#2
ほとんど食料の心配をしなくて済むようになったので、どんどん先へ進む。
あれから2週間程度で10層にたどり着いた。8層と9層の魔物は芋虫と狼だった。
10層は川を挟んで半分が森、もう半分は腰位の高さまで草が生茂った草原だ。森の方は大体見て回ったので、後は川の向こうの草原側だけだ。
草原ではモンスターに近づかれても気付けないので注意しないと。森なら木なんかが障害物になるからまだいいけど、草原で囲まれるのは不味い。
精神力がガンガン削られる……。
草原の真ん中辺りに差し掛かった所で、前方から魔物の足音が聞こえてきた。多分数匹の狼だ。剣を持ち直して身構える。
数m先で狼達の足音が止まる。
「気付かれたか……?」
俺が屈めていた腰を伸ばすと同時に、狼達が左右に別れて走り出した。左右の草むらから同時に飛び掛かってきた!
咄嗟に前方に転がる事で攻撃を躱すが、前方に潜んでいた1匹に襲われる。剣を横薙ぎに振るう事で前方の狼を牽制しつつ、まわりの草むらをぐるぐると走り回っている狼達にも気を配る。
右から、左から狼が襲いかかる。片方を防ごうとすればもう片方から攻撃を受ける。
「あーもう鬱陶しいっ!」
魔法で周囲の草むらを焼き払う。これで3匹の動きが見えるようになった。しかし、それでも狼の攻撃は止まらない。
俺は狼の攻撃を防ぐのではなく、カウンターで倒していく。2匹を倒して残り1匹になった時、辺りに狼の遠吠えが響く。
仲間でも呼ばれたかと思ったがその遠吠えを聞いた狼が怯えていたので、その隙に回復魔法で傷を癒やして備える。
「赤毛の狼……?」
遠吠えのした方から現れたのは赤い毛並みをした狼だった。見るからに普通の狼よりも強そうだ。普通の狼の倍の大きさがあって威圧感が凄い。怯えていた狼は赤毛の狼が現れた途端草原の中に消えていった。
赤毛の狼の目が妖しく光ったかと思うと、風の刃が飛んで来たので剣で受ける。
「魔法か。でも威力はそこまで無さそうだな」
赤毛の狼が襲い掛かる。攻撃方法は普通の狼と同じで、鋭い爪と牙による攻撃だろう。さっきの遠吠えで普通の狼は逃げてしまっているので、今いるのは赤毛の狼1匹だけだ。1匹だけなら攻撃を捌く事も出来るだろう。倒せない敵じゃない。
攻撃を防ぎ、躱してカウンターを決める。このまま徐々にダメージを与えて倒しきりたいが、狼もそうはさせまいと巧みに魔法を放ってくる。どっちにも決定打が無い。
俺は狼の風の刃を避けそこねた振りをしてわざと受ける。狼はそれを好機と見て大口を開けて噛みつこうと飛びかかる。その口の中に剣を突き刺すが狼の勢いは止まらない。俺と狼はもつれ合うようにして地面を転がる。
起き上がって狼の口から剣を引き抜く。赤毛の狼は事切れていた。
「ふぅ〜、なんとかなった。魔法を使う狼なんて9層には1度も出て来なかったのに。フィールド型の階層ではこういう事もあるのか」
それか9層では運良く出くわさなかっただけなのか。考えても仕方ないな。取り敢えず前に進もう。赤毛の狼の死体をバックに入れて草原を進む。
「もうボス部屋か。結局1度も襲って来なかったな」
赤毛の狼を倒してからここまで、何度か魔物が近づいて来る気配はしたのに1度も襲われる事はなかった。狼達は剣に付いた赤毛の狼の血の匂いでも嗅ぎ取ったのかな?
「明らかに上位種だったしなー。狼でもそれを倒した奴を避ける程度の知能はあるのかな。さて、食事して少し休むかな」
狼の肉を焼き、森の中で見つけた果物を取り出す。赤い実をしたこれは多分リンゴかな。少し齧ってみる。うん、リンゴだ。久々の果物の甘みに頬が緩む。あぁ、うまい!
狼の肉は熊の肉ほどではないが、そこそこ美味しかった。2時間しっかり身体を休めてからボスに挑む。
10層のボスは巨大な芋虫だった。道中の芋虫はそこまで大きくなく、攻撃は口から毒を吐く毒攻撃だった。しかし、ボス部屋の芋虫は電車1両分程で側面には眼状紋がある。
「うわぁ、トラウマになりそうだ……」
部屋の中に足を踏み入れると、ボスの巨大芋虫がこちらを認識したのか、こっちに向かってくる。身体は大きいが動きはあまり速くないので、剣で斬り続ければ倒せるだろう。
俺も芋虫に駆ける。しかし、芋虫はある程度まで近づくと、何かを吐き出す仕草をする。
「毒か!」
芋虫が吐き出したものを避けつつそれを横目でみる。白くてネバネバしている。
「毒じゃ無さそうだな。糸……?」
また厄介なものを。
芋虫は次から次へと粘着性のある糸を吐き出し、床に付いた糸はそのまま罠となる。よく考えられているが速攻で決めてしまえば問題はない。
俺はそのまま芋虫を斬りつけると怒った芋虫がその巨体で暴れ回り、その上眼状紋から周囲に毒霧を放出し始めた。
「ウッ、ちょっと吸ったな……。糸に毒か。糸で拘束して毒で嵌め殺しって感じか」
文字通りの搦め手だな。嫌らしい。
距離を置けば糸、近づけば毒霧と守りが硬い。芋虫から離れて魔法で削っていくか。
魔法で作った火球を当てていく。もう20発は当てたのに一向に倒れない。一応魔法はまだ撃てるが体が少し怠い。
「硬いな。HPが高いのか?」
少し工夫をしよう。魔法で火の槍を創造する。空中に出現させたそれを弾丸のように回転を加えて奴に射出した。真っ向からそれを受けた芋虫は痛そうに身をよじって暴れている。
「もうひと工夫加えようか」
俺はもう1度魔法で火の槍を創造する。しかし、今度のは色が違う。赤よりも温度が高い青い火だ。これにも回転をかけて芋虫へと送り出す。
さっきの火の槍で懲りたのか、今度の槍は芋虫も避けようとする。だかその列車のように大きな体で避けるのは無理がある。直撃だ。
それでもなお避けようと足掻くが、避けることは出来なかった。攻撃を受けた芋虫は糸が切れたようにその巨体を地面へと落とす。
「よしっ!倒した!」
階段と宝箱が出現した。それを確認してから芋虫に近づき、巨体な芋虫を切り分ける。さぁ食事にしよう。切り分けたソレを火で炙り覚悟を決めて口に入れる。
「ブヨブヨした苦いだけの塊だな……。」
美味しくはない。でも、ここで食べないと次にいつ食事出来るかわからないから食べる。
「ウッ……!」
苦しい。芋虫の毒か? 魔法で回復しようとしてもうまく発動しない。だがそれもすぐに使えるようになり苦しさも収まった。なんだったんだろう。
取り敢えず、お腹が膨れたので宝箱の中身を見てみよう。一応罠がないか調べてから宝箱を開ける。
「なんだこれ?」
中に入っていたのは正6面体のキューブだった。色は全面白で、1面に9個の切れ込みがある。要するに全面白のルービックキューブだ。
「どうやって使うんだろう?」
恐る恐る手に取ると、使い方が頭の中に流れ込んできた。どうやらこれは自分だけの異空間の部屋に出入り出来るアイテムのようだ。
さっそく使ってみる。魔力を流しながら開け、と念じれば異空間への扉が開くらしい。
「おぉ! 本当に開いた!」
キューブに念じると、目の前に白い扉が現れた。中に入ると6畳程の真っ白な空間が広がっている。こりゃあいい。すぐにでも休みたくなる気持ちを抑えて一度外に出る。
「さて、もう1つの宝箱はなんだろう」
なんと今回は宝箱が2つも出て来たのだ。これも一応罠の確認をしてから開ける。中には短剣が入っていた。鞘から少し剣身を覗かせるとキラリと金属独特の輝きを放つ。ただの短剣のようだ。少しがっかりした。




