7話
「武術大会の受け付けはここですか?」
「はい、そうですよ。個人戦、団体戦どちらにしますか?」
うーん、どうすべきか。向こうの商会の連中がどっちに出てくるか分からない以上、両方申し込んでおこう。
「両方出場する事は出来ますか?」
「はい、出来ますよ。では身分証の提示とこの用紙にサインをお願いします」
「……はい、ありがとうございます。本戦は6日後ですが、参加者が多い為前日の午前10時に予選を行います」
「分かりました、ありがとうございます」
申し込みを終えてさっさとこの場所を後にする。周りの品定めするような視線が嫌だった。みんなおっかないんだもん。特に絡まれる事なく屋敷まで戻る。午後はジルさんが書いてくれた紹介状を持って治療師の所へ行った。王都の治療師でもこの火傷は治せないみたいだ。それでも痛みはかなり引いた。治療師曰くこの傷はエリクサーでもないと治せないらしい。
そんな風に忙しく過ごしているとあっという間に5日が過ぎ、予選の日になった。会場はコロッセオの様な闘技場で観客も多い。立ち見の客までいるほどだ。
「おにいちゃん頑張ってね!」
「負けないでね!」
「私も応援しているよ。無理せずやってくれればいいからね」
俺が頷くと、ジルさん達は観客席へ向かった。
○○○
「ジルさん、あいつ本戦に出れると思いますか?」
「余裕でいけると思うね。治療の時にあの子の体を見たんだが、アレはかなりの修羅場をくぐり抜けている」
「稽古の時の感じだと、力と速さはあるものの技術はそこまで無さそうでしたけど」
「私は人を見る目には自信があるんだ。さぁもうすぐ始まるぞ」
○○○
「さぁ今年も始まりました!武術大会です! 今年はなんと200人を超える個人戦参加者が集まりました! チーム戦は52チームの参加です! 明日の本戦に出場出来るのは上位20名、チーム戦10チームのみです! 優勝者にはイリニ・フォン・ロジット国王様から金貨1000枚を贈呈します! さぁ今年は誰が優勝を勝ち取るのか!?」
「へぇ〜、賞金が出るのか。」
せっかくなら優勝を狙いたいな。ほぼお金持ってないし。あ、でもマジックポーチの中の魔物の素材売ればお金にはなるか。そんな事を考えていると隣に並んでる男が呆れたように話しかけてきた。
「お前そんな事も知らずに参加したのかよ。王様に活躍を認められれば王宮に務める事もあるらしいぜ!」
「そうなのか、でもそっちはあまり興味ないな」
「そうか、俺も正直そっちはどうでもいい。金さえ貰えればな。おっとそろそろ試合が始まるみたいだ。もしお前と当たっても手加減しないからな!」
予選はランダムに決められた10人でのバトルロイヤルだ。俺は第2試合だったので観客席へ移る。今話し掛けてきた男は第1試合だったようで他の9人と共に場内に残っている。
試合開始の合図と共にそれぞれが動き出す。持っている武器はほとんど剣や戦斧などの刃物だが、1人だけ魔法使いがいた。バトルロイヤルで魔法使いは不利だろう。案の定、開始と同時に魔法使いの元に3人の剣士が殺到する。魔法使いは冷静に地面に何かを投げつける。煙玉だ。
「へっ、そんなもん効かねぇよ!……何だこれっ!?」
剣士達は煙を突き抜けて魔法使いに走るが、まるで煙が意思を持っているかのように剣士達にまとわりついている。煙には睡眠薬が混ぜてあったのだろう、剣士達は早くも戦闘不能になる。道具や武器は登録さえすれば自由に使う事が出来る。
残り7人。そうしている間にも試合の直前に俺と話していた男は3対1になりながらも危なげなく3人を倒していた。残り4人となり魔法使いとさっきの男ざそれぞれ1人ずつ倒して一騎打ちとなる。魔法使いはまた煙玉を男に投げつけて煙を操る戦法を取る。
「それはさっき見たっての!」
しかし、まとわり付こうとする煙を剣の風圧で吹き飛ばし魔法使いに肉薄するとあっという間に倒してしまった。場内が歓声に湧く。
あいつ結構強かったんだな。第1試合が終わると負傷者は手当を受け、勝者の男はそのまま俺達のいる観客席まで戻ってきた。よし、次は俺の番だ。
第2試合は全員剣士のようだ。右には騎士の格好をした男、左には背丈程もある大剣を持った男がいる。大剣の男の方が強そうだが、騎士の方が剣の技術はあるだろう。商会の奴らと当たるまでに少しでも強くならなければ……!
試合開始の銅鑼が鳴る。俺は右にいる騎士へと走る。騎士の方も俺に狙いを定めていたようでこっちに向かって来た。剣と剣がぶつかり合う。鍔迫り合いになるがこの様子なら押し勝てる。そう判断して力を入れようとした時、騎士が距離を取った。
「何だその仮面は? 旅人か?」
「いや、今はジルさんの所で世話になってるこの仮面は傷を隠すためだ」
「なるほどな。もしかしてフィンダー商会のジルさんか?そうか、お前が噂になってた新しい護衛か」
「噂になってるとはなんだか恥ずかしいな」
「あの方は人を見る目があるからな」
そこで俺は後ろに回し蹴りを放つ。最初に左側にいた男が俺の背中に振り下ろそうとしていた大剣の腹を蹴りで弾き、相手の胴を軽く切りつける。男はたまらず距離を取る。
「やるなぁ兄ちゃん。気づかれてないと思ったのによぉ」
「ダンジョンでは後ろからの奇襲なんて日常茶飯事だったからな……」
「兄ちゃんダンジョンに潜ったことあんのか? おーいそっちの騎士さんよぉ! 2人でこの兄ちゃんを片づけてから決着を付けよーぜ?」
「ふむ、その方が勝算がありそうだな。よし、その話乗った!」
「なっ……! まぁいいけどさ」
2人が同時に斬り掛かる。俺は騎士の剣を弾き、大剣の男を回し蹴りで思いっきり蹴り飛ばす。男は闘技場の壁にぶつかり倒れ込んだ。これで大剣の男が戻って来るまでの間、1対1の状況に持ちこめた。騎士もマズイと思ったのだろう、連撃を仕掛けて来た。
俺は身体能力に任せて連撃を剣で受ける。騎士の斬撃には強弱があり、一撃一撃考えられているのが分かる。よしやってみよう!
騎士の斬撃の合間に強弱を付けた斬撃を挟む。まさか反撃されるとは思わなかったのか、騎士は体勢を崩しながら剣を合わせる。
キィィン!
と耳障りな音が鳴り俺の剣が折れてしまった。力を込め過ぎたか。騎士の斬撃を避けつつ肉薄して蹴り飛ばした。良いところに入ったのか、騎士は気絶したようだ。中々掩護に来ないと思ったら大剣の男もあの蹴りで気絶していた。残りの敵は剣がないので体術で倒した。
これで個人戦は本戦出場だ!
特に怪我もないので残りの個人戦の試合をのんびりと観戦してチーム戦の予選に備える。
うーん、さっき折れた剣の代わりを用意しないと。どれがいいかな? 普通の剣だとまた折れそうだし。取りあえずさっき折れた剣と同じ物を申請して、また折れた時に備えて俺がいつも使っている漆黒の剣を登録しておこう。
そんな事を考えていると、なんだか観客席が騒がしい。
「おい、あれ剣聖様だぞ!剣聖様も今回の大会に出場してたのか……」
「剣聖だと……!?こりゃあ今回の大会は剣聖1強だな」
その試合は圧倒的だった。剣聖以外の全員が剣聖に攻撃を仕掛けるが、一撃で倒されていく。1分も掛からず全員倒してしまった。
「ん〜、この程度なら余裕で賞金獲得出来るな!」




