3つめの祝いのパーティ
さて。今日は、ノルラの両親のための秘密企画パーティの実行日だ。
今。それぞれに役割を遂行するべく動いている。
ノルラとアイシャは会場となる場所の飾り付けの最終調整。
そんなことをしながら、
「良いなぁ、私も結婚式したいなぁ」
と、今回のために一時帰国中のアイシャが呟いた。
「それは、ルルドお兄様に言うべきでしょ。でも、結婚するつもりなんでしょ?」
傍にいるノルラは聞いた。
「私がもうちょっと大人になってからって言うの。ルルドくん、ずっと年上だもの・・・」
とアイシャがどこか悲しそうに言う。
「もうちょっと大人っていつ、って聞いてみたらどうかしら」
「17歳でお酒が飲める時にしましょうって、言ったのは私なの。皆、お酒を飲むでしょ?」
アイシャは今14歳。もう少しで15歳。ということはあと2年ちょっと。
ちなみにこのドルド国には飲酒に関する年齢制限はないのだが、兄ルルドと父で昔に、飲酒は17歳から、と決めたのだ。アイシャは違う家のルールを守ってくれる気らしい。
「うーん、じゃあ17歳まで待っても良いと思うの。私は早かったけど、ドルノお姉様は18歳だったもの」
「うん・・・」
こんな会話をしながら、せっせと会場を整える。
ちなみに秘密裏に事を運ぶべく、会場は地下3階だ。格納している船を別の階に移動したりして空間を開けた。
魔法を使える男性陣が先に魔法を使ってくれた後なので、普段は格納庫とは思えないほどの美しい仕上がりになっている。
とはいえ細かな位置調整、飾りつけは人の手でやった方が早い。
「できたわ!」
とアイシャが声を上げる。
「うん、あとは、お父様とお母様を着替えさせて呼んでくるだけ」
とノルラ。
アイシャが祈るようなポーズをとる。
「リュイスとドルノちゃんたちが上手くやっていてくれますように」
「本当ね」
ノルラもあわせて祈るポーズをとった。
着替えには時間がかかる。
そこも含めて上手く誘導してくれますように!
できれば両親への本企画のネタバラシは会場にたどり着いた時であってほしい。
「あっ、ルルドくんから!」
アイシャが服のポケットから通信機器を取り出した。
「はい、アイシャです」
通信相手は兄ルルドのようだ。
アイシャが会話を終えて、教えてくれる。
「うまく誘導出来てるみたい。今から料理をこっちに持ってくるって。私たちはここに待機よ」
「分かったわ」
そうこうしているうちに、主役の父と母、誘導役の兄クロルと姉ドルノ以外が、続々とこの地下3階に集まってきた。
兄ルルド。イーシス、イーシスたちの父ノアと母アリア、イーシスの兄ディアン、イーシスの姉リュイス。
皆それぞれ、しっかりおめかしをしている。
***
さて、ついに主役である両親がエレベータで降りてきた。
目の前の光景に気づいて驚いたのが分かった。
降りてきて、母ケーテルが皆を見回して尋ねた。
「これは・・・一体、何?」
まだ全員が揃っていないので、皆でニコニコしながら待つ。
すぐに誘導役だったクロルとドルノも降りてきた。
ノルラが言った。
「お父様とお母様に、子どもたちからのお祝いの結婚パーティよ!」
「えっ?」
と母ケーテルはすぐに事態が飲み込めなかったようだ。
両親の後ろ、兄クロルが説明を追加した。
「ドルノもノルラも結婚しただろ。準備の時に、お父様とお母様は届けは出したけど、結婚を祝うパーティをしなかったって二人は聞いて、子どもたちからパーティを贈りたいって話になったんだ。ドルノとノルラが言い出して、僕たちは皆誘われて、賛成した。それで今日みんな集まったんだ」
「まぁ」
と母ケーテルが呟くように言った。
まだ驚いている。
ドルノが母の傍に言って皆に紹介するように言った。
「お母様のドレス、どうかしら。実はノルラの結婚準備の時に私とノルラでお母様にって選んだものなの。似合っていると私は思うわ。勿論、お父様の衣装もよ」
「とても似合っていて綺麗よ、ケーテル様。ブルドン様もとても素敵」
とイーシスの母アリアが嬉しそうに言った。
「おめでとうございます」
とイーシスの父ノアも言った。
途端、急に母ケーテルがどっと泣き出した。うれしそうに。
それまで無言で驚いていた父ブルドンがハッとしたようになって、母ケーテルを支えた。
「すごい、素晴らしい日だ」
と呟いた。
「すごい。最高だ。ケーテル」
自分たちに言い聞かせるみたいに、言葉をかみしめるように母の名を呼んで父は言った。
「えぇ」
母が泣きながら頷いた。
「ありがとう」
父ブルドンが目を潤ませてノルラたちを見まわした。
「感激だよ。まさか、こんなことを、準備、大変だっただろう? ありがとう、まさか、20年以上、経って、パーティだなんて。祝ってもらえるなんて」
こう言われて照れくさくなって、皆がそれぞれニコニコしたり。
「料理、イーシスくんとノルラが作ってくれたのか」
「今日は皆で作ったの」
とノルラは答えた。
「部屋の準備、いつから」
「僕とディアンくんとイーシスくんで。ノアおじさんも協力してくれた」
と兄ルルドが答えた。
「そっか。皆有難う」
「お父様、お母様、まずは座って。このソファー、クロルお兄様とリュイスちゃんが選んでくれた、皆からのプレゼントなの」
と姉ドルノが促した。
「え、これ? うわ、フワフワだ」
「最近開発された新素材で出来てるんだ。柔らかいのに形が崩れないので人気が出てる」
と兄クロルがにこやかに説明する。
さて、この家には動くぬいぐるみがたくさんいる。
柱の陰に隠れていたのが、もう良い頃だと判断したらしく、手に花束を持って登場し始めた。
「まぁ!」
母ケーテルが涙ながらに驚いた。
「おじいさま、おばあさま、おめでとうございます」
兄クロルとリュイスの間には娘キュリスが生まれている。キュリスがニコニコして、ぬいぐるみと同じように花束を持って、両親の前に差し出した。
「まぁ・・・!」
両親ともに涙腺がさらに崩壊した様子だ。だけどとても嬉しそうに笑っている。
こうして始まったパーティは、二家族、身内だけだったけれど、終始とても賑やかに楽しく過ぎた。
「皆、愛してるよ」
とまた涙しそうな声で父が言った。
「私たちは本当に子どもに恵まれたわ。皆とても良い子たちばかり。皆幸せになってくれて嬉しいの」
と母は言った。
***
「最後はアイシャちゃんね」
と、翌日。片付けをしながらノルラは言った。
「そうね」
とアイシャも嬉しそうに答えた。
「あら。アイシャちゃんの次はキュリスちゃんもいるわよ」
とクスクスと姉ドルノが笑う。
すると、キュリスの母であるリュイスも笑った。
「まだ4歳よ。気が早いわよ」
リュイスたちの母アリアが指摘する。
「リュイスあなた、お父様が引き延ばして引き延ばして、それでも結婚ものすごく早かったのに」
「あら。お母様と私って似てるのでしょ。お母様の血を引いているからよ」
とリュイスが肩をすくめた。
「まぁまぁ」
と母ケーテルが優しい笑顔で宥めに入る。ちなみに片付けは母ケーテルも参加だ。
男性陣は魔法が使えるので、先に細かな部分を片付けた後に魔法を使いに来てくれる予定。
皆いろんな話をしながら動く。
そんな中で、母ケーテルはきっと、昨日のこと含めて、過去を思い出したのだろう。
「でも、あっという間。夢のよう」
母ケーテルは、昨日の余韻を楽しむように呟いた。
そして顔を上げてノルラたちを優しく見つめた。
「あなたたちも幸せになりなさいね」
姉ドルノが、嬉しそうに笑む。
「えぇ、勿論よ!」
とノルラが代表して声を上げた。
end