1話
「……う〜ん、寒い。あれ? ここはどこだ?」
少し肌寒くて目が覚めた。昨日はベッドで寝たはずなのに、周りをみると辺り一面に木が生い茂っている。
「どうなってるんだ???」
寝ぼけているのかと目をこすり、頬をつねってみるが景色は変わらない。……仕事、どうしよう?
呆然と立ち尽くしていると、近くでガサガサと音がした。運動は苦手だが、急いで近くの木に登り、身を隠す。
「熊か……?」
木の葉の間から音のした方をそっとみる。少しすると林が揺れ、何かが出てきた。
「っ!バケモノ……!?」
出てきたのは明らかに人間ではない肌の色をした生物だ。ゴブリンとでも言うのだろうか。背が低く、腰布しか身に着けていないが手には棍棒を持っている。あれで殴られたら痛そうだ。
今俺はパジャマで靴すら履いていない。もちろん眠っていたので持ち物はゼロ。1匹しかいないが取り敢えずこの場はやり過ごそう。
1時間後
バケモノもといゴブリンは全くここを離れる気配がない。それどころか近くの枯れ枝を集めて焚き火まで始める始末。
マズイ。
そろそろ俺の下半身が限界に近い。早くどっか行ってくれないかな。そう願いながら木の上でじっとゴブリンを見つめていると、俺の目線を感じたのか、ゴブリンが不意に俺の方を見上げた。
「……。こ、こんちわ〜」
取り敢えず挨拶してみた。曲がりなりにも布を身に着け、加工された棍棒を持っている事から、敵でない可能性もあるのでは? と考えたのだ。
ゴブリンは少し呆気にとられた様子だったが、我に返ると近くの石を拾って俺に投げてきた。細い腕に似合わず力は意外とあるようだ。ゴブリンが投げた石で俺の腕くらいもある枝が折れた。これは殺しに来てる。
ちくしょう。このままじゃジリ貧だ。俺は近くに生えてる小さな枝を折る。ゴブリンは俺に石を当てる為に俺の上った木の真下近くまで寄って来た。
俺は右手に小枝を持ちながら意を決して、ゴブリンに向かって飛び降りた。ゴブリンは慌てて持っていた石を落とし棍棒に持ち変えようとするが、俺の方が速い。飛び降りた勢いを利用して小枝をゴブリンの目に突き刺す。ぐにゃり、とした嫌な感触が手に伝わってゴブリンが痙攣しだした。
少しすると痙攣も収まり、ゴブリンは動かなくなった。
「ふぅ。嫌な汗かいたな……」
血の匂いで他の化け物が寄って来るかも知れない。ずっと我慢していた用を足しながらそう考えてゴブリンの手から棍棒を取ると、軽く走ってその場を離れる。5分程走って息を整えてこれからの事を考える。
「これからどうするかな」
まず、どうして俺はこんな所にいるんだ? そもそもここは地球なのか? 地球が1日でこんな風になるなんて考えにくい。取りあえず神隠しにでも遭ったと考えておこう。俺の他に人がいれば分かる事だ。
次に、どうやって生きていこう? 人間、水と食べ物が無いと生きていけない。まずは食料だな。あのゴブリンは食べられるのだろうか。次に遇ったら試してみよう。それと、食べ物を保存したりする拠点もいるな。
「まずは拠点に出来そうな場所と食べ物の確保か……」
そう考えながら歩いていると、遠くに弓を持ったゴブリンがチラリと見えた。よし、あいつを狙おう。
音を立てないようにしながらゴブリンの見えた方へ急ぐ。追いかけると、俺に背を向けて弓をつがえていた。ゴブリンが弓を放つまで少し待つ。ゴブリンが弓を放った瞬間、俺はゴブリンの背後から棍棒で頭を殴る。何度か殴ると最初のゴブリンと同じように痙攣して死んだ。
それを確認すると、次は弓を放っていた方へ向かう。
「計画通り……!これが漁夫の利って奴だな」
そこには弓が刺さったウサギがいた。ウサギを持ってゴブリンの所まで戻ってウサギとゴブリンの血抜きをする。やり方が分からなかったので取りあえず内臓と思えるものを切り分けて掻き出して皮を剥いだ。凄い血の匂いだ。血が抜けるまでの間に火を起こしておく。
起こした火で肉を焼きながら、剥いだ皮で簡単な袋を作った。
「ふぅ〜、やっと食事にありつける……」
俺は周りを気にしながらさっさと食事を済ませる。正直、どちらの肉も美味しくはなかった。強いて言うならウサギの方が若干美味かったかな?
まぁ腹を満たせただけで十分だ。この辺りで1番高い木に登るとすぐそばに川が見えた。よかった。解体で付いた血を早く洗い流そう。
○○○
取りあえず川沿いに下りながら、住処に出来そうな場所を探す事にした。数時間歩いただろうか。川が滝になっていて、下までビル3階分くらいありそうだ。取り敢えず崖沿いに進んで、降りられそうな所から下まで降りる事にした。
崖を降りて滝の所まで戻る途中で崖に横穴があるのを見つけた。川からも適度に離れてるし、ここは良さそうだ。そう思って中を覗き込むと中ではゴブリンが3匹くつろいでいた。
ゴブリンは俺を認識すると叫び声を上げながら俺に向かって来る。それぞれ剣、棍棒、弓を持っていて、剣と棍棒を持ったゴブリンが走ってくる間にも弓が飛んでくる。
俺は一旦洞窟の外に出て、穴の横で待ち伏せする。最初に走って出てきた剣を持ったゴブリンを棍棒で殴り倒すと、直後に出てきた棍棒のゴブリンも倒す。後は弓を持ったゴブリンだけだ。
「籠られると厄介だな……」
そっと洞窟の中をみると弓を持ったゴブリンもこっちに向かって走っ来ていた。そいつも同じように倒す。ゴブリンは知能がかなり低いみたいだな。取り敢えずゴブリンの死体はそのままにしておき、簡単な松明を作って洞窟の中を調べる。
3匹のゴブリンがくつろいでいた場所から少し入ると、道が2つに別れていた。左側から調べよう。
「こっちは倉庫か」
そこにはガラクタや食料と思しきものが色々と置いてあった。人の手の様なものも……。続いて右の方の穴を調べる。奥には寝床だろうか、枯れ葉が敷いてあり、枯れ葉の上に5〜6匹の小さなゴブリンと杖を持った普通のゴブリンがいた。杖を持ったゴブリンは小さなゴブリンを守るように立っている。
杖でどうやって戦うのかと思いながらも、棍棒を構えて近づいて行くと杖を持ったゴブリンの前に急に炎の塊が出てきた。その炎が俺めがけて飛んでくる。
「……あぶねっ!」
間一髪で避けると、走ってゴブリンに近づき棍棒で滅多打ちにする。小さなゴブリンも全員殺す。罪悪感が全くない訳ではないが、これも生きる為だ。
「悪く思うなよ。俺だって必死なんだ……」
倒したゴブリン9匹を川辺に持って行き血抜きをする。生のままだと腐るから燻製にしたいな。血抜きをしたゴブリンを拠点に持っていき、少し休む事にした。まだ昼頃だと思うが、夕方には狩りに出ていたゴブリンが帰って来る可能性もある。少し体力を温存しておこう。




