第23話 大神くん停学だって:影斗視点
もう不安になることもなく登校できている。できてしまっている。
ちょっといまだに信じられない気持ちもある。
しかし、同時にめちゃくちゃ心が平穏だ。
僕は高校に入ってからというもの、朝、大神くんに遭遇しないでいられることがどれだけいいことなのか知らなかったらしい。
「よお。影斗! おはよう」
「おはよう影斗」
「お、おはよう。山原田くん。五反田くん」
なんか大神くんがいなくなってから、やたらこの二人が話しかけてくる。
申し訳ないと謝ってきていたから、一緒になってやっていたことを気にして、気にかけてくれているのだろう。
じゃっかん、僕の周りにいる人目的な気もするけど、男なんてそんなものだ。
「どうしたどうした。俺たちは話しちゃダメってか?」
「美少女じゃなくて悪かったな」
「そういうわけじゃないけど」
男子相手の方が少しは気がラクだ。もちろん、それでも日向ほどではないが。
いや、今は緊張でうまく話せないのではない。
僕の視線を追うように、二人も視線を動かした。その先にある大神くんの机を見てしまう。
いや、僕だけではない。クラスメイトたちや他のクラスの生徒、他学年の生徒まで廊下に集まり一つの机を見ているのだ。
「大神か」
「影斗が気にすることじゃないさ」
「わかってる」
大神くん、彼は想像以上に人の注目を集める存在だったようだ。
僕のことだって注目を集めるためにやった遊びの一つに過ぎなかったのだろう。
見た目はいいし、運動もできる。いわゆるモテ男ってやつだろう。
だからこそ、今向けられているのがめずらしいものか、汚いものに向けられる目線なのが少し哀れだ。
「……そういえば聞いたか? 大神、停学らしいって」
「……たしかに二日続けて来てないしありえるかもな」
「え?」
ひそひそと、しかし僕に聞こえるように二人は言った。
「うわさだよ、うわさ。でもよかったな。本当なら当分会わなくて済む」
「本当なら俺もよかったよ。ついてかないのケッコー怖かったし」
「おっと、そろそろ行くよ。それじゃ」
「そうだな。彼女に怒られないうちに俺たちは消えるよ」
「あ、ちょっと」
停学。大神くんが停学。大変だなーと考えたところで、二人の言葉を反すうする。
彼女……?
五反田くんと山原田くんは少し離れたところに移動してからニヤニヤ笑いで僕を見ている。そしてもう一人、今度が僕がその目線の先を見ると、そこには戻ってきた日向の姿があった。
さっきまで女子たちと会話していたはずだが、日向は話を聞いていたのか、それでもまんざらでもなさそうにしながら隣の席に座った。
そこ、日向の席じゃないんじゃ。
「あんまりうわさ話ってしたくないんだけど、影斗も気になる? 大神のこと」
やっぱり聞いていたらしい。
「えーと、そんなに。あ、いや……まあ、そりゃ多少は気になる。いじめられていない方がいいんだけど、いないならいないで、今度はそれが不気味に感じられて、これはこれで怖いっていうか」
なにか企んでるんじゃないかって思ってしまう。
「そうだよね。わたしは見てるだけしかできなかったけど、同じ気持ちだもん」
昨日は結局丸一日見なかった気がする。思い返せば、怜に呼び出された時に遭遇したきり会っていない。
丸一日見なかっただけで停学ってのはどうなんだろう。それくらいのことをしていたと思われているのか。
「静かにー。席に座って」
気づけばホームルームの時間になっており、担任の先生の号令で散り散りになる。
日向も自分の席に戻り、話を聞く姿勢になっている。
しかし、ホームルームでも特に当たり障りのないものばかりで大神くんについては、あえて避けているのか欠席の理由も話されなかった。
「先生。大神くんが停学って本当ですか?」
「え……もうそこまで。オホン。来てないからって人のことを好き勝手言わないように。それと、授業に遅れるなよ」
「はい」
最後にデリカシーのないクラスメイトが聞いていたがはぐらかされてしまった。
だが、否定はしなかった。少しうろたえていたように見えたし。
結局、一限、二限、三限、四限、昼休みになっても大神くんは来なかった。
僕も、停学という話は本当かもしれない。と信じ始めていた。
戻って来るまでの間、僕は平穏な学園生活を送れるのかもしれない。
そう思っていた僕が間違いだった。
「いいわね影斗。今日は絶対よ」
「はい」
「敬語はなし、でしょ?」
「わかってるけどさ」
今日もまた怜たちと昼食を囲むこととなった。これはこれで平穏とは少し違う気がするのだ。
それに、なにやらやけに怜が気合い入れているし、嫌な予感しかしない。
「みんなうわさしてるけど、大神くん停学らしいわね」
案外ゴシップ好きなのか、いやしかし真面目な顔で怜が話を切り出した。
どうやら予想外だったのか、日向たち三人は意外そうに怜を見ている。こういう話をするキャラではないようだ。
「あれ、事実みたいよ。特別発表もしないようだけど」
そう言うと、怜はほめて、言わんばかりに僕にだけわかるような角度でキラキラとした目で見てきた。
尻尾を振っている幻覚まで見えてくる。
しかし、この人は本当に行動力の方向がなにかずれている気がする。
それでも無視はいかんな。
「怜が言うならそうなんだろうね。僕は少し気がラクになったかな」
できるだけ自然に言うと、なぜか僕の方にまで驚いたような視線が。
変だったか? あれ、そういえば怜ってみんなの前ではっきり呼ぶのってこれが初めてか。日向。足踏まないでくれ。
ま、まあ、怜の満足そうな表情、そして大神くんへの同情の視線を見れたし。
そうだな。大神くんのことは忘れよう。
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