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ノルラ、期待と準備

「行き先は僕が決めて良いかな。できればオシャレをしてきてくれると嬉しい。僕もそうする」

と緊張した顔で、珍しく少し赤みのさした顔でイーシスに告げられて、ノルラは期待に瞳を輝かせた。

「えぇ! もちろん!」

と答えると、イーシスが明らかにホッとして、安心した笑顔を見せた。


当日、気合をいれまくった。

ノルラの母は人に化粧を施すのがとてもうまい、と聞いていたので、母ケーテルにも協力を依頼してある。

もちろん、

「イーシスくんがプロポーズしてくれるんだと思うの!」

と母にも伝え済み。

これで違ったらもう心底がっかりするが、多分絶対間違いない。


時間を計算して入浴をすませる。

それから服に靴など。とはいえすでにコレ、と候補は決まっている。

ノルラは小さな装飾と刺繍が散りばめられているものを選んだ。シルエットはとても大事。派手すぎないように。


着替えてみせると、母も似合っていると褒めてくれた。

それから化粧の時間。母ケーテルが嬉しそうに化粧の腕を振るってくれる。


「可愛らしい雰囲気が良いかしら?」

「ちょっと大人っぽくしてほしいの」

「えぇ。大人っぽく」


丁寧に素早く化粧筆がノルラの肌の上を行き来する。


「軽めのお化粧が今のノルラには良いと思うの。これぐらいでどう?」


髪も普段になく細かく編み込んでもらった。仕上げにレースのリボン。


事情を知っている姉ドルノ、それからイーシスの母アリアもこの部屋に現れた。

皆に見てもらう。

大人っぽくかつ可愛く仕上がっていると褒められる。準備万端だ。


「ノルラちゃんも結婚するのね。月日が流れるのって本当に早いわ。皆あんなに小さかったのに」

とイーシスの母アリアが、昔を思い出すように目を細めた。

「そうですわね」

と母ケーテルがそれに応える。


そんな時、姉ドルノが母2人に尋ねた。

「お母様たちの結婚式は、どんな風だったの?」

「あ、私も知りたい! お父様とお母様はイツィエンカで結婚したのでしょう!?」

とノルラも聞いた。


すると、二人の母同士が顔を見合わせる。

妙な時間が少し経ってから、母ケーテルが答えた。少し答え辛そうに、苦笑しながら。

「結婚はしたけれど、あなたたちが思うような結婚式はしなかったのよ。お母様は、平民でしたから」

「大恋愛なのよ、ブルドン様とケーテル様は」

とイーシスの母がニコリと笑って教えてくれる。


とはいえノルラと姉ドルノは驚いた。

「お母様とお父様、結婚式はしていないの?」

と姉ドルノが確認した。

「いえ、ちゃんと教会で届けを出しているのよ。あれを式というならそうよ。お友達が2人、見守ってくれたの」

「2人だけ?」

とノルラが驚いた。


ノルラの家は祖国ではかなり地位の高い貴族だ。

父が、周囲の反対を全く聞かず、母と結婚したと聞いている。

一方で父には事業の才能が有った。お金をどんどん稼ぐので、家も父を認めた。だから貴族のまま。


「じゃあ、それって、お父様とお母様、結婚の届けは出して、パーティはしなかったの? ドレスとかお料理とか・・・」

ノルラは驚きのまま確認した。

母ケーテルはまた苦笑した。

「そうね。だけどそれで十分に幸せだったの。お父様と一緒になれただけで幸せだったの。十分すぎるほどだったのよ」


「・・・」

ノルラはそんな母の表情を見てから、姉ドルノと顔を見合わせた。

信じられない思いのままだ。

母もきちんとした結婚式をしたかったのでは?


どうやら姉ドルノもそんな思いを抱いたように思う。


「アリア様は? 結婚式、パーティはしたの?」

姉ドルノがイーシスの母にも話を振った。

ちなみに『様』づけなのは、父も母も、そう呼ぶからだ。父も母もとてもお世話になった、大商人の娘。


イーシスの母アリアは笑顔をみせた。

「私たちは、結婚パーティはこの国で皆にしてもらったの。私たちは駆け落ちで、結婚届だけ教会に出したの。その話をね、ほら、ルシー様とね、おしゃべりしている中で、お披露目パーティはしていないって話したら、とても驚いて。皆でパーティを企画してくださったの。とても嬉しくて楽しかったわ」

「良かったですわ」

ノルラたちの母ケーテルが嬉しそうな笑顔だ。


その様子に、ノルラはまた姉ドルノと視線を交わした。


「お母様も、パーティをしたかったのじゃないの?」

とノルラは慎重に尋ねた。


母は、ノルラの心配そうな様子に気づいたらしく、困ったように優しく笑んだ。

「どうかしら。・・・えぇ、でも、もう、十分幸せなの。持ち切れないぐらい幸せで一杯なの。完璧なのよ」


***


廊下に出て、ノルラと姉ドルノは小声でささやき合った。

「ドルノお姉様。相談したいことがあるの。お母様とお父様の事よ」

「分かっているわ。ねぇ、ルルドお兄様も相談相手に入れるべきだと思うのだけど、どう?」


確かに、兄ルルドも入れるべきだ、とノルラは頷いた。

「本当だわ。私は今からイーシスくんとデートだから、ドルノお姉様、ルルドお兄様に伝えてもらって良いかしら? お母様とお父様の結婚祝いのパーティのことよね?」

「ええ、そうよ。任せて。ただ、ルルドお兄様は役に立つか少し分からないのだけれど。そもそも留学期間中だもの」

「えぇ」

兄ルルドは今、見聞を広めるために、他国に留学中で、この家には長期不在だ。ちなみにイーシスの妹アイシャと一緒に。


頷き合って、それぞれの目的の場所へ。

ノルラは、イーシスとの待ち合わせ場所である空の船へ。

姉ドルノは、おそらく兄ルルドに連絡をしに、連絡手段のある部屋に。


***


さて。イーシスとデートだ。

ノルラの期待に応えたい、というイーシスの決意が感じられてノルラは浮かれっぱなしだった。


「リェサイム様ご夫妻に、教えて貰った」

と真面目に、硬い顔をしながら案内してもらったレストランで食事。ちなみにリェサイム様はレストランのお客様だ。


テラス席、昼だったはずなのに夜空が広がっている。魔法だ。


明らかに緊張している。だけどそれもまたカッコイイのがイーシスくん、とノルラは見惚れた。


幼少時から傍にいた。

当然、姉ドルノが恋をしたディアンもいたが。ディアンは間違いなく別格で特別。

皆がディアンに目を奪われている中で、ノルラは多分冷静だった。

姉ドルノが先に恋をしていた影響もあったはずだ。姉ドルノとディアンの様子を第三者として見る立場だったから理解した。ディアンは、絶対に手の届く相手では無い。


ノルラは、イーシスに誰よりも早く目をつけた。本能と言って良い。

イーシスなら、ノルラの手に届く人だ。何より、甘えても優しくしてくれる。ノルラの世話を焼いてくれる。


成長するにつれ、ノルラはイーシスで間違いないという思いを強くし続けた。惚れ続けた。


例えば。兄ルルドとディアンが陸の船で競争しはじめ、周囲も触発されて話題になり、陸の船のスピード競争大会なんてものも開かれた。結果、ノルラは大勢の男の子たちを見た。

大勢が、自分自身のために、陸の船に大金をつぎ込み、騒いでいる。


イーシスは違った。陸の船の大会の時も、競争には混ざらずに運営や親の手伝いをした。


また例えば兄ルルドが急激に太りだした時、イーシスは兄ルルドの健康を心底案じた。そして魚料理に凝りだした。兄に提供するために。


イーシスは他者への愛が強い。ノルラや兄ルルドのために、手間を厭わず世話してくれる。


ノルラは、ノルラを一番大事にしてくれる人が良い。


イーシスくんだ。

最高。大好き。

ノルラにだけ嬉しい特別な笑顔を見せてくれるの、もう本当に格好いい。


家に来るお客様、子どもの中にも、イーシスの良さに気づいてアプローチしたそうな子は何人もいた。その度にノルラは、イーシスは自分の恋人だと見せつけて勝ってきた。


当のイーシスはそんな女の戦いがあったことなんて気づいていない。

身近にいるディアンのモテっぷりが凄いせいで、イーシスは自分がノルラ以外にモテるなんて思ってもいないのだ。


良かった。イーシスくんがノルラだけに好意を返してくれて。


「ノルラちゃん。僕と一生、一緒にいて欲しい。結婚してください」

キッパリとした言葉に、ノルラはハッと我に返った。

浮かれすぎていて思考が少し飛んでいた。


今、目の前に、真剣な表情のイーシスがじっとノルラを見つめている。


ノルラは手を差し出した。気づいてすぐイーシスも手を伸ばしてくる。

互いに、両手を握り合った。

「勿論! ありがとう、とっても嬉しい! ずっと一緒にいようね、イーシスくん!」

ニッコリと笑って答える。


イーシスはきっと、ずっと生涯この時のノルラを覚えていてくれる。ノルラだって一生忘れない。


だから、どうか、イーシスくんに、ちゃんとノルラが魅力いっぱいの特別な女の子に見えていますように。


「良かった」

とイーシスが表情を綻ばせた。

「私もよ」

とノルラが答えた。


高揚しながら、互いにニコニコ笑いながら、料理やお店について感想を言い合う、そんな時間を過ごした。



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