【第4話】信じて送り出した兄(ロリ未亡人)がガチャチケ欲しさに特殊性癖持ちの王様に捕まるなんて…
ロリ未回。タイトルでお察し下さい。
(ガチャチケが欲しい!!)
まだ、今の段階では結婚が出来なくても良いんだ。俺を攻略したいと思わせ俺ルートを作って貰うことが重要!! そこからフラグを立ててしばらく付き合うだけで、ガチャチケが貯まる。
ダンジョンをクリアしたことでロリ未用の装備も増えたが、初期ダンジョン装備ではこの恵まれた外見を活かし切れない。そもそもダンジョン装備とは、モンスターと戦うための装備であってファッション性には乏しい。魅力的な攻略対象を演じるには、それなりのファッションコーディネートが求められる。そこで大事なのがガチャ装備!!
(ガチャ回してぇえええ……!!)
ウィンドウショッピングさながら、俺は《【中立エリア】ガチャ街》を悲しく通り過ぎている。それぞれ特色のあるショップにガチャがあり、狙った系統のファッション装備が入手できるのだが――……俺はまだ、ガチャチケットを持っていない。
初心者プレゼントやログインボーナスで貰える宝石を集め、30連程度は回せたが……それで全身コーデを完成させるは無理がある。
(前にどっかのお姉さんから貰った服と併せて、誰かの誕生会にでも行ってみるか……?)
恵んで貰った一張羅は男女兼用。下は白いタイツ、裾の長い上着はスカートにも見える。少々子供っぽいウサギ耳付きファーコートは薄らピンク色に見える白。ガチャで当たった白のリボンで髪を結いツインテールにしてやれば……女の子らしい装備に仕上がった。ロリ好みの男プレイヤーを狩るなら十分ルートを狙えるだろう極上の仕上がり。しかし俺にとっての問題は――……ここからなのだ。
「ちょっと! ベリシモ様は今私と喋っているのでしてよ! 彼は私の手料理が食べたいのですわ!」
「はぁ? ベリシモはあんたと喋りたくなさそうよ? こいつは私のプレゼントを待っていたのよ! 邪魔しないで!!」
俺の憂鬱も他の奴らは他人事……。街の中心からはキャーキャー黄色い声がする。其方では、女の子を大勢侍らせたイケメンやら自称フツメン的なプレイヤーが今日一日の幸せを満喫していた。
「み、みんな……そんな喧嘩しないでむぐっ」
「はーい、ベリ君。お口、あーん? ケーキ美味しい? おねーちゃんがいっぱい食べさせてあげますからねー! きゃっ、ケーキが胸の谷間に零れてっ……あぁん! 駄目よそこはっ……ケーキじゃなくて、おねーちゃんの……」
「こらー!! あんたはこんな公衆の面前でケーキプレイはじめるなー!!」
「フィーゴ君、疲れちゃった? ……ね、これから二人で抜け出さない?」
「この人ゴミの所為ね! 大変っ!? 風邪かしら顔が真っ赤よ! 回復は私の方が得意なんだから私が診るわ!!」
「ちっ、俺に構うな……」
「まってーフィーゴ君!! 照れちゃって可愛いー!!」
見せつけてくれますね……地獄に落ちたら良いと思う。お前等もバグれ。今すぐバグれもれなくバグれ根拠なくバグれ。俺だってあんな風に美味しい展開を夢見ていたのに!! 何仕事さぼってんだ妖怪煽り勢共が!!
クリスマスシーズンが終わったためか、煽り勢も少々大人しい。帰省したのか? それとも正月に親戚が集まり、パソコンが取り上げられでもしたのだろうか? 俺も年明けからプレイを始めるべきだった。
「こんにちはロリ未様♪ 調子の方はいかがですか?」
「お、ギーアちゃん」
案内ギルド【世界入門】のギーア。恋愛イベント専門ヘルプ役NPCである彼女は、俺が困っていると、こうして話しかけて来てくれる。ここ数日他プレイヤーとまともに会話もしていないので、NPCであっても気さくに接して貰えることがかなり嬉しい。
「今日はお友達と一緒じゃないんですか?」
「ああ……あの子とは都合が合わなくて」
フレンドになってくれたジルエット兼ジュリエットは、ここ数日は予定が合わず一緒に遊べていない。……というのも、俺があの子のログイン時間とずらしてプレイしているからだ。
フレンド機能は便利だが……フレンドはログイン・ログアウト状態がフレンド画面で一目瞭然。一般的な人間ならばログインしない時間に居座っていたら、ニートであるとバレてしまう。あの子の前では変な見栄を張ってしまって……ジルジュリのログイン時間内にはプレイ時間を控えている。
あの腐れカントリードラゴンに暴露された継続プレイ時間。冬休み期間中はまだセーフだが、世間の冬休みが終われば大変だ! 俺はあれからというもの度々寝落ちを装い放置して……離席していますと演出してみたり。離席の振りをしてあの子のログイン時刻の平均値を取ってみたり……そんな苦労の末! ジルジュリのいない時間にゲームをやりこむという涙ぐましい努力を行っていた。何やっているんだろうな俺。
「それじゃあ今日は、私がロリ未様を独り占めできますね♪」
(こ、これは――……!?)
まさかNPCとも恋愛イベントが存在するのか? ギーアが嫉妬してくれている!? NPCメイドの流し目に、俺の鼓動は飛び上がる! 俺が赤面したのを見て、ギーアは悪戯っぽく笑って見せた。
「なーんて、冗談です♪ お仕事山積み山積みなんです。……でも、また困ったことがあったら貴方のギーアを呼んで下さいね♪」
俺の悩みや相談には何一つ答えないまま、ヘルプページウィンドウを置き去りギーアの姿は消える。他のプレイヤーにヘルプで呼び出されたのだろう。ヘルプ役くらい人数分用意しておけよ公式!!
NPCにまでからかわれたことは不満だが、少しだけモチベーションも取り戻せた。彼女はそういうヘルプ役なのかもしれない。俺は気を取り直し、近くで祝われている女性キャラクターへと近付いた。
「お姉さん、誕生日なんだねおめでとう!」
「きゃあああ! ありがとう!! あれ? 君男の子?? かーわーいーいー!! うちの妹にしたいわ!」
(……フラグが、立たねぇ!!)
チャリーン。一時間ずつ粘ってみても、時給が発生した音がするだけ。女性プレイヤーにとって“可愛い男の子”は、恋愛対象外率が妙に高いぞ。
「くそっ……この顔ならいけると思ったのに!!」
数時間粘って手に入れた時給を握りしめ、ガチャ屋の壁を俺は殴った。
俺の面倒すぎるこのハンデ。誕生日プレイヤー……《誕生者》へ近付くと、俺達非誕生日プレイヤーもとい《非誕生者》は誕生者の望む性別へと問答無用で性転換させられる。おっさん姿の女《隣寝》より、絶世の美少年《ロリ未》の方が数億倍結婚に有利。
しかし……! 男の俺がどんなに美少女顔であっても、“美少女目当て”の輩に寄れば、俺はモブおっさん姿の女に変わってしまう。ロリ未の愛らしさも“男に近寄ってきて欲しい誕生者”にしかこの美少女フェイスが活かせない。俺が近付ける誕生者は、少年大好きお姉さんか女装少年好き男の二択という訳だ。
このままロリ愛好家に駆け寄れど、三百メートルを切った瞬間……俺は隣寝に変化する。共通装備だからいきなり全裸を晒しはしないが、誕生パーティは地獄絵図へと変わってしまい、ルートもフラグもガチャチケも瞬時に消滅してしまう。俺が煽りプレイヤーとして頂点を極めたいならこのバグは最強の力だが、俺が目指しているのは結婚なのだ。
「やっぱり……男を狙わないと無理か」
(君、……アイテムを落としたようだけど、これは君のかい?)
話しかけられ振り返る。けれど姿はない。チャット欄を確認すると……これは個人チャット?
このゲームはチャットの文章やマイクで発した言葉を、自身がキャラクリ画面で設定した声優音声でリアルタイムで吹き替えてくれる。俺の脳内に響くようなイケメンボイスは、何処か違う場所から送り込まれたチャット文章であるようだ。
(すみません、どんなアイテムですか?)
(激レアアイテムだから、PKされてその場でドロップしてしまったのかなと思って)
心当たりがある。妹から譲られた激レアアイテム“謎♂の会員証”。捨てた俺の名前が、アイテムには残っており、親切なプレイヤーが連絡してきてくれたのか。こんなクソゲーにもいい人はいるもんだな。
(届けに行きたいんだけど……俺は今日、誕生日でね。追われるのに疲れたから隠れてるんだ)
(そう、なんですか。それじゃあ私が其方へ行きます)
(助かるよ。それじゃあ待ち合わせ場所は――……)
*
指定された場所は、戦闘&フィールドマップに位置する《ハイドルフ》という小さな街。ここは魔王と王が戦い続ける危険な場所だ。妹はこんなマップで農業をしているというのだから何を考えているのだろう?
指定された宿へ向かうと、豪華な衣装を纏った青年がいた。
「ロリ未ちゃん、こっちこっち!」
俺を手招きする男……《アドネ》という彼のネームは金色に輝き、名前の上には王冠のマークが付けられていた。
(こいつ、“王”か!?)
誕生者なら付いているのはケーキアイコン。これが、王……! これまで危険エリアに出たことがなかったから、俺は王を見たことがない。Birthday王……王化した誕生者。しかもこの男、傍に寄っても隣寝にならない。攻略対象が“男”であるらしい!!
(これは、チャンスじゃないのか!?)
ハイライトの消えた瞳は青。鮮やかな金髪と、鍛えられた健康そうな肌。アドネという男……これでなかなかの色男。ジルエットでイケメン免疫が付いたのか、いける気がして来た。折角だ。彼からガチャチケ排出くらいは狙って行きたい。
「不用心だな、こんな物を落とすなんて」
「え。ええ……インベントリがいっぱいになって、掃除していた時に落としたようで……困ってたんです! ありがとうございます!!」
「君は初心者かい? 悪いことをした……こんな危険なエリアまで。怖かっただろう?」
「お金はダンジョンとかお祝いで貯めたので、最悪道中死んでも大丈夫かなと思ってました」
「君は勇者だね。魔族側にしておくのが勿体ない」
「アドネ様は、勇者側の方なんですね……」
何で出会う人出会う人、敵陣営ばかりなのかなぁ。パーティエリアかダンジョン以外で会うのも難しい間柄。敵とも恋愛関係になれるから、恋に障害は付きものってスパイス要素ではあるか。そう考えれば、敵もいいかも。
「……知ってるかい、ロリ未ちゃん。あのアイテムを落とすことは……俺達の界隈では意味を持つんだ。それもこんな場所までノコノコやって来て」
「え……?」
「これだから……初心者狩りはやめられない」
アドネの腕が俺の首を掴み宙へと持ち上げた。こいつは王だ。俺が初心者でなくとも絶対に勝てない相手!
「お前の噂は聞いたよ。バグ使い……お前は実に良い仕事をしてくれた」
「げほっ、な……何するんですか!?」
「良いかロリ未。俺は王で、お前の敵だ。簡単に、お前を殺すことが出来る」
片手でギリギリと首を絞められ、ロリ未でジタバタ藻掻いてみたが、高速からは抜け出せない。ゲームだから痛くはないが、突然の恐怖にリアルで過呼吸になりかけた。
アドネは俺の首に無理矢理厳つい首輪を装着させると、手を放し……俺を床へと投げ捨てる。この男、男の娘萌えかつリョナ属性持ちか!? 幾ら相手がイケメンイケボでも、特殊性癖すぎませんか?
「な、なにすんだよこの変態野郎!」
「知らなかったとは言え、誘ったのは其方だ。これから城に連れ帰り、たっぷり可愛がってやる」
「……普通にログアウトするんで。それじゃ!」
「《隷属の首輪》。この首輪を装備させられた者は、主の許可なくログアウトが出来なくなる」
「人様の家の電気代をなんだと思ってんだお前!! パソコンのコンセント抜いてやる!!」
「馬鹿め。これからお前が俺に抜かれる側になるというのに」
「セクハラやめてください。子供もやってるゲームなんですよ!? スクショ撮って拡散します」
「首輪の効果でスクショボタンも使用不可だ」
「俺帰るもん! お前みたいな変態と遊んでられるか!! 中の人離席しますー! 精々アバターとだけ楽しみやがれ!! やるんならルート入りだよな!? せめてガチャチケくらいは貰うからな!!」
「お前、最新ゴーグル使いだろ? 一つ一つの動きが実に滑らかだ」
「だ。だったら何だよ!?」
「やけに画面がリアルだと思わないか? 最近寝落ちしてないか? そいつは脳波に働きかけて、睡眠学習状態でゲームをプレイさせることが出来る廃人育成ゴーグルだ!!」
妹め。そんな凄い物を俺に……幾らしたんだろう。高価な品であるようだし、心苦しくなってくる。いや今は妹の財布事情を案じている場合ではない。俺は俺のことを心配するべき時だろう。
「ふっふっふ。しかもそのゴーグルにもバグがあってだな。俺はそいつも多少弄れる。目覚めないようにしてやることも、……な」
ち、チーターだぁあああああああああ!! マジもんのガチもんのチートクソ野郎だ!!
ジルエットで出会い運を使い果たしたのか、俺はとんでもない奴と出会ってしまった。危険エリアに来る前に、妹に連絡しておけば良かった。ログイン時間がおかしいな、死んでいないかなって心配してくれるフレンドたくさん作っておけば良かった!!
「ああ、無論……他人に連絡を取ることも出来ない。奴隷に自由は要らないからな」
何処までが仕様なのか、このバグ使いの仕業なのか見当も付かないが……正真正銘のピンチであることは間違いない。こんな危険なプレイヤーを、運営は野放しにしているのか!? 正統派美形みたいな配色デザインの奴ほど、抱えた闇が酷すぎませんか!? 根暗に見えるジルジュリなんか中身は大天使だぞド畜生!!
「さぁ、城へ帰るぞロリ未。お前は俺に解放されるまで、リアルでは寝たままなんだ。そのまま糞尿まき散らして餓死したくなければさっさと満足させるんだな!」
「え……? 誕生日って、一日で終わるんじゃ……?」
誕生日が終わった後も、俺を奴隷扱いするようなアドネの言葉。まさかこのクソチーターは……!? 絶望の淵、微かな希望を求めて奴へとすがりつく瞳。俺の顔を見て、アドネは恍惚の笑みで答えた。
「《永久誕生者》……凄いバグだろ?」
地獄には、階層があるんですよ。皆さんご存じでしたか? 俺は何階層下の地獄へ来てしまったんですかね。
ガチャ&王機能の説明回のつもりでした。
王様の転生するのメリットを紹介用と思ったのに、なんということでしょう。
リアル一年で完結させよう、更新遅らせてリアル月日に添うように更新しようと思っていたのですが、ネタが降ってきたのでご了承下さい。