第10話 占い
魔法使いの家の周りに雪が降ったのは、十一月の初めのことだった。初雪だというのに、丘は一面の雪に覆われ、一晩のうちに風景は冬と化した。
私はあの事件以来、空を飛ぶのを辞めてしまった。そう言えば、師匠の自転車は、湖に沈んだままだ。師匠もユキさんも、特に何も言わなかったが、私が飛ばなくなったことを歓迎しているようだった。
みんな、口には出さなかったが、あの山に潜んでいる何かについては、放置するのが一番だと考えていた。無視していれば何も起こらない。実際、ユキさんは十二年間、そうしてきたのだから。
今日も師匠はいつもと同じスーツを着て出勤していった。どこに勤めているのか、一度聞いてみたことがあるのだが、教えてはくれなかった。師匠が出かけてしまい、ひと通り掃除なども終わってしまうと、何もすることがなくなってしまった。シラサギさん、今日は来ないのかしら。そんなことを考えながら、自分の部屋の窓辺の椅子に腰掛けて、机の上に頬杖をついた。
澄み切った空気が冬の到来を告げていた。そのまましばらくぼんやりしていると、青い空の中に一つの白い点がこちらに向かってくるのが見えた。まだ遠いがかすかに羽ばたいているのがわかる。待望のシラサギさんの登場だ。
「私、働こうかしら」
二人でいろいろとおしゃべりをした後で、私は切り出した。少し前から、考えていたことだ。師匠にだけサラリーマンをさせていることにも気が引けていたし、何よりも魔法使いの弟子というのは意外に暇なのだ。
「もっと魔法の勉強しなさいよ」
シラサギさんはそう言った。確かに、二階の図書室には、魔法に関する膨大な書物があった。勉強のネタが尽きることはないだろう。
「占い師をやろうと思うのよ」
「知ってるわよ。あなた、占いで詐欺やってたのよね」
シラサギさんは、時々ストレートに失礼なことを言う。しかしほとんど事実なので反論できなかった。
「因みに私はサギだけど」
これも予想通りの発言だったので私は無視して話を続けた。
「今度は詐欺じゃなくて、魔法を使った占いをやるの。ユキさんに教えてもらおうと思って」
「じゃあ。魔法の書に次に書くのはそれね」
「そう。ユキさんの魔法を写したいわ。ユキさんと師匠がいいって言ってくれたらだけどね」
「もちろん大賛成さ」
夕方、いつもより早い時刻に師匠は帰ってきた。占いの話をしてみると、満面の笑みをたたえてそう言った。
「元々、魔法使いというのは、様々な魔法使いとの出会いを重ねて、自分の魔法を増やしていくものなんだ。コノハの場合まだ独立には早いけど、せっかくユキさんという魔法使いに出会ったんだ。その出会いは大切にした方がいい」
同じ話をユキさんにすると、ユキさんは快く受け入れてくれた。そこで、しばらくの間、私と、なぜかシラサギさんも一緒に、ユキさんのログハウスで生活することになった。




