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悪は栄えない

「旦那様、シャルロッテお嬢様をお連れ致しました」


 長年付き従っており、自身が最も信頼を置く執事、クロエールの言葉に耳を疑う。


 ロッテ……シャルロッテの姿は、例えひと月の間行方を眩ましていたとしても、ありえない程に痩せ細り、酷く汚れていた。


 橙色の髪は見る影もなく、最早焦げ茶色と言ってもおかしくはない。

 しかしその髪の間から覗く瞳は、ラーデンと同じ色彩を放ち、確かにシャルロッテであると……自分の娘であると物語っていた。

 

「サルシュ夫人……これは、これは一体どういう事か……」


 覚束ない足取りでシャルロッテに近付き、震える手を差し伸べる。

 しかし、余程恐ろしい顔をしていたのだろう、シャルロッテはビクリと肩を竦ませると、クロエールにしがみ付いた。


 その様子にラーデンは、差し伸べた手を戻し、堅く握り締めた。


「……クロ、俺はサルシュ夫人と話がある。お前は先に邸に戻り、シャルロッテの介抱をしろ」


「かしこまりました。……旦那様、先程サルシュ夫人は逃げ出したと申されておりましたが、シャルロッテお嬢様は邸の裏手にて紐で繋がれておりました。見張りのメイドがおりましたので、恐らくこの邸の者は全て……」


「……そうか、分かった。行け。」


「は」


 振り返ったラーデンの形相を見たサルシュは小さく悲鳴を上げた。

 





 ーー時は6年前に遡る。


 ラーデン・レイルの家は元々貴族であった。とはいっても、祖父の代で没落しており、ただの平民となって久しい。元貴族とはいえ、お世辞にも裕福とは言えない家庭であったが、ラーデンは中級冒険者として家族を養っていた。


 クロエールは代々レイル家の従者として仕えていたが、祖父から暇を出されたにも関わらず、自身もまた冒険者になり祖父亡き後もラーデンを支えた。


 そんな中、シャルロッテが生まれ、ラーデンは一人の男として幸せの絶頂だった。

 しかし、長くは続かなかった。


 シャルロッテを産んで程なくして、妻が息を引き取ったのだ。


 ラーデンは気を落とし、生きる気力すら無くしかけた。しかしクロエールから叱責を受け、再び気力を取り戻した。


 亡き妻の忘れ形見を、シャルロッテを、ラーデンでなく誰が幸せにするのかと。


 この先の人生はシャルロッテに捧げる。そう強く誓った。

 だがしかし、現実はそう簡単にはいかない。シャルロッテはまだ乳飲み子、男が二人いても仕方がない。


 そこで頼み込んだのが、当時商人として名を上げていたカルムとサルシュ夫妻だった。

 夫妻の間に子は居なかったが、メイドの一人が子を身籠っていた。その乳をシャルロッテに分けてやって欲しい、更に冒険者として名を挙げるまで、シャルロッテを預かって欲しいと。


 カルムは優しく、懐の深い人物だった。ラーデンの妻が亡くなった事を知り、シャルロッテを快く引き受けてくれた。必ず健やかに育てると、約束してくれた。


 ラーデンは後ろ髪を引かれる思いだったが、シャルロッテの幸福な未来を見据え、クロエールを連れて旅立って行った。


 そしてその一年後、カルムが亡くなった。

 シャルロッテを引き受けた時点でカルムは自身が病に侵されている事を知っていた。ラーデンの腕を見込んでおり、迎えに来るまでそう長くはかからないであろうと読んでの事だったが、流行り病に罹り呆気なくこの世を去ってしまった。


 死の間際、サルシュにくれぐれもシャルロッテを頼むと、先に天へ向かう事をラーデンに謝って欲しいと、何度も何度も告げていた。


 しかし、サルシュは、シャルロッテを引き受ける事自体反対だったのだ。

 カルムの目があった手前、一年は我慢した。だが、夫はもういない。シャルロッテを流行り病で死んでしまった事にしようかとも思ったが、この一年で冒険者ラーデンの名はにわかに轟き始めていたのだ。


 とは言え、商人である自分達ですら一財産を築くのに相当な年月を費やした。加えて最近では、養育費として少なくない金銭が送られて来ている。たかだか冒険者風情がそんな事をしていては、更に長い年月が掛かるはず。

 

 そもそも、ラーデンがそこまで名を上げられるかどうかも分からないのだ。それまでは適当に生かしつつ金を巻き上げ、程よいところで理由をでっち上げて殺してしまえばいいと考えていた。


 しかしサルシュの考えは失敗に終わった。

 ラーデンはみるみる腕を上げ、国王からお声を掛けられる程になったのだ。本来であればあと2年は早く迎えに来れたものを、国王直々に頼まれては断れず、長引いてしまったのだ。


 そして一月程前、ついに迎えに行くとの文が届いた。この時点で殺していれば、シャルロッテのを見られてしまえばどうなるか考えていれば、この様な事にはならなかったであろう。

 だがサルシュはこの後に及んでも、金に目が眩んでしまったのだ。文にしたためてあった、謝礼金という言葉に。



次からやっとシャルロッテのターン……!

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