運命の出会い
「シャルロッテお嬢様……?」
声のした方に目を向けると、黒い服を着た人が立っていた。
初めて見る人だ。この人がわたしを死なせてくれるのかな?
首を傾けていると、少しずつ、黒い服の人が近づいてきて、わたしの目の前で止まり膝をついた。
「この髪の色は……いや、しかし……」
黒い服の人は口周りに白いものが付いていて、わたしはそれが気になってじっと見つめていると、ゆっくりと、ゆっくりと、黒い服の人が手を伸ばして人差し指の背でそっとわたしの頬に触れた。
殴られるのか。首を締められるのか。
そう思っていたのに、一本二本と指が増え、その内手の平撫でられる。
なんだろう、これは。なにをされているんだろう。今までこんな風に誰かに触られた事はなかった。
わからない。でも、あったかい。
少しして、失礼、と黒い服の人が言うと、伸び放題だったわたしの前髪をかき分けた。
「なんと……なんと言う事だ……」
何かを確信したかのように呟くと、わたしに繋がれている紐を断ち切った。
まるで壊れ物を扱うように、そっと抱き上げられる。
「シャルロッテお嬢様、長らく、お待たせ致しました。帰りましょう……我が家へ」
邸の応接間に夫人と、一人の男が座っていた。
がっしりとした体躯に一目で質の良さの分かる服を纏い、明るい橙色の髪と瞳が朝日を受けてキラキラと輝いている。
美男子の部類ではあるが、鋭い目つきが冷たい印象を与える。
しかし今は眉をハの字にし、親しみ易そうな印象へと変わっていた。
「このような時間に押しかける形となり、誠に申し訳ない。サルシュ夫人」
そう呼ばれたサルシュは、不機嫌そうな様子を隠す事なく切り捨てる。
「全くです。余りにも非常識ですよ、ラーデンさん。」
「申し訳ない、やっと迎えられると思うと居ても立ってもいられなくて」
嬉しそうに微笑むラーデン。
ふと、懐かしむような寂しそうな表情になる。
「カムルさんにも、お会いできたら良かったのですが…残念です」
「え、ええ…」
サルシュにとって、4年も前に死んだ夫の事など今はどうでも良かった。それよりも何とかこの男を追い返さねば、そればかりを考えていたが…
「ーーして、シャルロッテはどうしていますか?もう六歳になりますか……月日が経つのは早いものです。私に似て、サルシュ夫人のお手を煩わせていないと良いのですが」
その言葉にサルシュは眉をぴくりと反応させる。
「それが……ひと月程前にシャルロッテが邸から逃げ出してしまったのです。」
「な…っ!ひと月前であれば、既に私からの文は届いているはず、何故その事を知らせて頂けなかったのか!」
「それが、もうすぐお父様が迎えにいらっしゃいますよと伝えたところ、嫌だと言ってそのまま…ラーデンさんにそのままお伝えするのは、余りにも酷だと思い…」
「そんな…」
ラーデンは浮いた腰を下ろし項垂れる。その様子を見たサルシュは口元を隠し、口角を上げた。
どうやら上手く誤魔化せたようだ。これなら…
「わたくしも伝手を頼りシャルロッテを探して――」
その時だった。廊下からメイドの騒がしい声が聞こえてきた。
「お待ち下さい!今は奥方様が大切なお話をされています!このような勝手なッ…!」
「失礼致します」
乱暴に扉を開け放ったのは老齢の執事であった。
そしてその腕には…
「旦那様、シャルロッテお嬢様をお連れ致しました」