第15話 庄司怜の呼び出し:大神視点
「気に入らねぇ!」
俺はゴミが粉を蹴飛ばした。
軽く蹴っただけだったが盛大に吹っ飛び、中身がそこらじゅうに散乱する。
「チッ!」
俺は放置してその場を離れた。
イライラしてしょうがない。片付けなんてやってられるかってんだ。俺の仕事じゃあない。
原因は全部影斗のせいだ。俺をクラスでのけ者にされたあの後。影斗があの学級委員、庄司怜たち美少女グループと仲良くやっている。だが、そんなおかしいじゃねぇか!
影斗は俺にいじめてもらってるようなクソザコだろ? どうしてあんなやつと一緒にいるんだよ。
昼間、許しを請うなら許してやろうと教室をのぞいてみたが、どうして影斗と一緒にいるんだ。庄司だけじゃない! 関根も白鷺も入間も。それに、なんで期待の眼差しを向けられてたんだ。アイツが!
「あいつら、なに俺抜きで日常を過ごしてやがんだ」
影斗にはあんな期待されるような立場は似合わない。
そこは本来、俺のいるべき場所のはずだろ!
いや、落ち着け俺。起きたことは仕方ない。なにも俺はただ教室を出て行ったわけじゃないからな。
一日中学校をうろついてみたが、どうやら俺のことを悪く言ってるやつがいる。
しかもそいつはどうやら俺よりも信頼されている。そんなことがわかってきた。
一人二人ボコボコにすればそんくらい簡単にわかる。だが、誰なのかまでは口を割らなかった。
「つまらねぇ」
そいつがもしかしたら影斗なのかもしれない。そう思うだけで、身体中に虫が這い回るような気持ち悪さを感じる。
俺がいじめ役を影斗から任されていただけかもしれない。
いいや。絶対にそんなことはありえない。ありえないが、ほんの少し考えてしまう自分に腹が立つ。
「ああクソッ!」
花壇の花が舞う。
なにもスカッとしない。
「まあいいさ」
思わず俺の頬がゆるんだ。
そんな過去のことはどうだっていい。
俺は、影斗を熱っぽく見ていた、あの庄司怜から呼び出されている。大切な話とやらがあるらしい。
「ん。そうか。黒幕は影斗なんかじゃない」
そこで俺は合点がいった。
俺の分析ではこうだ。
影斗の気分は普段下がっている。あんなやつにいいことは一つもないだろうからな。しかし、庄司怜たち美少女が優しくすることで気分を上げる。だが、それは次のための布石にすぎない。
「きっと庄司怜の呼び出しは俺への協力の依頼だろう」
そうだ。そうに違いない。だからこその協力の申し出、そして影斗を潰す協定を結ぶんだ。
俺がやられているのもそのためだ。庄司は俺を省いているような演出をまでして、徹底的に影斗の信頼を得てそのうえで突き落とす。そういう作戦に違いない。
なぜなら俺が好きだから。俺に取り入るための壮大な計画。俺がバカなら実は影斗が悪役でしたって言われれば感謝でほれてしまうかもしれない。
庄司怜ならそれくらいできそうな雰囲気がある。俺まで操られていたってのがシャクだが。影斗にいっぱい食わせられるなら、そんなことはどうだっていい。
わざわざ庄司が走って頼みにきたんだ。俺はかなり頼りにされてる。
「そもそも鉄板だからなぁ! 手のひら返し。下げて上げてまた下げる」
これによって影斗の気分を底まで落とす。
二度と俺に対してなめたことできないように。他のやつらにも逆らわないように教えてやらないとなぁ。
にしても彼女たちもいい性格してんじゃねぇの。
俺すらだますなんてな。
「ケヘヘッ」
ここまで気づいてしまえば学校中が俺を無視していることも理解できる。
次のステップのための演出なのだ。
なんて大がかりなことをするのだ。驚かせやがって。
さて、情報も整理できたことだし、影斗が一回くらい女と飯食ったことも許してやることにしよう。俺は優しいからな。
山原田も五反田もそういうことなら話してほしいぜ。
「敵をだますにはまず味方からってか」
庄司怜。ありゃ軍師だな。
「おっそろそろ時間か」
俺は上機嫌のまま俺の教室まで移動し、今回は優しくドアをスライドさせて中に入った。
「よぉ……ハァ?」
「え……?」
教室に入ってから反射的に声が漏れてしまった。
庄司怜の代わりにいたのは影斗だった。俺たちのターゲットであるはずの木高影斗本人だった。
今回はまだ作戦会議じゃないのか? どうしてこいつがここにいやがる? もしかしてバレた。なら影斗の反応がおかしい。
「ははーん」
「ひっ」
怯えた様子の影斗を見て、賢い俺はすぐに理解した。そういうことかと。
いや、影斗の反応を見れば誰でもわかる簡単なことだろう。
あいつもあの女に呼び出されたのだ。この場でもう叩き落とすために。
庄司怜。俺に嘘をついたことは仕方ない。受け入れてやろう。あの女はジェットコースターのように一気に影斗の気分を地獄の底まで突き落とすのがお望みらしい。
なら、この俺が特別に手のひらの上で踊ってやんよ。
俺はピシャリッ! と音が鳴るほど手荒にドアを閉めた。
「よぉ、影斗くん。もしかして、だまされちゃった?」
「だま、された?」
グズでノロマな影斗くんの頭じゃあ、今なにが起きているのかまだ理解が追いついてないみたいだ。
ここは、優しい俺が教えてやるか。
「君みたいなのにいい話が回ってくるはずがないじゃあないか。え?」
「そんな。じゃあ、僕は……」
「そうさ。やっと気づいたか。じゃあいつもみたいにじっとおとなしくしてろよ?」
「い、いやっ。そんなっ……」
影斗くんはまだ信じられないらしい。
なら、痛みで俺が気づかせてやらないとな。
手当てのおかげで人に見られるような見た目になっているが、また隠さないといけないくらい痛めつけてやるよ。
庄司怜のお膳立てで影斗を痛ぶれるなら俺の力は使う必要がなかったな。
「やめ、離して」
ここまでやってもわからない影斗は俺に抵抗してくる。
弱々しい力で愚かにも俺に抵抗してくる。
「くふっ」
俺は思わず笑ってしまった。
「まだわからないのか?」
俺はそのまま影斗の髪をわしづかみにした。
「お前はこのまま俺に殴られる運命だったんだよぉ! せーのぉ!」
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