1:出会いの四月
行きたくない大学に入り、目標もなく過ごす毎日。
そもそも、自分に目標などあったのだろうかと、漆はぼんやりと考える。
もし、あの時別れていなければ
人生は、いい方向に向かっていたのだろうか。
それにしても、自分をこんなに駄目にしてしまう失恋には驚かされる。いや、周りはもっと上手くやっているのだろう。
別れたって次がある。
いつまでも、フラれたことを引きずるのは、時代遅れなのだろうか。
今、手元に何もなくなった自分が、酷く薄く見えるのは何故だろう。
「考えすぎじゃ、ボケ」
山河は漆の頭をノートで叩いた。
「あのねぇ、別に婚約破棄されたわけじゃあるまいし、ましてや高校生の恋愛でしょ?いちいち凹んでたら、地底まで進んじゃうわよ?!」
いっそのこと、地底で暮らしたい。
「いい、漆っ!」
肩を強く握り、熱血教師のような眼差しの山河は恐ろしい。
「失恋で凹み続けるなんて損だよっ!そうやってる内に周りはどんどん幸せの花を咲かせるのっ!だったらあんたも、クヨクヨしてないで早く新しい種を見つけて育てなきゃっ」
確かに、自分の土にはまだ、萎れて干からびた花が根を張っている。
早く抜かなければ、不幸の根は、張り巡らされる。
分かっているのに、土の上にしゃがみ込んだままでいるのは、こんな思いを二度としたくはないからだ。
たかが高校生の恋愛による失恋で、これだけ打ちのめされるんだ…。
今度、自分から本気で誰かを好きになって、そして駄目だったら…。
地底に住む自信がある。
「あぁいたいた!」
失恋とか、フラれるとは無縁の道田が満面の笑みでやって来た。
ぶん殴りたい衝動に駆られる。
「ねぇ、合コンしない?彼に連絡したら、いいよって返事きたからさぁ!どう?」
「あたしはいいけど…」
ご機嫌を伺うような二人の視線が、漆に突き刺さる。
「…何?!いいよっ!行くよっ!!」
合コンという響きは、あまり好きじゃない。彼氏を狩りに来ましたと、アピールしているみたいだから。
それでも、頭のてっぺんから、靴の先まで完璧な山河と道田を見たら、自分もネックレスの一つでも付けてくればよかったと思った。
「引き立て役だな…」
無意識に呟く漆。
「なぁに言ってんのっ」
山河が鋭く睨んだ。
「あんたの最大の武器は、何にもしなくても綺麗な容姿でしょっ!着飾んないと引き立たない奴らにとってみれば、あんたの方がよっぽどムカつくわよ」
「山ちゃんも、ムカついてんの?」
「あたしのどこが着飾ってんのよっ!」
その盛った頭。
「行くわよ、漆っ!種を見つけにっ」
「…おうっ」
さぁ、荒れ果てた大地に、花を咲かせようじゃないか。