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王の鈴  作者: とおこ
断章 先代
1/5

1

その大陸は4つの大国とそれらに従う幾つかの小国、そして1つの宗教都市から成り立っていた。

大国は東にデュラハン、西にティトゥーリア、南にライドゥル、北にセドナ。

そして、宗教都市の名はレグナ。



これは、ある大陸の物語。



西の大国の王、ゲオルグ王には4人の王子と2人の王女がいた。

王子の名は上からヨアヒム、ツェーレ、アーデルベルト、ジークヴァルト。

王女の名はエリカとヴァルトラウト。

上の2人の王子と王女達は北の小国ノール出身の正妃との間の子で、第4王子ジークヴァルトは王妃の死後新たに立后した継妃が産んだ、他の子らとは少し年の離れた末っ子だった。

そしてもう1人、第3王子は唯一妃を母に持たない。

側妃を持とうともせず唯一王妃だけを大切にしていた王が、王妃の死の数年の後、戦場に在って慰問へと訪れた楽団の踊り子に手をつけた。

気まぐれだったのか、或いは本気だったのか。知る者は多くない。

踊り子は身篭って後、王の密命により腹心のリッカ公爵の元に預けられ、生まれた子は王子の身分を与えられないまま公爵家の子として育てられた。

王が戦いから戻って後、踊り子の元を訪れたかどうかを知る者もまた、多くない。



踊り子が公爵家で亡くなって後、王はアーデルベルトに問うた。

望みはあるか、と。

王は彼女を愛していた。王宮に側妃として迎えることこそなかったものの、幾度となく秘して公爵邸へと訪れた王と彼女との逢瀬を見、更には王自らに剣の手ほどきを受け育ったアーデルベルトはそれをよく知っていた。

王は彼女との子であるアーデルベルトを愛していて、だからこそ本心ではそれを望んでいないことをよく、知っていた。

が、その時17歳だったアーデルベルトは、自らの望み故に父の望みに反した。

願いを聞いた王は、最初は驚き、続いて息子が歩むだろう険しい道のりを哀れんだ。

公爵ならば、息子のためによい爵位と領地を下げ渡してくれるだろう。そのために自身も密かに手を回すつもりだった。

王都に住まわせ出仕させれば、表立って父子と名乗れずとも目をかけてやれる機会は何度もあるだろうと、その日を心待ちにさえしていた。

生まれながらにして王家の名と義務の重みを背負い続けている王からすれば、そちらの方がよほど幸福な生き方だろうと思ったのだ。

他でもない、王宮に入ることを最期まで拒んだ愛しい人もまた、同じように願い、逝ったのだから。

けれどアーデルベルトは、父母の望みに反し、王子として王宮に迎えて欲しいと願った。

王は苦悩しながらも最後は願いをかなえ、アーデルベルトは第3王子として王宮に迎えられる。

そして翌年、アーデルベルトと同じ屋敷で育ったリッカ公爵家の令嬢、カテリーナが継妃として王のもとへと嫁ぐこととなる。

王がカテリーナを妃として迎えたのは、王女エリカがセドナ王妃、ヴァルトラウトがレグナ公妃としてそれぞれ嫁いだ後、王女に準じる者として国の駒となるべく婚約者を持たぬまま学院の卒業を迎えた彼女と公爵家の忠義に報いるためだったとも、貴族社会の実力者であるリッカ公爵家との縁を深めたかったからだとも言われている。

いずれにせよ久方ぶりの自国出身の王妃であるカテリーナと、王妃を失いながらも政務に明け暮れる壮年の王との婚礼は、王家の慶事と多くの国民に歓迎された。

アーデルベルトとカテリーナは同じ年だった。

王は自らの子以上も年の離れたカテリーナを妃として大切に扱い、彼女もまた、王に導かれ更に自身の資質を磨き、やがてこの人こそが王国第一の女人よと称えられるまでとなった。



『貴方は後悔していないのか』

『しておりませんわ、陛下。私には何度考えてもあの時この選択しか出来ませんでした』

『もし』

『もし、はないのです、陛下』



『私は、この子とこの国の母となれることを、喜びこそすれ、後悔することなどありえません』

『妃…』



これは、ある大陸である時代を生きた者達の物語。

必死に乱世を生き抜いた者達の、物語。

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