孤独な旅路 #4
敵はオーク8体、魔法使いオーク、ボスオークだ。
ボスが大剣を振り下ろす。あの大剣は受けられないな。まともに受けたら間違いなく剣が折れる。ボスオークとすれ違うように避ける。
避けた所に魔法が飛んでくる。それを魔法で相殺してさらに突き進む。魔法使いオークまでもう少し。すれ違いざまにボスオークを斬りつけるが鎧に傷をつけるだけに終わる。
「ピクリともしないか……」
渾身の一撃を受けて全くの無傷。悔しさについ呟きが溢れる。ボスオークの大剣が振られる音がした。更に前進して躱す。俺は大きめの火球を全方位に放ちつつ魔法使いオークに肉薄して首を跳ねる。
失敗した。
いや、首を跳ねる事は成功したがその首は通常のオークのものだった。通常のオークが身代わりになったのだ。さらに通常のオーク達が魔法使いオークを庇うように肉壁となる。
「これまで、だな」
後ろにはボスオーク、前にはオーク達の肉壁。魔法もこれ以上使えば気絶するだろう。もはや勝ち目は無いな。撤退しよう。
反転、ボスオークの袈裟斬りを横に飛んで避けるてそのまま逃げる。魔法と弓矢飛んで来るが無視して走り続けた。
「ウグッ……!クソッ!」
肩と太腿に矢を受けた。半端なく痛い。だがここで止まれば死ぬのは目に見えているので無視して逃げる。
オーク達は村の守りを優先したのか追って来ることはなかった。かなり離れた所でキューブの部屋に転がるように逃げ込む。
「うぅっ、くそっ、痛い」
ポタポタと矢から血が滴る。貯めてあった水で傷口を流し、意を決して矢を抜いていく。あまりの痛みに声にならない声を上げる。魔法で回復しようにも痛みで集中出来ない。やばい、死ぬ。
霞む視界の中である物が目に入った。ビンに入った赤い液体。前にドロップしたポーションっぽい何かだ。毒だったらどうしようと一瞬手が止まるが飲まなくてもどうせ死ぬし、赤い液体を一気に飲み干す。
すると胃のあたりが少し熱くなり体の痛みが引いてゆく。
「ふぅ、これなら行けそうだ……!」
矢を受けた傷口に回復魔法を掛ける。少しして傷口はなんとか塞がった。だが俺の魔力が尽きた。
「うぅっ、頭がクラクラする」
どれ位経ったのだろう。感覚的にはそこまで経っていないが喉がカラカラだ。とりあえず食事にしよう。適当に置いてある肉を焼いて食べる。無言で食事をしているといつの間にか涙が溢れていた。
生き残った安心感。そして敗けた悔しさで目の端からポロポロと涙が溢れる。
それから数日間は部屋の中で休んだ。肉体的な部分は1日で完治したが、心理的な部分でもう少し休む事にしたのだ。
数日療養したおかげて体は絶好調だ。いつまでも引き籠もっていられる訳じゃないので俺は暫くこの階層に腰を据えて鍛錬する事にした。
あのオーク達は倒さなくても先に進む事は出来るだろう。だが、逃げた所でどうする? 今逃げても結局後になってツケが回ってくるんだ。やろう。
「よし! まずは強くならなきゃ!」
あの戦闘で足りなかったものを考えてみる。何があれば勝てただろう?
正面突破ならボスオークを最初に倒すべきだった。ボスオークの攻撃力は高いが速度はギリギリ避けれる程度だ。他のオークの横やりに対応する必要もあるな。ボスオークにダメージを与えられるようにもならないと。
「攻撃力と感知能力か……」
1週間サバイバルしてみよう。それなら筋力も鍛えられて感知能力もつくだろう。そうと決まれば早速準備していく。あの戦いで損傷した装備は修理済みだ。
「よし、これでこの部屋とも暫くお別れだ」
少し寂しさを感じつつもパタンと部屋の扉を閉める。そしてこの白い部屋を封印する。封印とは言ってもオークの皮で作った御札をただ貼り付けただけのもので全く効果はない。気分的なものだ。
さて、手頃なオークで腕試ししつつ襲撃に失敗した集落でも見に行こう。どうなってるかな?
「うわ〜、警戒してるなぁ。ま、そりゃそうか」
集落の方へ向かうとオークとは1度も遭遇しなかった。どうやら集落の警備を強化しているようだ。今の目的は鍛錬なので軽く偵察だけして離れる。
「この感じだと前回よりも厳しい戦いになりそうだな……」
そんな危機感を感じながら1週間のサバイバルに挑むのだった。
1週間後
「よぉし! この階層で1週間生き残ったぞ!」
毒蛇っぽいのに噛まれそうになったり、夜中にオークに寝込みを襲われたりしたけどなんとかここまで生き抜いた。誰か褒めて欲しいよ、ほんとに……。
この1週間で複数の敵と戦う感覚は掴めた。体感にはなるけど魔力も1週間前よりも確実に上がっている。次は絶対に負けない。
キューブで1日位休もうかと思ったけど、気を緩めてこの感覚を失いたくないのでそのまま例のオーク達の集落へと直行した。
「やっぱりまだ警備は厳重だな」
前回の襲撃以降、集落の付近には極力近づかないようにしていたがそれでもまだ警戒されているようだ。見張りのオークに見つからないように気を付けながら集落に近づき、深呼吸を1つ。さぁ始めようか。
見張りのオーク2体の首を一瞬で刈り取る。一拍遅れてドシンとオークの倒れる音が響く。すぐに集落の中に入り込み手近なオークに斬りかかる。そのオークも斬り伏せると、矢が飛んで来た。
「やっぱり警戒してるだけあって対応が速い」
早速特訓の成果を見せる事になるとは。俺を中心として球状に薄い魔力を放出する。これでこの魔力の中に入ったものは感知出来るって寸法だ。しかし、魔力を維持するのが結構大変で動きながらだとかなりの集中力が必要になる。それに魔力の消費も多い。
そうこうしてる内に魔法使いオークと大剣のオークが出てきた。前回と同じで大剣のオークが前衛だ。
オークが大剣を振り下ろすが、それを紙一重で躱す。これも魔力の感知能力のお陰で出来るようになった。オークの鎧の隙間、右脚の関節に剣を突き刺す。
「グモォォォ」
大剣のオークは痛みで膝をついた。そのまま首を刈り取ろうと剣を振りかぶると、そこに他のオーク達の弓矢や魔法が飛んで来た。
だが当たらない。弓矢も魔法も紙一重で躱す。そのまま大剣のオークの首を切り落とした。
他のオーク達は大剣のオークがやられた事に一瞬動きを止めたかと思うと雄叫びを上げながら殺到してきた。魔法使いオークも味方のオークを巻き添えにする事も厭わずに魔法をガンガン放ってくる。しかし俺が展開している魔力で既に感知しているので避けるのは容易い事だった。残りのオーク達の首を跳ねる。
「ふぅ、思ってたよりあっさり終わったな。かなり疲れたけど……」
キューブの部屋には戻らずに休む。これからはキューブの部屋は倉庫にする事にした。今回の戦いでそうした方が自分の為になると感じたからだ。こうやって常在戦場の心構えを己の体に刷り込ませておけばいざという時に役に立つかもしれない。
少し休んでからこの集落の家探しを始める。
「お、この剣は使えそうだ!」
動物の皮で出来た不格好なテントの中に、俺でも使えそうな剣があった。あのボスのオークの剣も中々のものだったけど重すぎて持てなかったので倉庫へと放り込んである。
まぁ剣の鑑定なんて出来る訳じゃないから見た目で判断しただけだけど。
集落の真ん中に一際大きなテントがある。ボスが住んでいたテントだ。他のテントにはさっき見つけた剣くらいしかいいものがなかったので期待を込めて中へと踏み込む。