姉ドルノの恋
「庶民に追放なら良いかと思っていたら殺害ルートがあるそうです」シリーズ8作目。
今回は登場人物が多く、シリーズのその後を楽しんでくださっている人向けです
人物紹介:https://ncode.syosetu.com/n3107gu/
ノルラの姉ドルノが結婚する事になった。
ノルラは当然喜びに沸いた、が、ふと落ち着いてから眉をしかめた。
「ドルノお姉様に先を越されるなんて思っていなかったわ…!」
***
姉ドルノは、幼少時からずっとディアンという別格に格好いい男の子に恋をしていた。
姉自身は初恋が実る事を諦めていたが、一方で初恋を捨てる事も諦めていた。
ノルラは、ディアンに姉ドルノの良さをアピールしようと努めてきた。
ノルラ自身は、幼少時からディアンの弟イーシスとずっと仲良しで恋人なので、恋愛について安定している。
だからこそ他人の恋愛が気になってしまう、ということもあるかもしれない。とにかく姉の恋をノルラは応援していた。
それが、先日、急に実った。
なお、ノルラが、『姉ドルノがいかに留学先の祖国でモテたか』という話をタイミングを見計らってはディアンに披露した効果もあるはず、とノルラは思う。
とはいえあまりに急な展開で、ノルラと恋人イーシスが、それぞれさりげなく当人たちに聞いてみたら、ディアンの、
「ルルドくんが留学でこの家にいなくなってしまって、それでドルノちゃんまでいなくなったら嫌だと思った」
というのがきっかけらしい。
ちなみにノルラの兄ルルドから提供された情報はこうだ。
「なんか急にディアンくんがドルノにキスしちゃってさ、それで進展したんだよなぁ」
ノルラとイーシスは、家とは違う建物でお客様に料理を振る舞って過ごしている。
つまり家にいる時間が他の家族に比べて少ない。
だから、ノルラもイーシスも気づいていないところで、二人の距離が一気に縮まっていたらしい。
他の家族はそれぞれの事をやっている。姉ドルノだけ、わざわざ空の船までディアンをお出迎えする。
姉ドルノが労いの言葉をかけたりお茶菓子を用意する。そもそも姉ドルノは知識欲が強い。ディアンの話を、知的好奇心もあって目を輝かせて聞く。互いの知識を擦り合わせたりする。
ディアンも色々動く性格なので、姉ドルノだけに任せずお茶菓子などを一緒にテーブルへ運ぼうとして、二人ともがワゴン傍にて、楽しく話し続ける、互いに好意を持っているので距離が近づく、甘い雰囲気。
というわけでそうなったらしい。
それは万歳。素晴らしい事よ。
やっとディアンくんがドルノお姉様を見てくれてとっても嬉しい。
とノルラはしみじみと思う。
本当に、姉ドルノはモテた。留学先で。見せてあげたいほどだった。
向こうの国の王妃様は、王子様の相手に姉ドルノを考えている雰囲気さえあった。向こうの屋敷の祖母もそう考えていた。
花束とかプレゼントとか、留学中の後半、毎日のように複数届いたのだ。全部送り返さなくてはならないので屋敷としては誇りつつも大変だったようだ。
ドルノは、応えられないので受け取れない、と告げ、その姿勢を変えなかった。帰国する予定を変えなかった。
ディアンを諦めることは無理だと判断したからだ。
そんな姉ドルノの長年の片思いが急に実った。そして結婚式。
ノルラは不満を持った。
「私とイーシスくんの方が先に結婚すると思ってたのに・・・! 私、まだプロポーズして貰ってないわ!」
***
「そう。それは、申し訳ない、かもしれないけれど、正直私たちの方が年上だもの」
と、姉ドルノは困った顔をしてみせつつも、冷静に事実を告げた。
「でもドルノお姉様とディアンくん、恋人になってまだ数か月なのに! 私とイーシスくんは、ずーっと恋人なのに、まだプロポーズしてもらってないの!」
とノルラは文句を姉に訴えた。
「そう言われても。私たちの結婚式を止めさせたいわけでもないのでしょ」
姉ドルノは冷静に首を傾げ、
「まぁ、確かに、本当に、急なのだけど・・・」
と顔を赤らめた。
ちなみにこんなに急に結婚する事になったのは、ディアンの方が焦っているからだ。今までさんざん片思いさせてきたくせに。
「絶対他の人に渡したくない、お願いだ、本当は今日でも結婚してしまいたい」
と泣きそうに一生懸命頼んでくるのを、姉ドルノは若干混乱しつつ、なんとか冷静になろうとして、
「準備もあるから、3ヶ月後なら」
と答えた。
長年の片思いをもってしても、あまりの展開の早さに姉すらついていけなかった結果だ。
とはいえすでにそこから1ヶ月経っていて、挙式はもう2ヶ月後。
準備はディアンの勇者の威力もあり、もうほとんど整っている。多分即日でも可能だったんだろうな、と周囲に思わせるほどである。
予定では、ドルノが気に入るのに間違いない、とディアンが確信をもって選んだ場所にて、ディアンの仲間の、教会関係者が祝福をする。半日あれば行って戻って来れる場所で、夕方、家に戻ってから祝福パーティ。
それには何の文句も無い。姉ドルノが嬉しそうで何よりだ。
ただ、触発されるのだ。
「私も、もう結婚したい!!」
ノルラの訴えに、姉ドルノは冷静だ。
「言う相手を間違えているわよ。イーシスくんに言えば良いと思うの」
「プロポーズはイーシスくんから言って欲しいの」
とノルラはさらに訴えた。
「そう。でもノルラから言っても良いと思うわ?」
姉ドルノは不思議そうだ。
その通りなのだが、ノルラは言った。
「えぇ。でも、イーシスくんはカッコいいもの。絶対きちんと考えてくれているもの。イーシスくんから絶対に言ってくれる」
「待つなら、そうでしょうね」
姉ドルノは変わらず冷静な意見である。
「でも、イーシスくんは堅実だから、絶対、私が希望するよりもタイミングが遅いと思うの! 絶対!」
「それは、そうかも、しれないわね?」
ノルラの訴えに、姉ドルノも少し考えたようにしつつも、肯定する。
「ノルラはいつぐらいに結婚したいの? そう言えば良いじゃないの」
「ドルノお姉様がこんなにすぐご結婚で羨ましいの! 私ももう結婚したいのよ」
「お父様が泣くかもしれないわね。末っ子は特に可愛いというもの」
「あら、ドルノお姉様だって同じでしょう。娘だもの」
「まぁどちらにしても、数年のうちの話だから大差ないかもしれないわね。それじゃあ、ノルラは具体的にはいつ、とか希望があるの? 私たちの結婚式が2ヶ月後よ。まさか一緒にしたいとか? それは困る。ちょっと無理だと思うわ」
「一緒なんて思わないわ。せっかくのドルノお姉様の式だもの。具体的に言うと・・・ドルノお姉様たちの結婚式の半年後ぐらい良いと思うの」
「じゃあ、イーシスくんにさりげなくお願いしてみたら良いと思うわよ?」
ノルラは真剣な表情で姉に告げた。
「・・・お願いがあるの、ドルノお姉様」
「何かしら」
「ディアンくんからイーシスくんに、そっと、勧めてもらえないかしら。私へのプロポーズよ」
「あぁ・・・。分かったわ。ノルラがプロポーズを待っている、私たちの半年後ぐらいが良いみたいに話していたって、伝えるので良いのかしら?」
「えぇ。ディアンくんから言ってもらうのが、一番良いと思うの」
「そうね・・・分かったわ」
姉ドルノは少し思案してから、ゆっくり頷いた。
***
そんな話から8日後。
ノルラはイーシスにデートに誘われた。