第26話 コラボをしよう:2
怜おすすめのVTuberさんを調べてみるとすぐに見つかった。
アカウントが消えていたり、ブロックされていたりしなかった。
「と、とりあえずよかった」
いや、いなかったらダメだったよーって言えたのに。ってそんなことにはならないか。怜が調べてるんだし。
えーと。僕より活動期間は短いけど、登録者の伸びは僕より早い。河原アイリーンさんか。
「ん。ブロックされてないけど、よくみたら、フォ、フォローされてる! いったいなぜ」
ファンとか言ってくれてるのかな。怜の調査ではそこまでは書いてないけど。いや、普通に見られてるだけかも。
フォロー返しとこ。ついでに僕のフォローしていた相手を確認してみる。何人かただ僕がファンでフォローしていたVTuberの方々と相互になっていた。
「へ」
思わず変な声が出て口を抑えてしまう。
さすがに、全員相互というわけではない。始祖とも言うべき方はもう活動をしていないため相互になっていないが、チラホラ、僕よりも大手からフォローを返されている。
お、落ち着け僕。おお落ち着け。
「なにか送ってみ、いやいや、やめとけ、なに送るんだよ。急に失礼だろ」
深呼吸、深呼吸。
僕の相手は河原アイリーンさん。
「ええい!」
よし、まずはDMを開けたぞ。まだ通知とか飛ばないよな。大丈夫だよな。
あんまり使わないからわからないな。
相手も個人勢、こっからでいいんだよな。
いや、今送ったら迷惑かも。じゃあいつ送るんだよ。
「うわああああああ!」
僕は気を取り直して、河原アイリーンさんにDMを送った。送ってしまった。
誤字脱字はなさそうだし大丈夫のはずだ。
既読、返信! 早い! 影斗は逃げられない!
「こちらこそお願いします。日程は、は?」
二つ返事で受け入れてくれた。
募集していたから対応が早いってか? こんなものか? い、いやまだ怜が仕掛けたドッキリって話も。いやいや僕のチャンネル実写じゃないし。
混乱しながら、そして社会人経験がないことで多少迷惑をかけた気がするが、誠意を持って伝えることは意識した。
対応が早く、優しく、そして何よりいい人だった。
「よかったー」
ほっとして背もたれに体を預ける。
脇汗が半端じゃない。
でも、とてもいい気分だ。嬉しい。これが達成感。
コラボしてくれる相手がいるなんて、実際にキララを認めてくれる人がいるみたいでとても嬉しい。
いや、日向や怜が認めてくれていたけど、なんて言えばいいのかわからないが、ちょっと違うのだ。
「ああああああああ!」
などと叫びつつ、送る時、タイミングは死ぬほど迷ったし、送ってみてもこれでよかったのかわかっていない。
それに、変な気がして送ったあとで後悔するし散々だった。けど、いい経験だ。
気づけば三時間くらい経っている。でも、できた。これは僕にとって偉大なる一歩を踏み出したのだ。
コラボ当日。
前日から不調になる。いつもの緊張と腹痛。ってそれ、配信始めたばっかのことやないかい!
不安でいっぱいだし体は緊張で熱っぽいが、自分にノリツッコミできるくらいの余裕はある。
お、おお、落ち着け。
「今日はコラボ当日だったわね」
まともに取り組む初の提案に智将である怜は元気だ。
「そ、ソウダネ」
他人事だと思って。
「って、ガッチガチじゃない」
余裕はあれども、僕はあの怜たちとの昼食以上には緊張している。
まだコラボまで時間があるのに食べたものが出てきそうだ。
「キララとしてやってきた期間は相手よりも長いのよ。むしろ、先輩として頼られるくらいの気持ちでいいんじゃないかしら」
ぽんと肩に手を乗せ言ってくる。
くそう。どうしてここでプレッシャーをかけてくるんだ。
自分でもわかるくらいに余計ガッチガチになってしまったじゃないか。
しかし、ホームでよかった。
よく見ると、怜も隠そうとしているが、肩に乗る手は震えている。いつもよりソワソワしているし、なんだか落ち着かない様子だ。
「キララのコラボ楽しみか?」
「そりゃ、そうよ」
キララの話だというのに、怜の表情は硬い。反応も薄い。
怜だって自分ごとのように気にしてくれているのだ。
本人であり、本来ならファンでいい怜がこうなのだ。緊張してもやっていくほかあるまい。
「こんにちはー! みんなに届ける明けの明星! どうもー雲母坂キララでーす!」
あいさつは上場。声は出てる。
放送では部屋に一人。
怜はきっと僕を見てる。
「そして、今回は初めての試みとしてコラボ放送です。なんと現在話題の方に来ていただいています。どうぞ」
「こんにちは! 河原アイリーンです!」
僕より聞き取りやすい声が出てる。
なんか場慣れしてる。すげぇ。
でも良かった。どうやらファン層が被っていたらしく、アイリーンさんは視聴者さんの大半から知られているようだった。
やる前は吐きそうだった僕だが、時間が経つにつれてそれも次第に気にならなくなっていった。
終わってしまえば無茶苦茶楽しく実りの多い放送となった。
「はは。すげえなコラボ。まあ、見てて楽しいもんな。どっちも知ってたらなおさら」
僕だって一視聴者として、コラボしないかなーとか夢想することはよくある。
けど、実現するのなんてほんの数件ぐらいのものだろう。
そもそも知り合いみたいに話していれば別だが、そうでもなければまれだ。
「しっかし、これでコツはわかった。相手の方でもラクショーだぜ」
一回やってしまえば大丈夫。
そう思ったのは間違いだった。
アイリーンさんの方にお邪魔する時は、また別の空気感があり、そして同じように緊張していた。
少しラクだが、状況が違うせいで緊張具合はあまり変わらない。なんか口の中が酸っぱい。
前よりも手汗、脇汗がひどい。
多汗症かよ!
「コラボ放送見たよねみんな。今回はあの方がワタシの方に来てくださってます! お願いします!」
「こんにちはー! みんなに届ける明けの明星! どうもー雲母坂キララでーす!」
緊張しながら声を出すのは本当に吐きそうだった
でも、
「キャー! 本物のキララちゃんだー!」
とアイリーンさんに一番喜んでもらえたのは僕としてはとても嬉しかった。
同業者の反応を初めて見たが無茶苦茶喜んでくれてるように見えた。
コラボはただの食わず嫌いだったと気づくことができた。
アイリーンさんも僕の方では遠慮、いや、緊張していたことが伝わってきた。
場慣れしていると思ったが、相手の方では萎縮してしまうものらしい。なんか前回よりもはっちゃけて見えた。
「アイリーンちゃんはすごいよね。動画を見てきたけど、コツコツ続けて工夫もすごくて」
なにより好感が持てた。
「いやぁそれはキララさんこそですよー」
なんか持ち上げられた。
それに、なんだか声に聞き覚えがある気がした。もしかしたら、声優さんか、その声真似の人だろうか。
しかし僕にはよくわからなかった。
気になったものの、そこはなんとなく触れないでおいた。
わざわざ話している様子もないし、掘らない方がいいだろうと思ったからだ。
それでもお互い、初めてのコラボ放送は事故もなく終わった。
アイリーンさんが初のコラボ相手で心から本当に良かったと思う。
「こりゃ、さっそく怜に感謝しないとな」
怜は人の可能性を指摘できるいい人だ。脅されたけど。
結果として登録者の伸びもいつもよりよかったしやっぱり感謝しないとな。そこは悔しいけど。
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