8話
個人戦の本戦出場者が決まり、チーム戦の予選が開始される。
個人戦と同じ様に武器や道具は申請すれば自由に使う事が出来る。但し、ポーションなどの回復薬や猛毒の類は禁止なので、武器や防具を鑑定する鑑定士に見てもらう事になる。
「さっきの試合で武器が壊れたので新しい物を登録したいんですが……」
控え室の隣にある登録所に申請しにいく。
「おぅ、あんたか。さっきの試合凄かったな!それじゃあ鑑定するから武器を出してここに置いてくれ」
鉄の剣と漆黒の剣の2本を取り出して台の上に置く。登録所のおじさんが台に魔力を流すと、紙に鑑定結果が表示される仕組みになっている。凶悪な効果がある装備の使用を防ぐ為だ。
「……うん? なんだこれ?」
おじさんが紙を見せてくれた。鉄の剣の方は普通に鑑定結果が書かれているのに対し、漆黒の剣にはフレーバーテキストのようなものが書かれていた。
呪剣
『この剣に見初められた者は永遠の呪いと共に強大な力を得ることになるだろう』
「……まぁ特に危険な効果は無さそうだから良いだろう」
○○○
確かチーム戦は52チーム参加だったから本戦に出る為には少なくとも2回戦以上勝たないといけない訳か。ベルド商会のチームとは予選の間に当たってくれるといいんだけどな。
予選の一回目の対戦相手は俺と同じか少し下くらいの5人組の新米冒険者達だった。
「お! 1人じゃん、ラッキー!」
「この試合勝ったも同然だな」
「馬鹿っ! あんた達さっきの試合観てなかったの? この人個人戦の本戦出場者よ」
「でも5対1だぞ?負けっこないって」
好き放題言ってくれる。ちょっとした仕返しに俺は漆黒の剣を使う事にした。新米冒険者の装備なら壊してもそこまで高くつく事はないだろう。試合開始の合図が闘技場に響く。
前衛2人が前に、後衛の魔法士と弓使いが後ろへ下がり、中衛の槍持ちがその間に立つ。
「よし、いつもの奴やるぞ!」
「「「「了解」」」」
後方の魔法士が何やら呪文を唱え始めた。それと同時に前衛2人がじりじりと距離を詰める。俺は剣を構えたまま待つ。新米冒険者達がどんな連携をするのか気になったからだ。
「ファイヤーボール!」
魔法士が最後にそう唱えるとサッカーボール程の大きさの火の球が俺目掛けて飛んで来る。
「嘘っ!? 何で威力が出ないの?」
自分で放った火の球を見て魔法士が驚きの声をあげる。
俺はファイヤーボールを剣で切り裂くと、前衛の2人が攻撃を仕掛けてくる。
「パワースラッシュ!!」
そういう技なのだろうか、冒険者の上段からの斬りおろしに剣を合わせると、まるで豆腐でも斬っているかのように冒険者の剣が斬れる。もう1人の前衛の剣も真っ二つにすると心も折れたのか、新米冒険者達は敗北宣言をした。
「クソっ! 何で手加減したんだ……!」
「うぅっ、ごめんなさい……。何故か魔力が阻害されて……」
「止めなさいよ! きっと緊張して力が出し切れなかっただけよ! こんな大舞台だもの、仕方ないじゃない」
観客が観ているにも関わらず内輪揉めを始めた。若いなぁ。それを尻目に俺は控室へと戻った。その後の予選も順調に勝ち進み、本戦出場が決まった。
○○○
「あーあ、予選落ちかぁ。せめて本戦までは出たかったなぁ」
俺達のパーティ、鋼の剣は新進気鋭の冒険者だ。自分達で言うのも何だがそこそこ注目を集めていると思う。この間も30匹近くいたゴブリンの巣を壊滅させたしな!
その勢いに乗ってこの大会でも本戦出場を目指してた訳だけど、変な仮面の男にやられちまった。特に効果はなかったけど、冒険者になりたての俺達にとっては決して安くはない武器を壊されちゃあどうしようもない。
本戦まで出られれば指名依頼なんかも増えると思ったんだけどなぁ。まあ仕方ないか。
「……ごめん」
「仕方ないさ、もう終わった事だ。でもどうして魔法の威力が落ちたんだろう?」
「なんか、いつもより魔力の流れが鈍い感じがしたの。何かに邪魔されてるような……」
○○○
ベルド商会お抱え冒険者も本戦出場が決まったようだ。6人パーティで前衛2人、中衛2人、後衛2人とバランスのよさそうなパーティだった。今までの試合を観て来た感じだと、最初に魔法士が火力で敵の前衛を削り、次の魔法発動までの時間を前衛と中衛で敵を崩しつつ魔法で決着というパターンが多かった。
これがパーティ戦のセオリーなのかな?
頭に入れておこう。
一通り試合も終わり、帰る途中でふと酒場に寄ってみる事にした。この世界に来るまでは上司に社会勉強と称して無理やり飲まされた事があるくらいで、お酒なんてほとんど飲んだ事がなかった。まぁお酒を飲める年齢でもなかったけど……。ジルさんに給金の先払いとして金貨3枚を貰っている。
銅貨1枚=100円
銅貨100枚=銀貨1枚=1万円
銀貨100枚=金貨1枚=100万円
金貨100枚=白金貨1枚=1億円
給金を貰った時に聞いたこの世界の貨幣価値だ。最初は給金が金貨3枚、300万と聞いて驚いたがこれだけ大きな商会だと狙われる事も多いのだろう。現に王都に来る途中でも襲われてるし。常に命の危険があるから高いわけだ。
そんな事を思い出しながら席につきお酒を頼む。
「聞いたか? アース公国でまた召喚実験だってよ」
「召喚実験? まさかまた勇者召喚か? 懲りないねぇ。何年か前にもやってたよな。失敗でかなりの犠牲者が出たとか」
出されたお酒、エールをおっかなびっくり飲んでいるとそんな話が聞こえてきた。
「……なぁその話詳しく聞かせてくれないか?」
「話すのは構わねぇけどよ、ただって訳にゃいかねえよ? なぁ?」
「そっか、そうだよなぁ。すいませーん! エール2杯お願いしますー!」
こっちの世界は現代と違って情報を簡単には得られないんだった。エールが届くと2人は上機嫌で話し出した。
アース公国では異世界から定期的に勇者と呼ばれる者達を召喚しているのだとか。前回の召喚ではどれだけ多くの人間を召喚出来るか実験していたらしい。その実験では近くの村が丸々1つ消し飛び、犠牲者は100人を越えたとか。
それが3年前。俺がこの世界に飛ばされたのも同じ頃だ。何か関係があるかもしれない。機会があればアース公国に行ってみよう。
「それでよ、近いうちにまたアース公国で召喚実験があるらしいんだよ。だからしばらくはアース公国には行かない事にしようって話てたのさ。」
「そうそう、そんなよく分かんねぇ実験で死にたくはないからな!」
俺は2人に礼を言い、帰り際にもう1杯酒を奢ってから店を出た。外は風が強く吹いていて分厚い雲に覆われていた。明日は荒れるぞ。そんな予感めいたものを感じながら帰路についた。