聖女の祈りを映画館のライブビューイングで応援しよう
短編「勇者と魔王の決戦を映画館のライブビューイングで応援しよう」の続きというか同じ世界観のお話です。「異世界ライブビューイングシリーズ」としてまとめてありますので、上記のリンクから合わせてご覧いただければ幸いです。
最近、同僚二人がライブビューイングにハマっているという話を聞き、二人に連れられてこの映画館にやってきた。
何でも異世界に渡った人間が、異世界の様子をリアルタイムで配信し、映画館で応援上映しているそうだ。地球人、転んでもただは起きぬ。
今回のライブビューイングの演目は【聖女の祈り】。三人の聖女が異世界に蔓延る瘴気を浄化していく祈りだという。一緒に来た同僚に光る指輪を強引に貸された所で、スクリーンに3人の聖女【オキザリス】の様子が映り始める。
『……清浄の……神。……この空に……静かなる……安寧の……星々を……』
「せ”い”じょ”ち”ゃ”ーん”!!」
三聖女オキザリスのトップバッターは冷静の聖女。切れ長の細い目に薄い唇、黒いストレートのロングヘア。スリムな身体に青い修道服の出で立ちは、まるで氷の女王の様。凛としたその動きに、言葉少なな祈りの姿は、悲哀の曲の中で舞うアイスダンスの様だ。そして、合いの手を入れる法被と鉢巻の年配軍団の圧が凄い。
『んーーー! 豊穣のぉ! 神ちゃん!! 大地に~! 花を咲かせてちょーだい!』
「イエッ セイジョー!」
二番手は愉快の聖女。ぱっちりとした瞳にプリンとした頬。オレンジ色のボブヘアに、黄色の修道服をショートパンツの様に改造した快活な姿は、追従を許さない奔放と若さを全身に纏っており、まるで人気アイドルグループの全力のライブを見ているかの様だ。そして、独特の合いの手を入れながらペンライト踊りをする若者軍団の汗で霧が発生している。
『慈愛の神様。人々の営みに笑みと愛を。そして明日に夢をお願いします』
(フリフリフリフリ)
最後は笑顔の聖女。前髪が切り揃われたブロンドのウェーブヘアが大きく揺れる。優しげな垂れ目に、えくぼが印象的な丸みの帯びた顔立ち。ふんわりとしたピンク色の修道服は、そのえも言えぬ愛くるしさと清廉さが相まっており、その立ち振る舞いは、まるで遥か続く満開の桜並木を見たかの様だ。ここは、合いの手の代わりに、前列の幼女とその父母の集団が特製のペンライトを振っている。
祈りが進むと、観客の指輪の色が変わって行く。最初は、紫が多かったが今はだいぶ白が多くなってきている。これは、実際の異世界での瘴気の浄化具合を表しており、白が増える程、浄化が進んでいる事を示している。
徐々に白が多数を占め、浄化の祈りも安定を見せた終盤、指輪に異常がみられる。
ポツリポツリと、まるでオセロゲームの様に紫に変わる指輪。
祈りを続けている三聖女オキザリスにも焦りの色が見えてくる。
繋がれたその祈りにヒビ入る擦れ。
聖女達の額に苦渋の汗のきらめき。
国を護るという重役に、3人の少女達が押しつぶされそうになったその時
「せいじょちゃーん がんばえー!」「がんばえー!」
という前列の幼女達の、悲痛とも聞こえる合いの手が聞こえる。
大きく振られる特製ペンライト。
法被と鉢巻の軍団も、ペンライト踊りの軍団も
「がん”ばれ”ィ せ”い”じょ”ち”ゃ”ーん”!!」
「オ”イ”ッ! オ”イ”ッ!」
と力がこもる。
思い思いの気持ちが揃い、幼女達の特製ペンライトが光を増していく。
聖女達はそれを受ける様に光に包まれ、スクリーンは眩い光で覆いつくされていく。
まばゆい光が収まった先には、神々しいドレスを纏い、背中に羽が生えた聖女達の姿だった。おい、聖女は変身機能もありか。
『……ネット配信の……皆様……ありがとう。今日の痛み……忘れはしないわ』
『ライブビューイングで応援してくれたみんなー!皆の祈り、無駄にはしないよ!』
『ありがとう現地の皆さん。これからも私達は、体と魂を磨いていきます』
『『『私達は三聖女オキザリス。護って見せるアナタの未来』』』
そう宣言し、三人合わせてのエンディング祈りが披露されていく。
声が枯れるまで合いの手を入れ、汗だくで踊り乱れ、必死でペンライトを振る。世代も考えも全く違う歪な3つの塊が、一つの劇場で、共に泣きながら、同じ想いの拍手を送っていた。
劇場を出て、二人の同僚と別れた私の手には、特製のペンライトが、強く握られていたのだった。