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閃光

 ひとしきり泣いた後、おとーさ……パパと一緒にご飯を食べた。

 パパと呼ばないと、泣きそうな顔になるので、早く慣れないと。


 パパはずっとこのお邸に住んでいたのかなと思ったら、最近、国王様に貰ったばかりらしく、二人で中を見て回った。


 家具や服、その他細々した物や、メイド、庭師に至るまで、全てミラが準備してくれたらしい。

 すごい。


 前のお邸より部屋数が多く、一人で歩いたら迷子になってしまいそうだ。

 その内の一つの部屋で、布の掛けられた、大きな物があった。


「お!これはもしかして……」


 パパは心当たりがあるらしく、それの前にわたしを立たせると、布を取った。

 それは、大きな絵だった。左側には、優しい顔で微笑むパパが描かれている。生き生きとした目は、今にも動き出しそうだ。

 そして右側には、鮮やかな若草色髪に、エメラルドをそのままはめ込んだような、美しい瞳の女性が微笑んでいた。

 腰まで伸びた髪は、ゆるく結い上げられ、その毛先はぴょんぴょんと外に跳ねている。


「シャルロッテは初めてだよな。この人はナターシャ、シャルロッテのママだよ」


「ママ……」


 じーじとミラが、似ていると言うのも分かる。髪と目の色を変えれば、ママがそのまま幼くなったように見えるだろう。

 不思議な感じだ。初めて見るのに、初めてじゃないみたい。


 そこでふと気付いた。

 お邸を見て回っている時、パパとわたしの部屋はあったけど、ママの部屋はなかった。


「ママは、ここに、いない?」


「……ママはね、シャルロッテを生んだひと月後に、神様の所へ行ってしまったんだ」


 神様の所へ行く、その意味は、わたしにも分かった。


()()()と、おんなじ」


「……そうだな。カルムさんと一緒にいるかもしれないな」


「ママは、どんな人?」


「ママはな、世界一綺麗で、どんな人にも優しくて、そして……」


「そしてっ?」


「あー、なんというか、その」


「?」


「破天荒な人、だな」


「はてんこう?」


 パパは何だか困ったような顔をして、側にあったソファーに座り、わたしを膝の上に乗せた。


「少し、昔話をしようか」






 

 まだ俺の父と母が生きていた頃。年老いた二人を養う為、冒険者として生活していた。

 当時、中級冒険者だった俺は、なんとか両親に不自由ない生活をさせられるくらい稼げるようになり、じわじわと名が知られ始めていた。


 冒険者組合では、初級、中級、上級、特級とランクが分かれている。


 初級冒険者は、冒険者組合から実力を認められない限り、身の丈以上の依頼は、受けられないような仕組みになっていた。


 しかし中級に上がると、自己判断で、危険度の高い依頼を受ける事が出来る。

 常にクロと二人で活動していたし、名が広まり始めて、少し調子に乗っていた俺は、明らかに身の丈に合っていない依頼を受けてしまった。


 勿論クロには止められたが、危ないと思ったら絶対に逃げるから!と、何とか説得して、意気揚々と出発した。


 結果は見るまでもなく、手も足も出なかった。全力で振った剣は硬い皮膚に弾かれ、避けたと思った攻撃は深く肉を抉る。

 浅はかだったと、一刻も早く逃げなければと思った時にはもう遅かった。

 俺を庇ったクロは深傷を負い、抱えながらでは到底逃げ切れない。例え一人だったとしても、俺の足ではすぐに追いつかれるだろう。


 攻撃が通らなくとも、がむしゃらに斬り付け、クロから意識を逸させるのが精一杯だった。


 そんな状態、長くは持たない。


 もう駄目だと思った。その時だった。


 俺を痛めつけて楽しんでいたその獣の首が、空を舞っていた。

 何が起こったのか分からなかった。


 呆然としていると、怒声が響き渡った。



「バカかてめーは!?死にてーのか!!!」







「それが、ママとの初めての出会いだった」


「……ママは、女の人、だよね?」


「ふふ、俺もびっくりしたよ。台詞と声が全然合ってないんだから。いや、まぁ、かなりドスの効いた声ではあったけど……」






 気付いた時には、獣の上に女性が仁王立ちになって、こちらを見下ろしていた。


「閃光の、ナターシャ……?」


 ナターシャは当時、特級冒険者だった。

 女性で、更に単独で特級というのは、少ない特級冒険者の中でもかなり希少な存在であり、その名を知らぬ人の方が少なかった。


「たまたま近くにいたから良いものを……コイツは中級如きが敵う相手じゃねぇ。そんな事も分からねぇなら冒険者なんかやめちまえ」


 そう吐き捨てると、クロにポーションをぶっかけた。

 もう助からないと思っていた傷が、みるみる塞がっていく。明らかに自分達では、手に入れるどころか見る事すら出来ない程高級なポーションだった。


「あ、ありがとう、ございます」


「……このじーさんを見捨てなかったのは上等だ。仲間を見捨てるクソ野郎共も、そこらじゅうにいるからな。だがな、泣くほど大事なら、金輪際こんな無茶すんじゃねぇ」


「え、あ……」


 言われ初めて、自分が泣いている事に気付いた。

 クロは俺が生まれた時からずっと一緒だった。それを、自分の馬鹿な考えのせいで、失ってしまうところだった。



「すみません、すみません……ッ!」


「ったく、アタシに謝ったって仕方ねーだろ」



 ナターシャは呆れたように溜息をついた。



「生きてて、良かったな」



 ぐしゃりと頭をかき回され、何度も頷きながら、涙を溢した。





少し昔話回が続きます。


10/19追記

明日の更新はお休みです!

10/20

決戦の結果待ちでそわそわしているので、結果が来るまでお休みです…!

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