第12話 美少女達と昼食
四限まで授業が終わって、ようやく一段落する余裕ができた。
これまで混乱で授業が呪文のようだったが、なんとか今朝起きた出来事がどんなものだったのか落ち着いて理解することができてきた。
どうやら僕はクラスメイトたちに守られて今日のいじめを回避できたらしい。
改めて。
「クソがぁ!」
そう言い残して走り去っていく大神くんの背中が今も目に浮かぶ。
しかし、これは今朝のことを思い出して今を見ないための思考だ。
まさか、大神くんのことを考えることが現実逃避になるほど衝撃的な出来事が起こるなんて人生なにが起きるかわからないな。
僕は今ものすごく動揺している。うん。そうだ。これは動揺だ。
なぜなら今、僕は昨日話を盗み聞きしてしまった美少女グループとなぜか昼食をともにしているからだ。
「影斗。わたしの玉子焼き食べる? 影斗玉子焼き好きだったよね?」
日向が僕のことを見上げながら上目遣いでそんなことを言ってくる。
玉子焼き好きだっけ?
「えーと。うん。好きダヨ? せっかくならもらおうカナー」
僕は語尾がカタコトになりながらも日向に返事を返す。いやなに、今さら日向に対して緊張しているのではない。
いかに、学校で久しぶりに昼食を一緒に食べるからと言って、それぐらいで緊張するような関係じゃない。一緒に寝たし。あれは事故だけど。
そうじゃない。
今、問題になっているのはそこじゃない。
「へー。木高くんって玉子焼き好きなのね」
「なんだか意外。別に責めてるんじゃないけど」
「日向のだからじゃないのぉ? あーんしてあげたらぁ? 若菜だったら嬉しいなぁ」
「もーやめてよ若菜ちゃん」
気づけばこんなことになっていた。
ただでさえ、才色兼備で文武両道の学級委員庄司怜さんがいるだけではない。
それに加えて、モデル顔負けなファッション女子、金髪に見える色の髪を横でまとめているハーフとうわさの関根フィアラさん。
幼い子供を思わせる無邪気な感じの肩には届かないくらいまで髪を伸ばした白鷺若菜さん。
そして。
「しょうがないなー。影斗、ちょっと恥ずかしいけど、前にもあったしね。はい、あーん」
「え!? あーん」
なぜか白鷺さんに乗せられて、僕の口に玉子焼きを運んでくる、見た目は僕と不釣り合いなほどかわいい幼なじみの入間日向。
僕はこんな美少女四人と昼食を一緒に食べていた。
口の中にはおそらく日向が手作りしたのだろう玉子焼きが入ってくるが、緊張しすぎて味がわからない。
普段はいつ大神くんにやられるかわからないことでビビりすぎて味がわからないのだが、今日は緊張のせいで味がわからない。
それでも、なんとなくいい匂いはする気がする。
「どう? 味はどう?」
「へ?」
まさか感想を求められるとは、そこまで考えられなくなっている自分に驚きながら、僕は少ししか口に残っていない玉子をなんとか味わおうとする。
ゴクリ。
そこで気づく、今飲み込んだのが玉子焼きの最後の一欠片だったことに。
日向が料理なんてしてるんだー。とか現実逃避気味の思考しか湧いてこない。
僕は本当に玉子焼きを食べたのかあやしいほど自覚がない。ヤバい。
「どう……?」
僕がいつまでも黙っているせいで、少し涙目になりながら、日向は僕のことを見上げてくる。
まずい、周囲の視線が僕への殺意に染まっていく。
「食べ慣れすぎちゃってぇ、味がわからないとかぁ?」
「い、いや!?」
声が裏返る。
楽しそうに笑う白鷺さん。
「もう。やめてあげてよー」
「あはは、ごめんごめん。緊張しなくていいよぉ」
なんて言って気を遣ってくれる。
だが、なぜか僕が日向以外と話すと、日向が明らかにムッとする。
どうしろと? 助けてくれよ。
もういい! きっとおいしかったんだろう! そうに違いない! 日向が作ったんだから!
「お、おいしいヨ」
なんとか言葉を発すると、日向にも聞き取れる言語になっていたらしく、嬉しそうな笑顔になった。
そして、なにが起きたのか反対側から重力を感じる。
「かげとんはいつもひなたんの手料理食べてるのぉ? いいなぁ。ずるいなぁ」
かげとんとは僕のことだろうか。ひなたんとは日向のことだろうか。
あだ名なんて初めてだ。
感動した。
「いいなぁ。思い出してる感じだぁ」
「そんなんじゃないってー」
照れている日向。今僕は白鷺さんに寄りかかられているのだが、これはいいのだろうか。
まあ、日向の手料理なんてこれが初めてのことだ。本当にそんなんじゃない。
そもそも、日向は僕にはもったいない。もっといい人がこれから現れることだろう。
それより、日向は結構いじられるようなやつだったんだな。僕にはよくわからない扱いを受けている。
それもまんざらでもなさそうだし、信頼し合っているのを感じる。
人間関係構築がうまくいっているようでよかった。
「コホン」
あからさまな咳払いをしたことで視線が一気に庄司さんに集まった。
「楽しそうなのはいいことだけど、そろそろ本題に入りましょ?」
庄司さんの言葉にうなずく二人、ん? 二人?
関根さんは少し納得していない様子だ。
「本当にやるの?」
「もちろんよ。まあ、フィアラさんはキララちゃんのことがそこまでみたいだけど」
「そんなことない。でも、ファンって言ってたしそれでよくない?」
「私が話したいの」
「うーん。じゃあ仕方ないか。いいよ」
勝手に話が進み、関根さんも納得したようだ。
キララと言われドキッとしたが、一体なにかヘマしたかな?
「それでは」
庄司さんの言葉と同時、真剣な顔をした庄司さんたち四人が僕を見てきた。
なんだろう。もしかして、いじめを止めたから別のなにかを対価として求められるのかな。
罰ゲームとか?
「木高くんはキララちゃんのどこが好きなの?」
「……なんて?」
信じられないくらい目をかがやかせて聞いてくる庄司さん。
まるで僕の心の奥までのぞき込むような雰囲気だった。
いや、絶対そのテンションで聞くことじゃない。拍子抜けだ。
というか。
僕にキララの好きなところを話せって、それ、自画自賛しろってこと!?
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