色々と寝取られたのをきっかけに人間を辞めて悪の帝王になる事にした
皆は人が堕ちる時はどんな時だと思う?
俺はちょっとしたきっかけだった。
まず最初に違和感を感じたのはパーティーを組んでる奴らのなんとも余所余所しいやり取りからだ。
俺の自己紹介をしておこう、長い青髪を背後に束ねていて、筋肉質の身体をした格闘家、それがこの俺、レイン・モルスだ。
俺はこのパーティーが好きだった、仲間達は可愛い女の子が四人もいて、賑やかで、ずっとこのままのパーティーで過ごせると思っていたからだ。
いや、もしかしたらこの時から違和感が俺の中ではあったのかもしれないな。
居心地が良かったが、俺の中にはずっとドス黒い何かが渦巻いていた。
それは、どうしようもない破滅願望と、悪と言われる者達へのなんとも言えない願望だ。
よく、人間の性は善だとか言うだろう? 性善説だったか?
だが、俺は違った、俺は人間の性は悪だと思う。
支配する事に安心し、自分たちの安心のためならどこまでも非情になれる存在、それが人間だ。
ある日、俺達五人のパーティーに一人の男が入りたいと言ってきた。
その男はSランクのパーティーに居たと俺達に話していた。その男の名はデルカ・ダンヒルという剣士だ。
短髪の赤い髪にピアス、そして、飄々としていて軽そうな男だった。
「ねぇー…サラちゃん、今晩開けといてよぉ…」
「ちょっ!? デルカっ! 離れて! レインに聞こえちゃうじゃないっ!」
「別に構いやしねーよ、あんな雑魚……俺の方が魅力的だろぉ?」
そして、物陰から聞こえて来るパーティーの魔法使いであるサラとデルカの声を聞いても俺は何にも聞こえないフリをした。
別にどうだって良かったからな、最初からこいつがこういう奴だって事は鼻からわかった上でパーティーに入れたんだ。
何故かって? その方が何か自分が変われるきっかけになると思ったからだ。
俺はどこか、このパーティーに満足していた節があった。
だが、その根底にはどこか……、何か納得できない、喉に魚の骨が引っかかるような違和感を常に感じていた。
「ねぇ、レイン? 次のクエスト何行くの?」
「ん? そうだなぁ……」
そう言いながら、腕を馴れ馴れしく組んでくる槍使いの女はキューリス・カーナ。
こんな風にしているが、俺は知っている。こいつは既にデルカに抱かれているという売女であるという事を。
既に堕ちてるクソみたいな女だ。こういう事を平然とやってのけるところに邪悪さを感じるが俺はそれが心地よい。
なんでお前はそんなに冷静なのかって?
告白した筈だ、俺は悪がむしろ大好きなもう取り返しのつかない人間という事を。
人間が安心できる一番の事はなんだと思う? そう支配する事だ。
まあ、デルカの奴は寝取った気になっているようだがな、生憎、俺のパーティーの女は既に俺が全員、貫通済みだ。
そして、デルカにはむしろ感謝したい、俺の内に秘められた悪を解放してくれた事にな。
「とりあえず、これを受けといて貰えるか?
俺が先行してクエストに向かっているから後でデルカ達と一緒に来てくれ」
「わかった」
そう言って、顔を赤めながら俺に告げるキューリス。
俺はその仕草すら、鼻で笑いそうになっていた。やはり、人間というのは害虫にすら劣るな。
生憎だが、俺は四人に愛着など持ち合わせてはいない、そうだな、強いて言えば愛着と言っても道具に向けるそれかもしれないな。
それから、俺はクエストに向かう振りをして、とあるダンジョンの奥地に進んでいた。
ここは死の迷宮と呼ばれているダンジョンだ。
俺がここに一人で来たのには理由がある。それは、ここにはある物が保管されているからだ。
俺はコツコツとソロでこのダンジョンの攻略を進めていた。
それはひたすらある、自分の願望を叶えるために必要なことだったからだ。
「ここか……。フン、随分と手間をかけさせてくれたものだ」
そのダンジョンの奥にある祭壇には秘密がある。
それは、血に濡れたブレスレット、これは幻魔になる為の契約がかわせるアイテムだ。
幻魔とは、幻の魔族であり、人間の生気を吸うことで生きながらえている種族、そして、この血のブレスレットは地獄を総ている幻魔の王バルデストの物と言われている。
これを付けた者は幻魔になり、人を辞めることができると言われていた物だ。
「フフフフフ……。アーハッハッハッハ‼︎
馬鹿な人間共めッ! この俺が支配してやるぞッ! 人間の本質は悪だろう?
ならば、この俺が自ら支配するのが道理というものだ」
笑い声をあげて、そう言い放った俺はそれをカチャリと腕に嵌める。
瞬間、腕に激痛が走った。だが、それも一瞬の出来事、次に感じたのは天にも昇るような甘美な快楽であった。
その身に一気に押し寄せるような罪、七つの大罪がまるで身体の中に一気に流れ込むような感覚さえ感じる。
俺の青髪はだんだんと銀髪に変わり始める。
そして、次に目を開いた時には真っ赤な眼に変わっていた。
「……フム、悪くないな、良ぃ〜〜気分だァ
さて、それでは奴等の所へ戻るとするか……ククク」
おそらく、俺が先にクエストに行っていると言った間に奴らは楽しんでいることだろう。
はてさて、どうやって支配してやるか今から楽しみで仕方ないな。
どちらにしても奴らは使い捨ての道具に過ぎない、この俺が人類総ての悪人達を従え、国を全て奪い去り、頂点に立つ為のな。
ギルドの宿舎。
そこでは、デルカの奴が俺のパーティーの女達を裸で侍らせながら悦に浸っていた。
その様子を俺は建物の上から見下すように興味深そうに窓の外から現在眺めている。
「フフフフフ……。
あのように弱い者から良いように扱われて、
まるで動物園の猿を眺めているような気分になるな」
俺が先にギルドのクエストに行っていることをいい事に好き勝手にやっている。
だが、その醜悪さこそが人間の本質だ。この俺はその人間を克服し、もはや、人としての感情はこれっぽっちも持ち合わせてはいない。
感謝するぞ、デルカ。俺がこの内にある悪に気づけたのは貴様のおかげだ。
今の俺を前にして俺のおもちゃで遊んで優越感に浸っている貴様の顔色がどう変わるか見ものだな。
「では行くとするか」
そう呟いた俺は覗いていた窓に向かって跳躍する。
幻魔になり、驚異的な跳躍力を得た俺にとってみればこのような距離はなんて事はない。
バリンッ! と音を立て割れる宿舎の窓ガラス、そして、いきなりの出来事にデルカの周りにいた女共は悲鳴を上げた。
そして、窓を割って入った俺はゆっくりとその場で立ち上がると静かな声色でこう告げる。
「おっと……。お楽しみ中にすまないね」
「な、なんだ貴様ァ⁉︎ ここはギルドの宿舎だ……」
「んっん〜……。静かにしたまえ、その声は耳障りだ」
そう言って、俺は裸で剣を構えてきた女騎士のナレーの腹部を殴りつけて黙らせる。
その様子を目の当たりにしていた女達の顔は真っ青になった。そして、それは先程までこの状況を楽しんでいたデルカも同じだ。
それから、赤い眼差しを真っ直ぐに彼女らに向けると、甘くゆっくりとした口調でこう語り出す。
「随分とお楽しみだったァみたいじゃないか? ん?
すっかり誰かを忘れてたみたいだが……」
「そ、その声は……」
「ハハハハ! 何を焦っているのかな?
私は怒っていないよ……。
そんなに怯えなくても良いじゃあないか」
その声は間違いなく、パーティー全員が聞いたことがある声だった。
彼女達がずっとそばにいた存在であり、共に苦難を乗り越えてきたこのパーティーのリーダーと言っても良い、レイン・モルスその人である。
俺の顔に気づき、その途端に全員が青ざめていく事がわかった。
ずっと前から知っていたのだから別にそこまで絶望的な顔をしなくても良いというのに。
「レ、レイン⁉︎ 違うのッ! これは……」
「別に良いではないか。
何をそんなに焦っているのだお前は」
「これはデルカから言われて……」
その瞬間、俺は深いため息を吐く。
何故、言い訳をするのか、むしろ開き直れば良いではないか、俺はそんなちっぽけな話を聞きたいわけではないんだよ。
縋り付くように私の足に引っ付いてくるサラの顔面を俺は容赦なく蹴り上げた。
「気安く触るなよ蟲が。開き直るかと思えば……なんだそれは?
愚か者が」
「は……はひ……⁉︎」
「さて……。それじゃデルカ、次は貴様だ」
俺はゆっくりとデルカに近寄るとゆっくりと彼に視線を合わせる。
わざわざこの俺がこの場所に来たのは他でもない、女共ではなくこのデルカに用があっただけなのだ。
奴の内心に蠢く邪悪さに俺は目覚めさせられた。ならば、俺には部下としてこいつが必要だ。
ゆっくりと甘い声色で俺はデルカにこう問いかける。
「貴様が欲しいものはなんだ? そこに居る女達か?
それとも永遠の命か? 莫大な富か?
……フフフ、そう恐れることはない、貴様の望むものを聞いているだけだ」
「レ、レイン……⁉︎ お前……怒っていない……のか?」
「何故、怒る必要がある?
俺は貴様のその行動に感服し、敬意を評しているのだ。
デルカよ……」
その自分を肯定する言葉にデルカは思わず目を見開いた。
先程からずっとそうだ、レインはむしろ、このデルカの行為を評価している。
欲望に忠実で、レインから全て奪いたいと思い、デルカは彼女達を脅して一人ずつ時間を掛けて堕としていった。
だが、レインはそんなことはとっくに知っていたのである。わかった上でそれ自体を愉しんでいた。
必死に足掻くデルカを、そして、愚かにもその男に尻尾を振る女達を心の底から楽しんでいたのだ。
「奇しくも……、私を目覚めさせたのはお前だ。
だから、選ばせてやろう、私に忠誠を誓え
そうすれば貴様の欲しいものを与えてやろう」
「……お前になんで俺が……」
「おっと、勘違いするなよ? 私に忠誠を誓わないなら残された道は一つしか無い。……選択を誤るな」
俺は甘ったるい声で囁くようにデルカにそう告げる。
正直、部下にデルカは欲しいと思った。醜悪さ、欲望を考えればこいつには使い道がたくさんある。
だからこそ、こいつが望むものを聞いた。私の元に居れば、こいつにはそれを与えてやろうと考えたからだ。
「ハッ……。誰がお前なんかに……」
「そうか……それは残念だ、非常にな……。
貴様なら我が良い手駒になっただろうに」
そう告げると俺はゆっくりとデルカの首を片手で掴み上げる。
デルカは俺に抵抗しようと手を何度も殴ってくるが、俺はお構いなしにその身体を持ち上げた。
地に足がつかないデルカの足は力なくパタパタと動いている。
「ならば、せめて我が糧となるが良い……!」
「ま、待って! 待って! 気が変わった!
少し話し合お……」
「悪いが答えは先ほど聞いたばかりだ」
そこから、デルカの身体からまるで生気が吸い取られていくように、首を掴んでいる俺の腕に集まっていく。
みるみる内に身体がまるで干からびたミイラのようになっていくデルカ、俺は笑みを浮かべながら、全ての正気を吸い取るとその残りカスをゴミのように窓の外へ投げ捨てた。
下からは何やら潰れたような音が聞こえてきたが、きっと気のせいだろう。
さて、問題はこの残った売女達だが、どうしたものか。
「さて……。貴様らはどうする?
この俺に忠誠を誓うか養分になって、あの残りカスのようになるか?選ばせてやろう……。
私は今、心地よい正気を吸ったばかりで気分が良いからなァ」
「……人間じゃない……。ば、化け物……」
「あぁ、人間ならとっくに克服したところだ。君らがベットで楽しんでいた間にな。
……で? それがどうしたというのだ?」
俺の言葉に怯えたような視線を向けてくるサラ。
おいおい、先日まで仲間だったじゃないか。そんな怖がらなくても良いだろう。
俺に忠誠を誓いさえすれば、この目の前にある恐怖と対峙する必要は無いのだ。そう、身も心も委ねるだけ、簡単な話だろう?
「そうか……。お前達はあの残りカスになりたいのか?
ならば、別に構わないがな、どれ……誰から来る?
貴様か? ナレー」
「……ッ」
恐怖に竦む身体を震わせながら、ナレーは真っ直ぐに俺に剣を向けていた。
だが、俺はそんなナレーが構えている剣先にそっと指を添えてやる。そして、甘美な言葉遣いで震えている彼女に向かいこう告げた。
「何を怖がっている? 別に騎士が不義であろうと良いではないか? それが貴様の生き方なのだろう、ナレー」
「だ、黙れッ! この……! 魔物ッ!」
「フハハハハッ! 魔物かッ! アハハハハ!
では、その剣を握る醜悪な貴様はなんだというのだ? 売女の騎士よ」
「なっ……」
俺の言葉にナレーは思わず顔を紅潮させ、口を噤む。
騎士として不義であり、さらに、男に寝取られるような尻軽の売女、彼女が胸を張って女騎士と名乗れるだろうか?
答えは否だ。どのような言い訳を並べても最早、ナレーは取り返しのつかない事をしてしまっている。
それは信頼への裏切りだ。騎士としてあるまじき恥さらしである。
「騎士として忠義を貫かせて欲しい……だったか?
その言葉をもう一度聞かせて欲しいが、どうなのだ、ナレー……」
「それは……」
「言えないだろうなァ! アハハハハ!
だが、それで良いじゃあないか、何がいけない?
何故貴様は罪悪感を抱いているのだ?」
俺の問いかけに黙り込むナレー。
人間というものは悪い事をすれば罪悪感で押しつぶされそうになる。だが、その自分を受け入れてしまえば楽になるというものだ。
そうすればどうでも良い罪という概念など心の中からなくなってしまう。
俺は甘美な声色で、ゆっくりと囁くようにナレーにこう告げた。
「私の下に来ればその罪悪感から解放されるぞ? ナレー」
失った信頼はずっと失われたままだ、なのに何故、反省する必要があるというのだ。
そんなものは不要なものだ。悪しきものに過ぎない。
開き直れば良いだけの話よ、この俺のようにな。
「さて……もう一度聞かせて貰おう、あの残りカスになりたいか? ナレー」
「……いえ……。なりたく……ありません」
「そうか? ではどうする?」
「貴方様に絶対の忠誠を誓います」
「そうか、なら、貴様もこちら側の人間だな」
そうナレーが告げた瞬間、俺は彼女の胸元に向けて手をかざす。
すると、みるみる内に、彼女の身体から褐色の肌へと変化していく、これは、俺が彼女を幻魔に変化させたからだ。
忠誠の証として、その胸元には刻印が刻まれる。もし、俺を裏切ろうとした時には数分たたずに刻印が発動しナレーの身体は四散するだろう。
まず一人、人間を辞めさせた、さて、残るは三人だが。
「……わ、私は! 忠誠を誓います! 誓いますからぁ命だけはァ!」
「……ハッ! そうか」
槍使いのキューリスはあっさりと命乞いをする様にすぐさま俺にすがってきた。
清々しいほどのクズだが、ただの使い捨てのクズならこれくらいがちょうどいいだろう。とるに足らない部下だ、どうでも良い。
それから、真っ直ぐに見てくる魔法使いのサラ。
彼女は震えた声で俺にこう告げてくる。
「……どうすれば、元に戻ってくれる? ねぇ、レイン」
「元とはなんだ? サラ」
「優しいレインにどうしたら……」
「元から俺はこういう存在だ。
地獄の釜を開けたきっかけは、外で干からびた残りカスだがなァ。
……で? 言いたいことはそれだけか?」
まるで全く、何も俺の本質に気がついていないサラの言葉に思わず笑いが出そうになってしまった。
優しいとは? あぁ、気にかけたりした事かな?
あれは便利な飛び道具が傷ついていないか確認するためにしたに過ぎない、竿を手入れするとか、使ったオノを磨くとかそういう感覚だ。
別にお前が死のうがくたばろうが、俺の感情には一切悲しみなど微塵も入って来ない。
俺は容赦なく、サラに向かってそう全て打ち明けてやった。
「酷い……。なんて……」
「アハハハハッ! 同じ穴のムジナの癖にそんな言葉が出てくるとはッ!
うむ、やはり貴様も大した者だ。気に入ったぞサラ。
……で? どうするのだ?」
俺の問いかけに口を噤み、黙るサラ。
お前達は俺がクエストに先行をしているのを理解した上で、それを忘れて肉欲に溺れようとした邪悪な存在だ。
それを棚に上げてこの俺をどうこう言えるような立場でない事は少し考えれば理解出来るだろう?
だから、選択肢を与えてやっているというのだ、この俺がな。
「……誓います」
「そうか、なら、そこに跪け」
「はい……」
こうして、サラもまた、同じように人間を辞め、幻魔として俺の部下となった。
さて、最後の一人だが、確か彼女はまだデルカの手には堕ちていなかったか?
僧侶の女、キルヒ・シャルロットは確か、この場にデルカから呼ばれていたはずだが。
「……あの女、逃げたか」
俺は窓の外でどこかへ走るように逃げているシャルロットの姿を目視で捉えると鼻で笑う。
まあ、良い、あの女が一人いなくなったところで別に何の支障もないだろう。
いずれ、部下になるか、死ぬかの二択を迫るだけの話だ。
さて、邪悪を統べる帝王となるべく俺の歴史的な夜はこうして最高のものとなった。
こうして俺は色々と寝取られたので悪の帝王に目覚め、人間を辞めることにした。
これから、支配を始めるとしよう。人間共のな。