第17話 引き止めてくる庄司さん
大神くんがいなくなった静かな教室。
少しだけ落ち着いた僕は余裕が出てきて、庄司さんに寄りかからずとも立ち上げれるほどまでには回復した。
「ごめんなさい」
そして、僕が落ち着き立ち上がる余裕が出てきてから庄司さんは僕に謝ってきた。
「朝、話したように私は木高くんのいじめを止めるため、裏で動いていたわ。もちろん大神くんに直接頼んだこともあった。でも、どうにも説得できそうもなくて。それで、これしか方法が見つからなかったの。おとりにしたようでごめんなさい」
どうやら、今の出来事は偶然ではなく、庄司さんが計画していたことのようだ。
おそらく、僕を呼び出して、大神くんも呼び出して、いつものいじめを再現。
そこに庄司さんや先生たちが入ってきて大神くんを取り押さえる。
たしかに、普段は巧妙に場所を選んでやっていただけに直接乗り込む準備をしていたら大神くんを取り押さえることもできるのだろう。
「そ、そっか。なるほど」
僕のさびついた頭でそこまで考えて、またその場に座り込みそうになった。
今日はなんだか、なにからなにまで庄司さんに圧倒されていて、思考が追いついていない。
正直、本当にここまでの考えが合っているのか自信がない。
少なくとも、庄司さんは悪くない。謝ってきているが、今日の僕は大神くんに一度も殴られることはなかった。
朝はみんなが守ってくれたし、今は殴られるその前に乗り込んできてくれた。
体を確かめてみても新しい傷は増えていない。昨日の傷が痛むくらいだ。喜ぶところはおかしい気もするが、今日の傷はない。気持ちは正直に伝えるべきだ。
「その、ごめ」
「いいよ。もう謝らなくていい」
さらに謝ろうとしてくる庄司さんの言葉をさえぎった。
「僕が感謝したいくらいだよ。助けてくれてありがとう。今日は殴られてないし、それに朝の大神くんの様子を見れば、それだけで普通の説得では無理ってわかるし。改めて、助けてくれてありがとう」
できるだけさりげなく、僕は笑っておいた。
笑顔は下手だけど、気持ちは伝わった気がする。
庄司さんも申し訳なさそうな顔をやめ、笑ってくれた。
「こちらこそありがとう。そう言ってもらえてよかったわ。本当にやってよかった」
そして、庄司さんはほっと息を吐き出した。
肩の力も抜けたように見える。
僕の方も庄司さんと話すのに慣れてきた。さっきの状況に比べればマシだからな。
「もう大丈夫かしら」
「うん。もう大丈夫」
「そう、よかった。でも」
「心配してくれてありがとう。それで、僕はこれからどうしたらいいの? 先生を待つとか?」
きっと報告しないといけない。
僕も被害者だが、当事者なのだ。
面倒臭いかもしれないが、報告は僕のやるべきこと。これ以上被害者を出さないために、僕の語れることを語る必要があるだろう。
「いいえ、その必要はないわ」
だが、意気込んでいたところへ入ってきた返事は僕の思っていたものとは違うものだった。
ふ、ふむ。なるほど。じゃあ、庄司さんがここに残った理由はそういうことか。
「ということは、庄司さんが先生に報告する感じ?」
「それも必要ないわ」
静かに庄司さんは首を横に振っている。
あれ? ってことは大神くんからの事情聴取で終わりってことか? それで済むことなのか?
いや、こういうことって加害者の言い分だけ聞くものだろうか?
面倒ごとに巻き込まれないほうがいいに決まってるけども、いいのか? それで。いや、違う気がする。
なら、残るは。
「えーと、じゃあ、僕が庄司さんに報告して終わり? 僕は大丈夫だし話はできるけど」
「その必要もないわ。私も見ていたし、無理に話さなくて大丈夫よ」
優しく笑いかけてくれる庄司さん。どうやら無理しているように見えたらしい。
たしかに、今もまだ混乱している。だが、今日の出来事は庄司さんの思うように進んだっぽいし、大神くんも庄司さんが呼び出したってことでいいみたいな雰囲気だったし。
ということは? 後日なのかな?
「じゃあ、帰ってもいいかな? 今日は本当にありがとう、庄司さん」
用もないのに学校に残っていても仕方がない。
僕の一日はまだまだ残っているのだ。
庄司さんに背を向けて帰り支度を始めようとする僕の手を、庄司さんが取った。
「え?」
「まだ、本題を話してないわ」
「ほ、本題?」
本題ってなんだっけ?
なにかあったっけ?
「そうよ。忘れちゃったの? 放課後、大切な話があるって言ったわよね。もしかして時間がない?」
「い、いや。大丈夫だけど」
あれ? 僕を呼び出したのは大神くんを捕らえるためだったんじゃないのか。いじめの現場を先生たちに見せる目的だったんじゃないのか? 違うのか?
どうしよう。振り返ってみたものの、ものすごく静かになってしまった。なんだろう。呼び出されて、話? 照れる、緊張する。
庄司さんはすでに僕から手を離していて、なにかを取り出そうとしていた。
「雲母坂キララ。キララちゃんって、あなたなんでしょ?」
僕の視界がゆがんだ気がした。
庄司さんは取り出したスマホを僕に向けて突きつけてきていた。
その画面には僕の、雲母坂キララのチャンネルがデカデカと映っていた。
見間違えるはずもない。それは、僕がデザインしたチャンネル画面だった。
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