第24話 停学、そして親に諦められる:大神視点
「はあ……兄さん。バカなことするのはやめてくれないかな? 僕はまだ中学生で学校が違ったからいいけど、同じだったら僕が恥を描くことになるんだよ? 僕までバカだと思われるんだよ?」
「なんだとユウセイ! おーおー。それが兄に対する口の効き方か? なってないんじゃないのか、あ゛?」
夕飯になっていきなりユウセイがイキったこと抜かしやがった。
なんだこいつ。弟だからってなにをしても許されると思ってるのか。
そんなの幼稚園までだろ。
「いいや、ヒロタカ、今回はお前が悪い。お前はもう高校生だ。多少多めに見てきたが、それは間違いだった」
「は? なに言ってんだよ親父」
俺が間違えたってのか?
いや、確かに間違えたかもしれない。
庄司怜にはめられ、教師連中に俺のやってることがいじめだと判定された。
そして、他のいろいろなこととまとめられて停学。
途中から話を聞いてなかったから覚えていないが、三ヶ月くらいは自宅待機ってことらしい。
ここまでの流れは周りも俺もミスしすぎだ。俺のアレはいじめじゃない。
「親父、か。私は父親をやれていなかったな」
突然悟ったように、親父は頭を押さえてため息をついた。
「いいか、停学は目に余る」
「目に余るじゃねぇよどうにかしてくれよ! 金ならあんだろ?」
「世の中をなめるな!」
こんなに大きな声を出した親父は初めて見た。
一瞬、その場が凍りつく。
いや、問題を解決するための金だろ。
どうして今使わないんだよ。俺は親父が金持っててそれで俺もサッカーの勉強ができたって知ってんだ。
それを渋るのはあれか? ケチだからか?
「今までかけてきた迷惑を返すのは本来お前の役目だ」
「迷惑?」
「迷惑もわからないのか。お前、自分がしでかした事の重大さを理解してないのか?」
「しでかしたって、たかが停学だろ?」
「たかが……」
「本当にやめてほしいよ。こんなのが僕の兄なんて考えるだけで反吐が出る」
母が声を殺して泣き出した。
ユウセイまで苦虫を噛み潰したみたいな顔で頭を押さえている。
なんでこんなに俺が悪いみたいになってるんだよ。俺は正義だろ。いつだってジャスティスだ。
今もきっと他の学年のやつらは、
「ああ。どうして大神様が来てないの?」
「あの方がいないと学校へ行く気がしないわ」
「私、つきあってもらうはずだったのに……」
とかやってるはずなのだ。
停学なんてしている暇はないというのに、家族がこれじゃ全く役に立たない。
まあ、他人の力を頼るなんて無能のすることだ。
影斗も庄司も群れないと無力だったしな。
「わからないならいい。もう好きにしなさい」
「え、いいのか? いや、少し待ってくれよ」
あっけな。そんなに自分がダメ人間ですって簡単に諦めちゃうの?
それでも俺の親か?
はあ、本当に頼りないな。
子どもを守る甲斐性ってのを見せてほしいものだね。
学校に不当な処分だって訴えてほしいくらいだったのに。
「あのさ」
「兄さん。見苦しいよ」
「なに言ってんのお前。俺が見苦しい?」
「そうだよ。こんなになるまで好き勝手やっておいて親に泣きつくなんてさ。見苦しいだろ? それに、兄さんもう高校生だろ? 義務教育は終わったんだ。親の義務はもう果たされたんだよ」
「親の義務?」
「わかってないみたいだね。もう兄さんの責任なの。いやーでも本当に僕がまだ中学生でよかったよ。身近にこんな反面教師がいたのはものすごい勉強になったからね」
「おい。反面教師って」
「父さん、母さん。これからは兄さんの分まで僕が頑張るよ。そうだ。高校受験の模試の結果なんだけど」
「は。おい。なんだよそれ」
もう俺の話を聞いてないのか?
俺はもうこいつらの家族じゃないってのか?
俺ってそんなちっぽけな人間だったのか?
は、ははっ。ありえない。ありえないだろそんなの。
だって俺は大神ヒロタカ。成績優秀、頭脳明晰、運動神経抜群で眉目秀麗な男、大神ヒロタカだぞ。
「なあ」
「期待してるぞ。ユウセイ」
「ええ。期待してるわよ。あなたは自慢の息子だもの」
「ありがとうございます。そして任せてください。必ずや役立たずの兄に代わり、僕が両親の期待に応えてみせます」
「お、俺は……?」
「まだいたのかヒロタカ。もう飯は食べたんだろ? 部屋に戻ればいいじゃないか」
「え」
「お前は自由だよ。自由なんだ。悪かったな。父さんたちが期待をかけすぎていたみたいだ。できないことはできない。そうだったんだな。わかってやれなくて悪かった」
「え、いや。ちが」
別に期待に応えられなかったわけじゃないだろ。
もう、俺の話は終わり?
終わり?
俺の物語はここで閉じる?
俺は、俺は……。
「そうだ。一応まだ高校には在籍してあるんだ。この間のテストは赤点ギリギリだったそうじゃないか、まずは」
「うるさいな!」
俺はイスも皿も吹っ飛ばしてリビングを出た。
俺の部屋。
俺だけの部屋。
俺のための部屋。
「はあ。はあ。ああ!」
さっきからクッションの中からワタが出てきている。
親は役に立たない。このクッションのように
俺が使ってやろうと思っていた弟まで勝手に動きやがる。
家族は誰も役に立たない。
「クソ。山原田。五反田。スパイになるつもりはないじゃねぇ。クソ」
ゴンッ。と机を叩く低い音。
あいつらは裏切りやがった。
誰も彼も使えない。
「こうなったら。奥の手。俺の力を使う準備をしないといけないってわけか……」
まあ、いい。
そうと決まったらやるだけだ。
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