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孤独な旅路  作者: alc
8/12

4話

―――3年後―――


「クソッ、火傷で体中痛い……」


俺は100層のボスだったドラゴンを倒した。ドロップは普通のポーションだった。今までのポーションよりも少し色が濃い。性能も普通のより良いのだろうか?


でも今使うのはもったいない。普通のポーションで多少痛みは引いたがまだ痛む。体にムチを打ち階段を降りる。


下は体育館位の部屋の中央に人の背丈程もある巨大な魔石が浮かんでいた。これがダンジョンの核なのだろう。その巨大な魔石をアイテムポーチに回収した。


すると、周りの壁や天井がガラガラと大きな音を立てて崩れ始める。天井の岩に押し潰されると頭を庇った瞬間、俺は独り森の中に立っていた。今となっては懐かしい森だ。


「うぉぉ!攻略完了だッ!」


声に釣られてか、林の中から熊が出てきた。


「熊か。力試しには丁度いい」


俺は漆黒の剣を抜き、丸太のような熊の首を一瞬で刎ねる。ポーションのおかげて大分痛みは引いたが、動くと体中の火傷が痛い。自分に回復魔法を掛けても一向に治る気配がない。流石ドラゴンの攻撃だ。


熊をポーチにしまうと、あの洞窟に行く事にした。確か、ガラクタの中にこの世界の硬貨みたいな物があったはずだ。硬貨があると言う事は人もいるはず。まずは人を探そう。それでこの火傷を治してもらう。


洞窟にはまたしてもゴブリンが住み着いていた。魔法で容赦なく蹴散らし、目的の物を見つけるとさっさとその場を後にする。


川沿いに1週間歩いた。それでもまだ人の痕跡がない。あと1日歩いて何も無ければ引き返そう。そう考えていた時だった。


「あれは……? 道か?」


一定の幅で木や草刈り取られ、踏み固められた道がある。

やっと人の痕跡を見つけた!


「さて、右と左、どっちに進むべきか」


俺は感に従って右に進む事にした。

そこからまた1週間歩いた。そろそろ、歩くのが嫌になってきた。いつになったら町に着くのだろうか? そろそろ昼にしようと、道端で休憩していると馬の足音が聞こえてきた。


俺が歩いて来た方角に荷馬車ゆったり走っているのが見えた。少しワクワクしながらそれを見ていると、荷馬車が俺の前で止まった。


『!(%^@!^$(#;@&3@&=*(@:$!"』


御者台に座っていた40代の男が話し掛けてきた。何を言っているのかさっぱり判らない。取り敢えず「こんにちは」と挨拶してみると、男は使う言語が違う事を悟った様だ。男が手招きをするので荷馬車の側に近寄ると、今度は御者台を叩く。


乗せてくれるって事か。男の手を借りながら御者台に座る。


「アース公国、から、来、た、のか?」


男が荷馬車を出発させながら、片言で俺に聞く。


「いえ、違います。言葉喋れるんですか?」


「少し、だけ。怪我は、どうした?」


「モンスターにやられました……」


「あと、1日で、街に着く。それまでの、辛抱だ」


それから少し御者の男と話をしていると、荷台に1人座っている事に気付いた。御者の男―――ジルさんの護衛だそうだ。


「こいつ、は、アース語を、話せない」


それから街に着くまでジルさんと少し話しをした。ジルさんは商人で、生まれ故郷の村に商品を届けた帰りだったとか。俺もジルさんと出会うまでの話をかいつまんで説明した。


「大変だったな。知り合い、の、治療師に、相談してみよう」


なんていい人なんだ。初めて会った人がいい人でよかったら。街が近づいて来たせいか、人とすれ違う事が増えてきた。


すれ違う度に俺の怪我に息を呑む通行人達にうんざりしてフードで顔を隠す事にした。それなりに大きな街のようで門には行列が出来ている。荷物検査と身分証の確認をしないと中に入れないみたいだ。


俺達の番になる。ジルさんと護衛は鉄の板のような物で出来た身分証を門番に渡す。


「身分証、持ってるか?」


「持ってないです」


首を横に振りながら答えると、ジルさんが門番に通訳してくれた。すると門番から木札を渡され、何か言われた。


「この街の中、歩く、時は常に持ち歩け、だって」


「なるほど、分かりました」


門を通ると、俺はジルさんと一緒に治療師の元へ行く。

ジルさんの知り合いの治療師に治療してもらって痛みはかなり引いたが、これも一時的なものだろうと言われた。何でも、この怪我には強力な呪いが掛けられているらしい。その呪いが回復を阻害していて治りが遅くなっているんだとか。


治療師に礼を言い、持っていたお金をあるだけ渡そうとすると、ジルさんの紹介だから要らないと断られた。


「……これからどうしよう」


「する事、ないならうちに、来るか? 丁度、護衛を増やそうと、思ってた所だ」


俺はその言葉に甘えて、ジルさんの護衛として雇ってもらう事になった。アース語を話せないジルさんの護衛はムンブという名前で、俺は改めて挨拶した。


まずは身分証を発行しに行く。護衛の身元がはっきりしていないのは良くないと言われた。考えてみれば、身元不明の奴を雇いたいなんて思う雇用主は居ないよなぁ。


身分証の発行はギルドと呼ばれるところで発行してもらうのが一般的なのだとか。

俺はジルさんに連れられて冒険者ギルドに来た。冒険者ギルドは広く、酒場も併設されていた。まだ昼間だからか人はまばらだ。


『……なぁ、あれ見ろよ。変な奴が来たぞ』


『仮面なんか付けて、恥ずかしがりやさんでちゅね〜』


『けっ、ここは英雄気取りのガキが来る所じゃねぇ』


酒場からは俺を嘲るような視線を感じた。どうやらあまり歓迎されていない様子だが、スルーして受付へと向かう。


『いらっしゃいませ!クエストの依頼ですか?』


『いや、今回はこいつの身分証を発行して欲しい』


『身分証、ですね。かしこまりました』


この国の言葉なのだろう。俺の知らない言葉で話している。話が終わると紙とペンを渡され、名前と年齢の記入に血判をするよう言われた。

それを書き終え受付嬢に渡す。すると受付嬢は紙を持って奥に消える。しばらくして戻ってくると手に鉄の板のようなものを持っていた。これが身分証らしい。肌身離さず持ち歩くように言われた。


『すみません、一応仮面を外して顔を見せてもらえませんか?』


「顔を、見せてくれ」


ジルさんに言われ、仮面を外す。俺の顔を見た受付嬢は目を見開き息を飲む。

だから嫌なんだよ。俺は見世物じゃない。


『あ、ありがとうございました。これで証明書の発行は完了です』


受付嬢は取り繕うようにそう言った。


門でもらった木札を返し、ジルさんの所有する倉庫へと向かった。倉庫で荷物を載せて、俺達は翌日の朝にこの国の王都、イリニ共和国に向けて出発する。

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