繋がり ※挿絵有
目的地に近づくと、食欲をそそる、とてもいい匂いがした。
そしてそして星人と化していたわたしは、すんすんと匂いを嗅ぐ。
じーじとミラに笑われながら食堂に入ると、十人はゆうに座れる程のテーブルがあった。等間隔に置かれた蝋燭の明かりを、水滴を纏った花がキラキラと反射させている。
その内一つの席につくと、じーじが声をかけ、ワゴンを押しながら一人のメイドが近づいてきた。
わたしに配慮しての事だろう、ミラと同じく白いエプロンドレス姿だ。
横まで来ると、先程の匂いを漂わせた皿が置かれた。黄色のスープに白い円が描かれ、中央には刻まれた緑のはが浮かんでいる。
ごくりと喉を鳴らしながら、窺うようにメイドを見上げる。
メイドは笑みを浮かべ、スプーンを差し出し、大きく頷いた。
丁重にスプーンを受け取り、ひと匙すくう。甘く香ばしい香りに、また喉を鳴らし、小さく口を開け……
「シャルロッテ!!!!!」
派手な音を立てて開かれた扉に、びくっと椅子の上で跳ねる。
声のした方を見ると、あの邸で見た、橙色の髪をした男の人が、焦燥した様子でこちらを見ていた。
と同時に、三人分の溜息が聞こえた。
「旦那様、お気持ちは痛いほど分かります。ですがもう少し、お静かに入って頂けませんと……」
わたしはスプーンを皿に沈めて椅子から降り、すすすとじーじの後ろに隠れた。
び、び、びっくりした……!
「ああっ!ち、違うんだシャルロッテ、驚かせるつもりじゃ」
「「旦那様が悪いです」」
じーじとミラが声を揃えると、メイドまでこくこくと頷いた。
「だ、だって仕方ないだろう⁉︎ようやくシャルロッテに会えると思ったら、気が早って……」
「だってもへちまもございません」
じーじのズボンをきゅっと握り、少しだけ顔を出しで様子を窺うと、男の人はしゅんと項垂れて肩を落としている。
ぱちりと目が合い、さっと身を隠した。
「ううっ」
男の人の泣きそうな声を聞き、じーじはまた溜息をつく。
「旦那様、そこにしゃがんで下さい。ただでさえ図体が大きいのですから、それだけでお嬢様が怯えてしまいます」
「ぐっ……わかった……」
「次は目を閉じて下さい」
「な、それじゃシャルロッテが見えないじゃないか!」
「我慢なさい。その目付きの悪さで、散々、誤解を招いた事をよもやお忘れではないでしょうな?」
「ぐぬぬ……」
唸るような声がする。
少しして、じーじに背中を押され男の人の前に促される。
男の人は膝をつき、目を閉じ、じっと堪えるように拳を握っている。
「シャルロッテお嬢様、驚かせてしまい申し訳ありません。しかし、どうかお許しくだされ。この方は、お嬢様をあの邸に預けていた六年間、誰よりも身を案じておいででした。お嬢様の、お父様でこざいます。」
おとーさま……
目の前の男の人に近づいて、じっと見つめる。
近づくとよりわかる。とても大きな人だ。膝をついて、背中を丸めても、まだ目線より上に顔がある。
橙色の髪に触れてみる。
わたしと同じ色だ。
ゆるく波打つふわふわとした髪を襟足で纏めている。
ぺたりと頬に触れてみる。少し、やつれているだろうか。目の下にはうっすらと隈が出来ている。
僅かに睫毛が震え、目が開かれる。
その鋭い眼差しに、少し身を竦ませる。だが、その奥の瞳に、自分と同じその色に、ポツリと思わず言葉が溢れる。
「おとーさま」
その言葉に、カッと目が見開かれる。
「しゃ、しゃ、しゃるろってぇえええ〜!」
大きく腕を広げたかと思うと、逃げる間も無く抱き竦められ、わしゃわしゃと頭を撫でられる。
「むぐっ」
「一人でよく頑張ったな!えらい、えらいぞ!」
「むぐぐ」
「これからはずっと一緒にいるからな!これまでのことも、これからのことも、たくさん話をしよう!」
「むぐぅ」
「そうだ、クロばっかりずるいから、俺の事はパパと呼んでくれ!うん!それがいい!」
「ぅ……」
とうに枯れ果てたと思っていた。
この胸のあたたかさに、
言葉では言い表せない安堵感に、
次から次へと涙が溢れて、
止めようが無い。
今晩ちょっくら決戦なので明日の更新はお休みです…!
また夜に挿絵入れておきます…!!!