第14話 庄司さんからの呼び出し
昼食の時にキララについて話したその日の放課後。僕は結局、庄司さんから呼び出しを受けていた。
なんでも昼間言っていたとおり、個人的にキララについて話したいらしいのだ。多分。大切な話って言ってたからきっとそうだ。
僕としては、別に発言に気をつける必要はあるが、嫌じゃないし受け入れた。
しかし、呼び出しに安心して向かえるなんて初めてのことかもしれない。
それに、呼び出しの相手はクラスでも屈指の美少女、庄司怜さんだ。
「ふん。ふふん」
学校で鼻歌なんて初めてだが、浮き足立つのも仕方ないことだろう。
今日は一緒に帰れないと言ったら日向からジト目でにらまれたが、別に日向はただの幼なじみだし、にらまれることじゃないような気がする。
ま、いいか。心配してくれているのだろう。
先ほどまで図書室で自習しているフリをして時間を潰し、僕は、人のいなくなった教室に戻ってきた。
「あれ?」
早く着きすぎたのだろうか。僕はそう思って黒板の上の方にある時計を確認した。
しかし、早すぎるということはなかった。あと少しで約束の時間になる。はず。なんだか舞い上がって記憶があいまいだけど。
まあ、庄司さんがいないってことは時間より早いってことで、焦る気持ちを抑えきれなかったってことなのだろう。
やることもないため、僕は庄司さんに呼び出された時のことを思い返すことにした。
「また機会があれば話しましょ」
昼食の時に庄司さんはそう言った。だが、結局昼食中には具体的な日取りなんかは決まらなかった。
当たり前だ。庄司さんの優しさだからだ。僕もただの優しさでそう言ってくれてるだけだと受け入れていた。個人的になんてただの世間話みたいなものだろうと。
それでも、多少本気で取り合っていたのか、日向は僕をにらんでいたし、白鷺さんは日向をからかい続けていて、関根さんはやけに楽しそうにニヤニヤしていた。
そして、じっと僕を観察でもするように庄司さんは見つめてきた。
今でもこんな状況で女子四人と昼食を食べたことは信じられないし、まともな思考も働かず、なにを食べたのか思い出せと言われてもできそうもない。
「はぁ。落ち着け自分」
僕はそうやって一人廊下に出て、ほほを叩いていた。
通り過ぎるクラスメイトたちからさっきのことを茶化されて、現実だと認識させられるせいで、なかなか心臓は静まらなかった。
何度も小突かれて、いじめとはまた違うくすぐったさを感じつつも、少し遠くに避難してから僕は少し冷たい壁に体をくっつけていた。
再び、肩をちょんちょんとつつかれて、またかと思って振り返ると、僕の頬に指が突き刺さった。
まさかの庄司さんだった。
「ほへ」
変な声が出た。
こんなちょっかいするんだ。と考えたところで思考も動きも止まってしまった。
「ちょっと話しましょ」
僕はなすすべなくうなずいて庄司さんについて行った。
あの庄司さんが、本当に僕一人のタイミングを見計らって話しかけてきてくれたのだ。
こんなことは想定していなかった。
人通りの少ない最上階の端の端、なにかの準備室の前まで来て庄司さんは止まった。
「木高くん」
「ハイッ!」
「そんなに緊張しなくて大丈夫よ」
「そうかな? ハハハ」
でも、緊張するなって方が無理だ。
さっきはまだ日向がいたけど、一対一なんて、そんなの緊張するに決まってる。
「無理もないわね。私だって緊張するもの」
「庄司さんでも?」
「するわよ。だから、変なことを言う前に単刀直入に聞くわ。木高くん、今日の放課後って空いてる?」
「そんなに長引かないなら空いてるけど」
配信に影響がないなら。
「そう。じゃあ、一人で私たちの教室まで来てくれないかしら」
「えーと……」
「みんな教室を出てからまた来てほしいの」
「なるほど」
「そうね、普段なら三十分ってところかしら。それくらいすればみんな教室を出るはずよ。だから一度出てから、三十分くらい経ったら戻ってきてもらえる? 大切な話があるの。お願いね」
「う、うん。わかった」
「他言無用でお願いするわ」
「もちろん」
「それじゃ、また放課後」
そうだ。こんな感じで僕は庄司さんに呼び出された。
あの場では結局キララについて話はしなかった。
大切な話、という言葉でドキドキしてそれどころではなかった。
今でも思い出しただけでドキドキしてくる。
女子から一対一で頼み事をされ……日向にわたしも女子でしょ怒られそうだが、それは、なにか違う。
なんと言うか大事なのは、教室に呼び出されて、しかもそれが大切な話っていう流れだろう。一体これからなにがあるのか。
「いやいやいや、きっと不純なことじゃないだろう。ないはずだ。相手は庄司さんだぞ。うん」
自分に言い聞かせるように声を出し僕は自分を納得させる。
そうだ。昼間、表情をコロコロ変えて、普段のクールな素振りが隠れてしまった庄司さんだ。
きっとキララのことについて、僕から根掘り葉掘り聞き出そうとしているのだろう。
いや、それなら余計なんで? 僕がキララだって知らないはずだし。ボロは出してない、よな?
そもそも別に昼間あそこで話せばよかったんじゃないか。
「そうだよな。うん、うん。あれ?」
本人とわからない程度なら恥ずかしいけど話すつもりくらいはあるけど、じゃあ、どうして? 時間がなかった?
でも、長引かないならって前置きはできたはず。
僕の疑問について答え合わせをするように教室のドアが開かれた。
「え……?」
そこには意外な人物が立っていた。
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