#3
ボス部屋の階段で下の層へと降りる。降りた所で白いルービックキューブを使い、部屋に入る。
部屋に入ると倒れるように横になり、そのままぐっすり寝てしまった。
喉の渇きで目が覚める。自分の魔法で生み出した水で喉を潤す。
「自分で出したモノを飲むとはヘンな気分だな」
今更ながら何とも言えない気持ちを抱きつつ、渇きが癒えるまで水を飲み続けた。ついでにカバンから食べ物を取り出し朝食を取る。
昨日の草原での戦いや、ボスの巨大芋虫との戦いを思い返す。草原では索敵が足りずに囲まれたし、芋虫に対しては威力が足りなかった。
足りないものばっかりでうんざりする、と独り言ちたがそうも言ってられない。何しろそれで失うのは自分の命なのだから。
「取り敢えず、次の階段を探しながら考えよう」
11層の敵は動く植物だった。主な攻撃は棘の生えた蔓での攻撃だ。動きは単調なので問題なく倒せる。しかし、この階層では1~3体で敵が出てくるので2体以上の時は逃げに徹している。
「ふぅ、なんとか撒いたか」
今も2体の植物から逃げたところだ。後ろを振り返りもう追ってきていない事を確認して歩き出す。
「うわっ!」
ダンジョンの床がまるで存在しなかったかのように突然消える。石畳へと踏み出した足が空を切り、浮遊感が襲う。その浮遊感は一瞬で収まり、次に衝撃がくる。
「痛ったいなー。もう!」
落とし穴だ。深さは俺の腰位の高さしかない、子供のいたずら程度のものだ。それでもこんなのを戦闘中に踏み抜けば死にかねない。もし罠を踏み抜いたとしても対応出来るように植物が1体の時にしか戦っていない。しかしこれでは探索が遅々として進まない。
「はぁ、どうしたもんかな」
今出来ることは床や壁をよく観察して違いがあるか確認しながら進むしかないか。周りの壁や床をよく観察しながら慎重に進む。
「あれ?」
前方に少し色が違う床がある。周りの床と違って色褪せていない。
「これだ!」
色の違う床に軽く方足を乗せてみる。すると床に何やらよくわからない文字の様なものが一瞬だけ浮かび上がり、床が消えた。どうやら敷設式の魔法らしい。
もう少し調べてみた方がよさそうだ。罠を探しながらダンジョンを彷徨う。しばらくしてさっきと同じような床を見つけた。今度は魔法をぶつけてみる。
「ふむ、魔法でも発動するのか」
他にも色々と試してみた結果モンスターは罠に反応せず素通り、石や物を使って発動させようとしても反応しなかった。どうやら罠が有効なのは人だけのようだ。人類に優しくない。そんな文句を言っていてもダンジョンが難易度を下げてくれるわけではないので頭を使って乗り切るしかない。
罠を判別出来るようになったので、今度は複数の植物を相手にすることにした。この植物なら複数でも倒せるだろう。
「おあつらえ向きのがきたな」
植物のモンスターが3体こちらに向かってきた。この近くには罠が無いことは確認済みだ。植物が俺に気付いて、のそのそと向かってくる。元が植物なだけあって移動は遅い。
小走りで植物に詰め寄りながら火球で1体を焼き、もう1体を剣で切り捨てる。最後の1体がムチをしならせるように蔓を振り回すが、距離を取って魔法で止めをさした。
「罠さえなければ余裕だな」
少し腹ごしらえでもしよう。魔法で倒した植物は焼けて真っ黒になってしまっている。黒い部分を削ぎ落として中身を齧る。少し苦くて美味しくはない。例によってまた胸が痛くなる。しかしそれもすぐに収まった。痛みが収まるまでの時間がどんどん短くなっている。
「適応してきてるのかな?」
自分をそう納得させて食事を続ける。誰も見ていないのでお上品にも茎にかぶりつくと、ガリッと音がして何か硬いものが歯に当たった。吐き出してよく見てみると小さな魔石だった。
「そういえばこれ結構貯まってきてるんだよな。何かに使えるといいんだけど……」
食事を終えてキューブの部屋に入る。端の方で小山になっている魔石の山に新たに3つを加えた。いくら考えても分からないし、魔石については引き続き保留だ。
「あれ? 部屋が少し広くなってる」
魔石の小山が崩れている。どうやら所有者の魔力の大きさで部屋の大きさも変わるらしい。あまり変わった感じはしないけど……。
「でも、これで自分の魔力総量を測れるな!」
最初の壁だった位置に魔物の骨を置いて、どれ位成長するのか見てみよう。
一ヶ月後
20層まで到達した。あれから部屋の広さは1メートル程広くなった。少なからず成長している証だ。
20層は森で見通しが悪く、マップを分断するように川が流れていて中央には池がある。森にはオークの集落があちこちにあり、かなり広範囲にオークが徘徊している。
「一応、オーク数体なら魔法なしで倒せるようにはなったけど……。やっぱり連戦はキツイなぁ」
倒したオークを解体して部屋の中に運びながら呟く。周囲にはオークの死体が10体程転がっている。
すべてのオークを部屋へ運び、肉を燻製にする。方法はうろ覚えだが、一応食べれる位の出来なので保存食にする。
1度外に出て魔法で土器を沢山作っておく。ここからもう少しした所に池があるので、作った土器に水を確保した。
途中でワニのモンスターが出て来たのでそれも倒して解体した。ワニ革だ!
「ふぅ、これで暫く持つな。攻略を続けよう」
オークの集落を1人で蹴散らせるくらい強くなりたい。オークの集落の中で1つだけ森の外れにある集落があった。出来たての集落なのかオークの数が十数体と少ない。小さな集落だ。
明日の午前中に決行する。
夜襲も考えたが、昨日1日張り込みした感じだと昼間に2、3体で一組のオーク達が3組ほど狩りに出掛けていた。昼間が1番手薄になる。
キューブの部屋で朝まで休み、準備を整える。
「よし、攻略してやる」
2体のオークが狩りに出たのを見て後をつける。ある程度離れた所で奇襲して手速く片付ける。戻ると2組目の3体が狩りに出る所だった。少し手間取ったがこれも片付ける。
「よし、乗り込むか」
隠れる事なく堂々と正面から入る。近くのオークが豚のように大きく叫びながら棍棒や剣を手に向かってくる。ちょっと怖い。
近づいて来るオーク達に火球を連射してダメージを与えつつ牽制する。それを抜けて来たオークには剣で斬りかかるが、向こうも馬鹿ではない。
俺の攻撃を剣で受け、お返しとばかりに胴に蹴りを放つ。それを後ろに飛ぶ事で避け、オークに高火力の火球を放つ。威力は強いがその分魔力を持っていかれた。肉の焼ける匂いが辺りに満ちてオークが崩れ落ちた。一息つく間もなく他のオーク達が迫る。
「グゥオオオー!」
「っ! 何だ?」
オーク達の後、奥の方から獣のような叫び声がしたと思うと火球が飛んで来る。少し掠ったがなんとか後ろに飛びのき避けた。
「少し服が燃えた」
苦労して作った自作の服が焦げて思わず舌打ちする。いつの間にか村の外まで押し返されていた。
オーク達の後ろから杖を持ったオーク、鎧を着て自身の背丈ほどもある大剣を持ったオークが出て来る。
一旦引いて仕切り直すべきか? いや、不意打ちだったとはいえあの魔法は厄介だな。どちらにせよ魔法を使うオークは倒しておくべきだろう。
この村のボスなのだろうか。鎧を着たオークが前に出て、他のオーク達に指示を出している。
囲まれるのはマズい。火球を連射して統率を乱すが、魔法使いのオークに相殺される。
体制を整えられる前に突撃する!