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寝たふりして机に突っ伏していると近くから僕の配信について感想を言い合う美少女たちの声が聞こえてくるんだが!?〜あれ、僕をいじめてた彼はどうなったんだろう〜  作者: マグローK
第一章 VTuber雲母坂キララはじまり編

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第22話 キララとの出会い:怜視点

 私は影斗の家を出てすぐ、影斗の部屋を振り返った。


 見上げる高さにあるそこは普通の一軒家の二階。彼の部屋も普通の部屋だった。


 配信や収録のための機材が整っていることを考えれば、れっきとしたプロの部屋だろう。


 部屋を気にしている様子だったが、私としてもあちこち触ってあわよくば持ち帰りたい衝動を抑えるのに必死だった。


 そんな私が緊張していないなんて言ってもらえたのは、影斗が緊張しすぎて少し笑えてきたからだろう。


「ふう」


 やっと肩の荷が降りた気がする。


 そして、いいなと思う。


 あれだけの模様替えは家族の理解がないとできないはずだ。あれだけ部屋に入れればさすがにバレる。そんな量だった。


 影斗のお母様に、影斗の声を録音してくれないかと頼んだ時、こころよく引き受けてくれたこと。そもそも雲母坂キララのあいさつを知っていたことを考えれば、家族も理解があるということだろう。


 私の脅しが効果的だったのを見ると、本当はバレたくなかったんだろうけど。


「あー。いいな影斗。よかったなーキララちゃん」


 思わず本音が漏れる。


 そんな自分を笑いながら、私は影斗の家に背を向けて歩き出した。


 資料の反応を見れば、おそらく少しは使えると思ってもらえたのだろう。そのことで私は内心安心している。


 元々脅しでなく、実力で力になれると示せる自信はあった。


 でも、本当に受け入れてもらえるかはわからない。だから、受け入れてもらえるまで、提案を出すのに怖さもあった。


 それでも、影斗がキララちゃんのあいさつをしてくれたことで踏ん切りがついた。


「よしっ!」


 思い出しながら確認していると、だんだんと嬉しくなってくる。


 キララちゃんは一人でもすごいから、素直に協力を申し出ても受け入れてもらえないだろうから、脅しという手段を選んだ。


 でも、その素材である影斗の声を何度も聞いているうちに影斗の声だとわかっていても、キララちゃんを見ている時と同じ気持ちになっていた。いつの間にか影斗を意識しているのだ。


 こんなことになっている理由は、自分でもわからない。


 きっと、キララちゃんとの出会い方が悪かったのだろう。




 あれは、テストの成績がよくなかった日のこと。


 お母様にテストを見せ、明らかに不機嫌な態度をぶつけられた日のことだった。


「今日はもう、お部屋で勉強なさい」


 最後にそれだけ言うと、その日は私の顔を見てくれなかった。


 お母様は、どんなテストだとしても九割以上の点数を取れていないと機嫌が悪くなる。


 それは小学生からの経験で知っていた。


 そして、冷たく突き放された私も性格が悪くなるのだ。


 これまで口論になっていないのは、私が意気地無しだからだろう。


「はあ」


 ドアを閉め、そこでため息をつく。


 今思えばろくなことをしていないと思うけど、そんな日の私がやることと言えば、勉強の前に全く再生の回っていない動画をネット上で探してきて、それを見ることだった。そして、それで気を紛らわせることだった。


 理由は単純だ。誰にも認められず、そんなことをしていても生きている人もいるんだということを確認するため。


 何本か動画を見ていると、同情と共感と侮蔑で自分の悩みがちっぽけに思えてくる。


 これを始めたのは夕飯の時に馬鹿なことをやっている人がテレビで取り上げているのを見た時からだ。


「こんな人にはなっちゃダメよ」


 と言われたのと同時、みんなまともじゃないんだと突きつけられた時でもあった。


 私はなにを悩んでいるのだろうと思い知らされたのだ。これが一度目の人生を狂わされた瞬間である。


 だから、テストがよくなかった日は、こうして底辺の動画投稿者を見て気を紛らわせるのだ。


 そして、その日も気を紛らわせて終わるはずだった。


「こんにちはー! みんなに届ける明けの明星! どうもー雲母坂キララでーす!」


 一人の女の子が配信していた。だから、誰も見ていないのに配信なんかしてまたバカやってると思った。


 でも、私が冷やかしにコメントしたら、その人はできなかったことができた子どもみたいに、心の底から嬉しそうな声を漏らした。


「キャー。コメントありがとー」


 って、音割れもひどい音で言ってきた。


 その時、自分は何をしているんだろうと思わされた。


 私はバカにしてるだけだけど、この子は他の人に向けてアウトプットしてるんだ。


 だから、ちょっとしたフィードバック、私のコメントという働きかけで、それだけのことで達成感を味わえるのだ。


「なに、これ」


 不思議と胸がぽかぽかし出した。


 顔まで熱くなってきて、なんだか変な気分だった。


 喜んでくれているのに、私は今までこんな人たちのことをバカにして、自分のうさ晴らししか考えていなかった。


 頬に伝うこれは。


「涙……?」


 二度目の人生観を狂わされた瞬間だった。


 それからは、「こんばんは」とか、「いつも見てます」 だけでもコメントを残すようにした。


 その子が配信してる時はほとんどといっていいくらい見て、高評価も押すようになっていた。


 最近までグッズがひとつもなかったから、手作りまでしてしまった。


 そのグッズをSNSに投稿もした。




「こんにちはー! みんなに届ける明けの明星! どうもー雲母坂キララでーす!」


 家に帰ってきてから、私は影斗の声を聞いた。


 人をバカにするより、応援した方が元気が出た。素晴らしいことだって知ることができた。


 そして、このことを影斗に話した時のことがよみがえる。


「とまあ、これが、私のキララちゃんとの出会いかしら」


「それで、クラスにも布教して回ったと」


「ええ、そうよ」


「今の話を聞いてる限りだと、ずっと応援してくれてた冷や水さんの方か?」


「え!? わかるの?」


「まあ、印象に残ってたからな。それがまさか怜だったとは……」


「案外、たんぽぽぽさんも身近にいるかもよ」


「まさか現実まで広めていて、本物のキララちゃんに会えるとは思ってもみなかったけど……」




「ふ、ふふ。ふふふふふ」


 私は元からキララちゃんに認知されていた。それだけで一年は生きられる。


「今日の配信もサイコー! かわいい。かわいいよキララたん!」

いつも読んでくださりありがとうございます。


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