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プロローグ 脅迫

 静かになった教室で二人。僕、木高影斗きだかかげとは学級委員の庄司怜しょうじれいさんと目を合わせていた。相手は美少女と名高い庄司さんだ。


 肩より長い濡れたような黒髪に、濃紺の瞳をした少しつり目の美少女。着崩さずに着ている制服のせいか清楚な雰囲気を感じる。


 この状況、なんだか照れる。


 いや、そうじゃない。こんな状況にしてまで僕を呼び出し、そして居残らせたんだ。いったいなんの用だろうか。


 そう僕が疑問に思っていると、庄司さんは僕に向かって真っ直ぐとスマホを突きつけてきた。


 その画面には動画投稿アプリのチャンネル画面が開かれていた。


雲母坂きららざかキララ。キララちゃんってあなたなんでしょ?」


 さっそく本題に入ってきた庄司さん。


 だが、僕は突然のことに目を白黒させてしまった。なにを言っているんだあっけに取られ、理解するのに時間がかかった。


 整理しよう。


 雲母坂キララ。それは突如、彗星のごとく現れたいわゆるVTuberだ。今となってはトップの一角を担うその美少女は、今も輝く星のような笑顔を世界中に振りまいている。


 庄司さんはそんな人気者をなんの脈絡もなく僕だと決めつけているわけだ。


 僕が答えないでいると庄司さんは疑いの視線を僕に向けてくる。


「まさか、知らないなんて言わないわよね。あなたがファンだって自分で言ったのは覚えてるでしょ?」


「あ、ああ」


 まあ、そうだ。事実だ。


 僕はこの間、庄司さんとのやりとりで雲母坂キララのファンだと自ら公言した。


 それほど時間は経っていない。取るに足らないことだが、成績優秀な庄司さんはちょっとしたことでも忘れないらしい。


「庄司さんの指摘どおり、僕は超有名人の雲母坂キララのファンだ」


 正確に言えばプロデューサー。実を言うと本人なのだから、庄司さんの指摘は決して間違っていない。


「なら、話がわからないってことはないでしょう?」


「もちろん。言ってることはわかる」


 そう、言っていることはわかる。だが。


「でも、雲母坂キララが僕だって言うのは無理があるんじゃないかな?」


 そもそも、わざわざ、はいそうです。なんて認めてあげる義理がない。


 僕は男。普通の男子高校生。正体がバレないように美少女の見た目とボイスチェンジャーまで使用して素性を隠しているのだ。バレてもらっては困る。


 いじめの対象がネットで顔をさらしていれば、いじめっ子たちからすれば格好の餌だろう。そうならないための加工はばっちり。そのため、普通なら気付けない。


 庄司さんの証拠もおそらく僕の反応やファンということだけだろう。


 雲母坂キララのファンは全世界にいるのだ。疑うには弱すぎる。


「あなたが雲母坂キララだってバラしてもいいのよ?」


 バラす? あくまでも庄司さんは僕が雲母坂キララと確信しているらしい。


 思っていたより頭に血が上っているのかもしれない。普段は至極冷静な庄司さんらしくもない。


 ようは確証がないからこそ、こうして脅してボロが出るのを狙っているのだろう。


 今は僕の方が冷静だ。


 もしかしたら、庄司さんが自分のファンだからということもあるのかもしれない。なんだか心に余裕があった。


 あとから思い返せば、この余裕と言うよりも油断に近い心情が、僕のあやまちだったのかもしれない。


「バラされるもなにも、僕は雲母坂キララじゃない。女の子のVTuberの中身は必ずしも男だって限らなんじゃない? 女の子の中身が女の子ってことも普通だと思うよ。それに、VTuber雲母坂キララのファンは男の人が多いって話じゃなかった? そうなれば、僕以外だって怪しい人間がごまんといるはずだ。むしろどうして僕に対してだけバラすなんて言わなくちゃいけないのか不思議なくらいだよ」


 自分でも驚くほどに僕はつらつらと話していた。


 普段、学校ではろくに会話すらしないこの僕が、学級委員に対して臆せず論を述べていたのだ。


 舌が回る。回りすぎる。雲母坂キララのことを話していいとなると、ここまで話せたのかと驚くほど、僕は雲母坂キララについて話をしていた。


 最後にはやれやれと言った感じで肩まですくめてしまう始末。


 これが自分か、と自分で疑うほどに僕は庄司さんを笑ってしまっていた。


 しかし、庄司さんは僕が完全に言い終わるのを待ってから、スマホを操作し出した。想定内とばかりに、なにやら不気味な笑みを口元に浮かべながら。


「私がなんの根拠もなくただあなたをここに残したと思った?」


「え?」


 もう終わったと思っていたせいで、庄司さんの言葉に対する反応が遅れた。


 庄司さんはスピーカーの部分を僕に向けてきている。


 なんだか物凄く嫌な予感がする。本能がこれはまずいと告げている。


 だが、長年かけて染み込んでいるいじめられっ子の根性が、ヘビに睨まれたカエルのように自分の体を動かすまいと拘束していた。


 この先を聞けば後戻りできない。それでもすでに、喉が渇き声すら出せない。


「これを聞いてもさっきと同じことが言えるかしら?」


「こんにちはー! みんなに届ける明けの明星! どうもー雲母坂キララでーす!」


「……ッ!」


 僕は勢いよく息を吸っていた。


 それが今の自分にできる最大限の反応だった。


 庄司さんのスマホのスピーカーから聞こえてきた声。それは紛れもなく僕本人の声だった。


 だが、どうして? 地声を出したことは一度もなかったはずだ。


 僕の疑問も気にせず、庄司さんは微笑をたたえながらゆったりと近づいてくる。


 ループ再生でもされているのか、スマホから流れる声が止むことはない。


「これはどういうことかしらねぇ?」


 耳元で庄司さんの声がした。


 あの、すっとんきょうな内容は雲母坂キララのあいさつ。


 あんなもの、その辺で言ってましたなんて言えるものでもない。


 庄司さんは初めから言い逃れできないような証拠を持っていたのだ。やられたと思ったが、もう手遅れ。僕がうかつだったのだ。


 しかし、庄司さんはいったいどうしてここまでして僕を脅してくるのか。


 僕はここまでの経緯を思い返してみることにした。

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