第16話 庄司さんからの呼び出し2:影斗視点
「お前はこのまま俺に殴られる運命だったんだよぉ!」
大神くんが拳を振り上げた。
髪が引っつかまれてる。逃げられない。
痛い。涙がにじむ。
僕は庄司さんに呼ばれたはずだ。なんで、どうして教室に大神くんが来るんだ。
「せーのぉ!」
今までの一日は、全て泡沫の夢だったのか。
「そこまでよ!」
僕に大神くんの拳が飛んでくるその瞬間、割って入るようにガラガラガラッと教室のドアが開かれた。
そこに立っていたのは庄司さん。
なにが起きているのかわからず、僕と大神くんは合わせてぽかんと口を開けたままの固まった姿勢で動けなかった。
遅いよ庄司さん。
「だましたな庄司怜ィ!」
僕の髪をつかむ大神くんの手に力がこもった。
「いたっ」
「なんのことかしら大神くん。とにかくその手を離しなさい」
「庄司下がってろ。いくら庄司でも今大神の相手をするのは危険だ」
「はい」
誰かに返事するように庄司さんは後ろに下がった。
「おい! 大神ぃ! なにしてる。その手を離せって言ってるのが聞こえないのか!」
「まさか、いじめが本当だったなんて……い、いや、大神! 木高から離れろ!」
「木高を信じられなかった私に責任が」
なにやら色々なつぶやきとともに男性教師たちが教室になだれのように入ってきた。
これは、庄司さんが呼んだのだろうか。
「おい。大神! 聞こえないのか! いい加減にしろ! 木高から手を離せと言ってるんだ!」
「い、いや、これは……」
さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、珍しくしどろもどろになりながら大神くんがうろたえている。
「言い訳はいい! とにかく手を離せ!」
混乱した様子で僕の髪が大神くんの手から解放される。
それと同時に、大神くんは僕から引きはがされ先生たちに取り押さえられた。
あっという間に大神くんは無力化されてしまった。
これにはさすがの大神くんもじゃっかんおどおどしているように見える。初めてのことだったのだろうか。
「な、え、な」
口をぱくぱくさせて自分の状況がわからないと目を泳がせている。
「お前なにしたかわかってるのか!」
そう言われ、相手が教師だと思いだしのか大神くんの顔に少し表情が元に戻った。
「お、おい! そっちこそ離せ!」
「ふっ。それがお前なんだな大神」
「ああそうだ。俺の本性も見抜けなかった間抜けたちめ。あんたら教師なんだろ。こんなことしていいと思ってんのか!」
「あおっても手は抜かないぞ。もちろん。いじめがなければ許されないだろうな。いや、あっても許されないかもしれない。だが、こうでもしないとすぐに殴りかかる。そうだろ?」
「……」
図星なのか返事がない。
しかし、すぐになにか思案するように黙り込むと、大神くんは口を開いた。
「俺は! サッカー部のエースだぞ! こんな扱い許されるはずがない!」
「そんなこと今は関係ない。むしろ迷惑をかけているのはお前の方だ」
「クソ、クソッ!」
簡単に説得することを放棄すると、大神くんは暴れ続けた。
だが、大人二人に押さえられ、動きを封じられているため脱出はできないようだ。
その様子に、僕はこの間の僕のようだと感じた。
二人に押さえられ、大神くんにやられている時の、僕のようだと。
「本当にいじめがあったとは。いや、報告、それも勇気を出した本人からの相談があってもなお、取り合わなかった。すまない木高」
ぼけっとしていた僕に突然声がかけられた。先生に謝られた。
大人という存在は子どもに対して、間違っていても謝らないと思っていた。
なんとか誤魔化して間違っていなかったことにしようとする生き物だと思っていた。
だが、ものすごく遅かったが、この大人は僕にすまないと謝った。
「い、いえ」
怒りはあったが、少し気が抜けてしまった。
大神くんを押さえてくれたからかもしれない。
「大丈夫?」
「うん」
庄司さんが様子を見て、僕の背中をなでてくれた。
少し落ち着いてきた。
「それじゃ」
先生たちは大神くんを拘束したまま教室を出ようとした。だが、大神くんはまだ抵抗をするつもりのようだった。
「だましたなお前ら! そろいもそろって仲良しこよしってか? ふざけるな! 俺はな」
「ふざけるなはお前の方だ。さっさと二人から離れるんだよ!」
「クソがぁ!」
大神くんの抵抗むなしく、彼は教師たちに引きずられて連れていかれた。
一人、担任の先生だけが残り、僕たちの様子をうかがっていた。
「木高。すまなかった。俺は、俺は大神のやってることを気づいてなお」
「い、いや。いいですって。はは」
本当はよくない。だが、今はこれでいい。これしか言えない。
「本当にすまないことをした。俺は、なんて謝罪したらいいか」
床になにかがぽつぽつと落ちた。
どうしよう。大の大人が泣いている。
どうしよう。僕はどうしたら。
そんな内心をを察してくれたのか、庄司さんが僕を見て、先生に向き直った。
「木高くんも心を乱しているでしょうし、ここは私に任せてください。クラスメイトである私の方が話せることもあるでしょう。先生は大神くんをお願いします」
「そうだな。わかった。木高もそれじゃ」
「はい」
「本当にすまなかった」
先生は僕をまっすぐ見て確かにそう言いった。それから、先生は大神くんが引きずられた方向へ歩いていった。
「庄司、頼んだぞ」
と言葉を残して。
「はい」
庄司さんは高く通る声で返事した。
終わった? いや、なにが起きてたんださっきまで。
どうして大神くんが来た? 僕は本当にだまされたのか?
急に身体中から力が抜けて庄司さんに寄りかかってしまった。
「無理もないわね」
はにかみながら庄司さんはそう言ってくれた。
そのまま庄司さんはただ僕を見つめていた。
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