第11話 動揺する大神:影斗視点
「おい。これはどういうことだよ! 俺のこと無視して影斗と楽しくやってたってのか? あ゛あ゛?」
ドアを乱暴に開けて教室に入ってくる大神くん。必要以上に大声を出しながら教室中の視線を一身に集めている。
僕は先ほど名前を呼ばれたことと、大神くんが近づいてきたことで体がすくみ上がってしまう。
別にやましいことはなにもしていないのに、スマホを隠して他人に隠れようとしてしまう。
「おい。影斗。今お前なにか隠したな」
「ひっ」
「今、木高くんは関係ないだろ」
「てめっ! この俺に逆らうのがどういうことかわかってんのか?」
「どういうことだよ。教えてくれよ」
初めて僕のために日向以外が体を張ってくれている。
それでも震えの止まらない手を日向は優しく包み込んでくれた。
「大丈夫。大丈夫だから。今日はわたしと影斗の二人じゃないから。前みたいにはならないはずだよ」
「うん」
小さな子どもをさとすように、日向は僕に優しくゆっくりと語りかけてくれる。
そうだ。大丈夫。日向が言うように、今の僕にはクラスのみんながいる。庄司さんがいる。なにより日向が隣にいてくれる。
「少しは落ち着いた?」
「うん。ありがとう」
「ううん。わたしはなにもしてないよ」
そう言って笑いかけてくれる日向はいつも僕を支えてくれている。
とぼけているようだが、しっかりとしているのだ。
僕は意識を変え、その場にグッと踏みとどまり、大神くんの様子をうかがった。
「おい。ずっと俺のこと無視して影斗と楽しくやってたのか? なあ!」
大神くんの言葉に、みんなが無言で彼のことを見ている。
それをイエスと捉えたのか、大神くんは少し慌てふためくように落ち着かない様子になった。
一度後ろを振り返ってから、再度僕たちの方を見た。
いつもは誰かを連れているからだろうか。
誰もいないから、心細いのだろうか。
「おい。なんとか言えよ。言わなきゃわからないだろ。なぁ、どうなんだよ。お前らは影斗とつるんでたのか?」
「……」
「どうなんだって聞いてるんだよ! もしそうなら、全員容赦しねぇからな」
「つるんでないわ」
「は?」
大神くんの質問に答えたのは庄司さんだった。
僕も大神くんと同じように声を出しそうになる。と、とりあえず様子をうかがおう。
庄司さんに変わった様子はない。反対に大神くんは大きな口を開けて硬直している。ものすごくバカっぽい。だが、彼はすぐに頭を振って全員と、そして、庄司さんをにらみつけた。
僕は思わず身が縮んでしまう。やっぱりあの目は慣れない。
でも、大丈夫。僕は隣の日向とうなずき合い、庄司さんと大神くんに目をやった。
「どう見たってつるんでるじゃねぇかよ! 嘘つくな!」
「私たちはつるんでるんじゃなくて、単に友だちとして談笑してただけよ」
友だち。その言葉を聞いた瞬間、胸の内があったかくなるのを感じた。
不思議な気持ちだった。僕が庄司さんの友だちだなんて。
感動しているとなぜか日向に叩かれた。プイッとそっぽを向かれる。どうして?
気を取り直して大神くんを見ると、手を強く握ってぷるぷると震えている。
「おんなじじゃねぇか」
「一緒にしないで! あなたみたいに恐怖や暴力を振りかざして言うことを聞かせているわけではないわ」
「くっ……」
図星なのか、大神くんは庄司さんから目をそらした。
しばらく黙ったまま、下くちびるを噛んで悔しそうに床をにらみつけていた。
大神くんでも庄司さん相手には打つ手なしなのか。
僕が感心していると、大神くんはそこで救いを求めるように僕たちの方へと目線を向けた。
「お、おい。山原田! 五反田! こっちに来い。そんなとこにいてもつまらないだろ。俺が話し相手になってやるよ」
「嫌だ」
「そうそう」
「ほらあれだ。女。女紹介してやるから」
「い、嫌だ」
「そうそう」
一瞬迷ったように聞こえたが、大神くんは僕のいじめに使っていた二人に振られたようだ。
ピキピキと音が鳴りそうなほど、大神くんの額にはデカデカと青筋が立っている。手は血がにじみそうなほど握り締められていた。
「クソがぁ!」
ドアに対し壊しそうなほど乱暴に、派手な音を立てて激突すると、大神くんは勢いよく教室を走り去っていった。
「……今に見てろうよ。すぐに、お前らなんかじゃ後悔しかできないような目にあわせてやる。俺の力は恐怖や暴力だけじゃねぇんだからな」
「あ、おい! 大神! どこへ行く! 今からホームルームだぞ!」
先生の言葉を無視して、大神くんは行ってしまったようだった。
「なにかあったのか? 大神があんなに取り乱すなんて……」
不思議そうに教室に入ってくる担任の先生は僕たちを見てきた。
そして、僕を取り囲む生徒たちの様子を見て、明らかに目を見開いていた。
それでも、どう答えていいかわからず、僕たちは互いに顔を見合わせていた。
庄司さんは僕をじっと見つめてから。
「あとでお話しします」
それだけ言って、全員を自分の席に戻らせた。
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