして、僕も手を上げて返事を返す。
くそ。なんか久しぶりとか思ったけど多分二日ぶりくらいだ。それだけなのに緊張する。
怜との関係がバレてるんじゃないかと思うと余計に緊張する。
この感じはどうなんだ? 日向は僕がキララだと知らないのか?
僕はどう立ち回るべきなんだ?
「「あの」」
声が被った。
「あ」
「いいよ。日向からで、レディファーストってことでさ」
知らんけど。
「ありがと」
情報が足りなさすぎるからなこちらから動くのは危険だ。
さて、どう出る。
「待たせてごめんね」
「いや、そんなに待ってないけど」
改めて時間を確認してみると予定よりもまだ数分早い。
僕が心配性で勝手に早く来ただけだし日向の謝ることじゃない。
しかし、日向は首を横に振っている。
「ううん。今じゃなくて、返事のこと」
「返事……?」
僕なにか言ってたか?
いや、なんだろう。言ってたような気もする。
変な汗が体中からドバッと吹き出てくるのを感じる。
「影斗、わたしに言ってくれたよね。わたしが影斗をマネジメントするのは将来でいいって、わたしが隣にいる時間がずっと続けばいいのにって」
僕、そんなこと言ったか? ……言ったな。
あの時そういえば日向の反応変だったような。
「だから、わたし影斗のことをマネジメントさせてください。わたしの隣にいてください。わたしとつき合ってください!」
ん? つき合ってください……。つき合ってください!?
「ちょ、え、日向。な、え……え?」
「じ、時間が空いちゃったから影斗はダメだと思ったんだよね。でも、わ、わたし、ね? 怜ちゃんと話して色々考えて、それで、怜ちゃんに取られたくないって思ったの。でもね、怜ちゃんとつき合ってたらダメだよね。それでもわたしは影斗への返事待たせてたから。本当はわたしがいいって言えばそれでいいのかもしれないけど、影斗の返事を待つね。怖いけど、わたしは影斗を信じてるから。怜ちゃんとはそうじゃないって信じてるから! それじゃ」
「ちょ、ちょっと待って!」
自分の言うことだけ言って日向は出て行った。
僕の言葉も聞かずに教室を出て行った。
出て行ってしまった。
「……怜とつき合ってないし……」
一人残された。
体が熱い。
というか、僕、そんなこと言ってしまってたのか。多分、怜との関係に疲れてる瞬間だろうな。
「マジかよ。これが任せてくれってことか?」
でも変じゃなかったか? そうじゃないって信じてるから。って言い方はおかしくないか?
でも、怜のせいで頭メチャクチャになってるんじゃないかこれ。
「おいおいおいおいおいおい。僕には日向はもったいないだろ。なに言ってんだよ僕。けど、断って傷つけるわけにも。そもそも気持ちは単純に嬉しいし。でもつき合うことも傷つけることになるんじゃ……わからん」
怜と話してって言ってたな。
任せてって本当にこういうことだったのか?
つき合ってるんじゃなくて影斗の相談に乗って二人の恋を応援してたの! 的な?
嬉しいけどしてやられた! 日向の変化は怜を恋敵として見てるってことだったのか。
じゃあ、僕は単純に二股してるクソ野郎だと思われて避けられてたってこと?
じゃあ、怜は応援してただけだからセーフ?
「ん?」
そんなことを考えていると、いつの間にかドアの前に誰かが立っている。
足音を聞き逃していた。こんな時ほど人の接近に警戒しないといけないのに。
ヤバい。逃げ場がない。
僕が動くより早く、教室のドアは再び開かれた。
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