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ふくろうの魔法使い  作者: かがやま みやび
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第11話 修行

ユキさんの家では、一階の客室が私の部屋となった。先日、私が湖に落ちた時に、借りていた部屋だ。そして、その隣の一回り小さな客室をシラサギさんが使うことになった。

 想像していた通り、ユキさんの家は元々ペンションとして建てられたものだった。以前は、天文台付きのペンションとして結構人気もあったそうだ。

「ここ二年ほどは、お休み中なの」

ユキさんはそう言って笑ったが、休んでいる理由については、なんとなく、はぐらかされてしまった。

 星見さんのペンダントは師匠の家の、私の部屋のテーブルの上に置いてきた。なるべく、山に住む何かを刺激しない方がいいと思ったからだ。


 魔法の書には、まだしばらくの間、新しい魔法を追加する事が出来ない。そこで、それまでの間、私は魔法なしでの占いを学ぶ事にした。ユキさんは、ありとあらゆる占いに精通していた。占星術、タロット、手相、数字占い。

「タロットカードを使ったことはある?」ユキさんが言った。

「いいえ。タロットカードを持っていませんし」

「私ね、昨日占ってみたの。あなたは、タロットカードを学ぶべきだというのが答えよ」

そう言うと、一組のタロットカードを取り出した。ユキさんの場合、占いと言っても、世間一般でいうところの占いとはわけが違う。魔法使いが、魔法を使って占うのだ。それは、ほとんど、予知とか予言に近いものになる。近い将来、私の身に何かが起こる。その時、タロットカードが役に立つのは間違いない。

「このカードをあげる」

その日から、私の占い師としての本格的な修行が始まった。


「魔法使いが天文台に住む理由って、知ってる?」

星を見ながら、ユキさんが言った。新月に近いその日、私とシラサギさんとユキさんは天文台に登って星を見ていた。家の周りは鬱蒼とした森に包まれており、時々、夜の鳥の鳴き声が聞こえた。町の灯から遠く離れたこの場所で見る星空は、私に恐怖を与えるほどの力を持っていた。

「魔法と占いは兄弟みたいなものよ。特に占星術。昔の魔法使いは必死に星を観測したの。星は未来を映し、人の心を映すと信じて」

ちょうどその時、明るい流れ星がオリオン座を斜めに切り裂いて走った。流星が消滅したあたりには、おおいぬ座のシリウスが巨大な光を放っていた。

「流星や彗星の動きから、何か未来の出来事を知ろうとしたのね」

今では、星を観測しても、未来の出来事はわからないということは誰もが知っている。でもなんとなく伝統だけは引き継がれ、今でも魔法使いは天文台に住んでいる。

「諸説あり」

最後にユキさんは、そう付け加えた。


 十三夜の月の輝く夜がきた。

 目の前には、魔法の書が開かれている。今、私が書き込もうとしている魔法は、ズバリ『魔力を与える魔法』。その魔法をタロットカードにかけると、それは魔法の力を持つようになる。魔法をかけられた自転車が空を飛ぶのと似ている。

 魔法のカードで占った場合、それはもはや占いではなく、予言に近いものになる。

「でもね。この魔法には欠点もあるの」ユキさんは言った。もしも私が、このカードで未来を知った場合、私はそれを回避するという選択もできることになる。

「その場合、予言は外れたことになるでしょう」

万能ではないのだ。


 魔力を与えられたタロットカードを持って、私は、再び駅前で占いを始めた。最初はパラパラと酔っ払った客が来るだけだったが、一週間もすると、噂が噂を呼び、行列ができるほどになった。

 ユキさんの言う通り、予知はうまくいかないことが多かった。私が未来を知った瞬間に、無意識にとる行動が、未来を変えてしまうらしい。一方で、バツグンの効果を見せたのは、探し物だった。

 ある日。一人の女性が私の元を訪れた。四十歳くらいでやや太めの体型。買い物袋の中にはどっさりと食材が入っていた。おそらく主婦、家には食べ盛りの子供が二人、そんなところだろうか。これは占いではなく、ただの想像だ。

「ジョンを探して欲しいんですが」

「ジョン?」

「犬です」

「ああ」

私はすぐに占ってあげた。

「あなたの家の近くに小学校がありますね。その裏山で椎茸を栽培している農家があります。多分、ジョンはそこにいますよ」


 そして、その時、私はあることに気づいた。このカードを使えば、星見さんを見つけることができるのではないか。

 私はすぐに占ってみた。

 教えて。

 星見さんは今、どこにいるの。

 何度占っても、同じ結果が出た。

 星見さんは、フクロウの家にいる。


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