【第2話】世界入門とロリ未亡人
他にサブタイ思いつきませんでした。たぶん、嘘ではないと思います。
「へぇー、クオリティ高いっすねー! 声までバグで男女逆だー!!」
「装備は本来の設定性別固定で、髪型はバグ元の性別の方か。面白い! バグ発生の条件が知りたいな。何か心当たりは?」
「うんうん、異性パーツを読み込んでいるのかな。テクスチャも。公式だとここまでは出来ないよ」
「そうか、じゃあ結婚しないか?」
「いやそれは無理ですさよなら、あ、フレンド申請とかもちょっと無理なんでそれじゃ!」
来る者来る者口説いてくるが、俺のナンパは成功しない。おっさん女でいれば同族の妖怪が集まって、より高度な釣りについてを談義する。俺は釣り師のハチ公じゃないんだ。俺を目印に集まるのをやめてくれ。
もう耐えられない。ゴーグル画面の華々しさから、不本意ながら俺は男キャラをメインで使うことにした。此方だと可愛い男の子好きの女性プレイヤーが話しかけてくれるだろう。
「そうだ、今の俺は絶世の美少年だ。これはお姉さんキャラを攻略するのは全然絵的にありだよな!?」
「だがお前の誕生日は一年後だな。主導権はお前にないぞ? そう易々と結婚してもらえると思わないことだな。ここは別名“煽りMMO”なのだから」
胸を張って言うな。俺は妹を睨む。今に見ていろ。
「あ! ほら噂をすれば……こっちに女が近付いてくるぞ!! 絶対に結婚してやる!!」
「きゃーー!! 髪の毛サラサラ!! 貴方が噂のバグの人? 可愛い! 顔も女の子みたい!!」
美少年効果は凄いな。おっさんから切り替えて直ぐに運良く綺麗な女キャラが近寄って来た。
「う、……え、あ。あの……」
近い近い、顔が近い! そんな頬擦りされてもですね!? 触感までリアルだ。幻覚ならぬ幻臭だが、良い匂いまでして来た気がする。色気全振りの魔女っ子お姉さんだ。あああ……結婚は無理でもせめて貴方の弟にさせて下さい。
(ほれ、チャンスだぞ口説け)
すかさず妹からの個人チャットが届くが、相手が美しすぎて言葉が出て来ない。おのれ最新ゴーグルめ!! こんな間近に美女がいたら口説けるわけがないだろうが!!
「女キャラの装備を使えないのが本当に惜しいくらい! これ男女兼用装備だけど、可愛いから使って!!」
散々服装と髪型を弄られて可愛いコーデをし尽くした後、彼女は上機嫌で去って行った。俺の両耳の上では薄い色素のツインテールが揺れている。
「なんじゃ腑抜け間抜けの腰抜けめ」
「あ、あんなん無理だろ!? リアルでもナンパなんかしたことないのに!!」
「何を言う。さっき男キャラを山程口説いていただろうに」
「やれれば顔はどうでもいいって層とかいると思ったんだよ!! なんでいねーんだよ!! 生娘の誘いくらい乗れや阿呆共!! ちょいブス萌えとかいねーのか!?」
まさかあんなに断られるとは思わなかった。目瞑って耳塞いで居ればいいじゃないか。激レアバグをスクショ出来るチャンスだぞ畜生……。お前等それでも勇者かよ。勇み挑んで来いよ俺に!!
もう何度目になるか解らない俺の弱音を聞き、妹が救いの手を差し伸べる。彼の手には、白い封書が見えた。
「ふむ……極端に顔が悪いというわけではなくお前のあのキャラは、その辺にいる中年太りで適度に小汚いおっさんというだけだ。身なりをしっかりすれば……そうじゃ。装備を調え此方へ向かうが良い」
「何これ?」
「お前のような男を好む者達が集まる酒場だ」
「それは結婚できるかもしれないけど! VRでそれをさせられる俺の身にもなれ!!」
入手したばかりの“謎♂の会員証”を、俺はその場で叩き捨ててやった。
「勿体ない。入手の困難なレアアイテムだと言うのに。物は試しじゃ、行って来い!」
「誰が行くか!! 大体あの姿でも一応体は女なんだろ!? そういう人達からすれば地雷も地雷じゃねーか多分!!」
「頑張れ。新たな性癖に目覚めさせろ。お前にはその資質が有る!!」
親指立てて応援するな。妹はこのクソゲーを思い切り楽しんでいらっしゃる。
「人間の心がない!! 心まで魔族に売り渡したのかお前は!!」
「失敬な。このキャラは人間側だぞ。お前とは敵同士と言うことだな、兄上。中立エリア外で出会う時を楽しみにしていろ」
中立エリアは平和な場所で、普通の誕生パーティが行われている街だ。フィールドとは別次元? 一種のインスタンスダンジョン? ここでなら種族に関係なく、祝い祝われることが可能。外よりは煽りプレイヤーも少なく、比較的穏やか。
しかし一度外へと出れば、王と魔王が争う大地。好き放題暴れる両者を、無力な他プレイヤーは唯煽ることしか出来ないのだ。……楽しそうだな、おい。
「……ん? そういや、王達以外は転生出来ないんだよな? 誕生日以外に死んだらどうなんの? ワンチャン、不可抗力によるキャラデリもあり得るのでは」
俺が哀れな被害者という立位置で、合法的にこのゲームを引退できる? 光明を見い出したと喜ぶ俺に、妹は無慈悲なイケメンボイスを寄越す。
「庶民が易々と転生出来ると思うなよ。奴隷は死しても奴隷よ。お前達は金で本人のまま復活する。金がなければ借金が付く。蘇生費、治療費、その他諸々引かれて行って、体もメンタルもボロボロ。強制レベルアップしてしまう18禁スキル以外、全能力が低下する」
「余計な経験値だけ引き継がせるなよ……絶対掘られてるじゃんそれ」
「ちなみに18禁アップグレードをしない限り掘られないから親御さんも安心だ」
「不安しかない……お前の1800円(税込)を俺は永遠に恨むぞ」
妹の甘言に惑わされ、上機嫌でアップグレードをした自分が憎い。ゲーム内でもゲーム外でもお金は大事なものなのに。1800円貰ってエロ本買いに行った方が、俺は幸せになれていた。
「でも、復活にも制限があるとなると……。毎日キャラデリ・キャラクリして、誕生日プレイヤーになってる訳ではないんだよな? 何でみんな引退しないの? 364日間つまらなくねーの? だから煽り勢ばっかになるのか?」
「そこまでデメリットもない。死亡からの蘇生は、しばらくの間能力が低下するデバフのようなものだ」
プレイヤーキャラクターが死んだ場合、復活や治療に掛かった金は、そのキャラクターが属していた国の王の元へ行く。民が死ぬことは、王にとってメリットがあるのだそうだ。
「働かずに金が入って来るのか。いいな……。そうだ!! 24日に俺が得た金は!?」
「キャラデリしたからゼロだな」
「くっそぉおおおお!!」
「顔を上げろ兄上。金策自体は簡単だ。例えば……そうだな。あそこの集団を見ろ」
妹が指し示す方には、誕生日プレイヤーとその取り巻きハーレムが居る。ログ画面をパーティエリアに設定すると、彼方此方から金の音が響く。
「あのように、誕生者と交流すると時給が出る。関係が深まれば30分毎にガチャチケットが出る。それで装備を入手する」
「おお! 一応祝ってもてなすのがコンセプトだったもんなこのゲーム!! 他人のお祝いやってれば装備が手に入るのか」
今でこそ地獄の世界だが、設定の根幹まで悪意で構築されてはいないことを俺は喜ぶ。途中で制作者、病んだか変な企業に買収でもされたのかな。
「婚約までするとSSR装備確定チケが来るから……式の前にドタキャンする結婚詐欺が横行している。楽しいぞ? 指輪はどれも高値で売れるから、まぁ最低でも30回は余裕で死ねる」
「人間不信になるわそんなもん!!」
「いや、公式HPのQ&A資金稼ぎに載っている伝統的な手法だが」
前言撤回。このMMOはやっぱり悪意100パーセント仕様の世界だ。後でレビューで叩いて来よう。頭を抱える俺を見て、妹は心底不思議そうな顔。駄目だこいつは……すっかり染まっているぞ、このおかしな世界に。
「公式の中の人、絶対闇を抱えてるだろそれ……」
闇のMMOだろこれ。コンシューマーで絶対出せない。アーリーアクセスのまま終わってくれ。そう願いながらも、あまりのクソゲーっぷりに……俺はだんだん楽しくなって来てしまう。
「……クソだけど、ちょっとハマる理由が解った」
「解っていただけて何より」
俺の言葉に妹は頷く仕草。これ煽る側に行ったら最高に面白いんだろうな。俺もそっち側に行きたいよ。しかし2キャラ目からは課金必須。別キャラ作るために課金したら負けだと思う。
「それで? ゲーム内で結婚したら俺は本当に解放されるんだな? リアルで会えとか、リアルでも付き合ったり結婚まで行かないと駄目とかそういうのはナシだぞ?」
この美少女顔でその辺の男キャラ陥れれば良いんだろう。投げやりに確認を取れば、妹はこれを肯定。
「ああ。そこまでは言わん。一年では長すぎるくらいだろう?」
確かに。この美少女フェイスを使えば十分行ける。所詮はゲームだ。なりふり構わずやれば、結婚くらいもぎ取れる! この際男でも構わない。ゲーム内では男キャラでも、プレイヤー自身は女の子って可能性もあるからな。このイケメンアバター妹のように。そういう相手を見つけたら……リアルで彼女が出来るかも知れない。
「よっしゃあああ!! 結婚RTA更新の勢いで行くぜ!! 待ってろリアル彼女!!」
「結婚RTAの世界最短記録はバグ使用で3分12秒だな。お前は既に負けている」
どうしてこの妹は、人のやる気を削ぐのだろう。うんざりとした俺の顔を見て、あいつは実に楽しそう。
「しかしリアルで、か。……そうだな、そうなったら面白そうだ。頑張れよ、兄上! 早く私の前に、姉上か義兄上を連れて来るのだな」
「お前……もしかして」
俺に出会いを与えるために、このゲームを? 可愛いところがあるじゃないかと涙ぐんだところで……妹は時刻を確認して大声を上げた。
「げっ、水やりの時間だ!! じゃあ私はこれで。畑の大根が待っているんだ!!」
実の兄よりデータ上の農作物!? サブ垢農業のため妹は、そそくさとキャラチェンジして姿を消した。そんなに農家RPGが大事か。来年俺が魔王化したら、あいつの大根畑を焼き尽くしてやろう。お前が丹精込めて育てた大根を、食べずに棄ててやるんだからな!
パーティエリアで悔しがる俺の元へ、小柄な影が近付いた。
「うわぁ! あなた、結婚を目指しているんですね!!」
妹と入れ替わるよう、現れたのはメイド服姿の少女。給仕の途中だったのか? 手には運搬途中の料理盆。俺との会話が始まると、彼女と同じメイド服の少女が代わってくれた。
「ごめん、仕事中……だよな? よかったのか?」
「ええ。私は本来お祝いじゃなくて案内担当! 貴方とお話しするのがもっと大事な仕事ですもの」
派手さのない素朴な可愛さ。名前の表示を見るにNPCのようだが、……条件クリアにNPCとの結婚が含まれるかどうか確認するのを忘れていた。…………駄目だろうな、あいつの性格から考えて。なめ回すような俺の視線を気にもせず、彼女は笑顔で解説を始めてくれた。
「はじめまして! 私は冒険者様の結婚サポートをしている、《ギーア》って言います♪」
栗色の長い髪……おっとりとした雰囲気と笑顔が可愛い。昨日のプレイ時は出会わなかったな。魔王側のNPCなのか? 魔族のようには見えないが。いや、初回はメインイベントもチュートリアルもスキップして……妹の説明を聞きながら行く先々で恋愛もとい妖怪百鬼夜行やっていた。誕生日プレイヤーでいられるのは一日だけ。始めた時間も夜になってからで時間が惜しかったのだ。この子のイベントを俺はスルーしていたのだろう。
「よろしく、ギーアちゃん。ここで会ったのも何かの縁だし結婚しない?」
相手がNPCだと思うと気楽に話せるな。試しに口説いてみたが、無視される。相手がNPCであると言っても、決まった言葉しか返してくれないのが寂しい。この世界に来てようやくまともな扱いをしてくれたのがNPCと言う事実がもう悲し過ぎる。心も荒むわ! そりゃあ煽りプレイもしたくもなるわ!!
「案内ギルド《世界入門》は、皆様の生活のお手伝いをしています。よろしくお願いしますね」
「本当に君に嫁に来て欲しい。俺が婿に入っても良いからお願いだ。君のためならお父様の前で、土下座も三時間……五時間までならやれるよ」
「あ! すみません私ったら……自分のことばかり。冒険者様のお名前、生活サポートのため登録が必要なんです。教えて頂けますか?」
名前なら既に登録しているが、本人確認のためか? リアリティを出すためか? 再び設定画面が現れる。
「いや、あんまり格好付けた名前付けるの恥ずかしくなってさ。簡単な名前の方が面白いかと思って。でも改めて言うの恥ずかしいな……」
「マイクに向かって、登録された名前をお願いします」
「女キャラが《ロリ未亡人》…………男キャラが《隣の寝取り男》です、すいませんでした」
俺を着せ替え人形にしたお姉さん、俺の名前見て帰ったよね。VRだと自分の頭上の名前見えなくなるからすっかり名前忘れていたんだ。誰かに名前を呼ばれない限り、付けた名前を忘れてしまい、こんな悲劇がやって来る。
(だって、ネタネームで強い奴って憧れるじゃん!!)
羞恥から涙ぐみ、手で顔を覆ってしまう俺。どうしてこんなことになったのか。美少女フェイスで《寝取り男》はないだろう。数時間前の自分を刺し殺したい。
キャラクリに時間掛けまくったのに、可愛い外見を台無しにする名前が面白いと思ったんだ。でもこんな煽りゲーなんだし、名前覚え難い英語表記の名前にすれば良かった。性別と外見が逆になった今、この名前は煽りのネタにしかならない。
「ぎ、ギーアちゃん! 名前変更って出来ないかな!? お布施させて頂きますから!!」
敗北上等だ。俺は課金をして名前を変える!! ギーアの両手を握りしめ、俺は必死に訴える。彼女は設定された笑顔のまま……ふふふと笑って…………?
「ああ、それは既に登録されていますね。別の名前でお願いします」
「え? クリエイト画面ではエラーなかったんだけど……それもバグか? やった!! もう何も思いつかないから《俺》と《嫁》で良いです!」
「既に登録されていますね」
「それじゃあ《†俺†》と《卍嫁卍》でお願いします」
「既に登録されています」
「じゃあ、《卍俺様卍》と《†俺の嫁†》で!! いや、危ねーな!! 名前男女逆にして!!」
「既に登録されています」
「このゲーム、名前阻止煽りしてる奴いない!? ネーミンスセンスねーなどいつもこいつもよぉ!!」
「《名前阻止煽り》も《ネーミングセンスねーな》も《どいつもこいつも》も既に登録されています」
「本当に何なのこのゲーム…………名前阻止のためにキャラ量産課金してる奴いない?」
流石は煽り特化型ゲーム。
ここには男女それぞれを同一の名前でプレイする者と、それぞれ別の名前で設定する者がいる。口説こうと近付いたら姿どころか名前まで変わる恐れがあるって怖いよな。純粋に恋愛を楽しみたい者は男女共通ネーム、主に煽りプレイヤーは男女別ネームを設定している。俺にも芽生えたネタと煽り心が災いし……こんな悲劇が誕生。消え去りたい。
俺の悲しみに寄り添うよう、ギーアちゃんは優しく笑いパチンと両手を打った。
「あ! それぞれ異性側では登録されていませんね! 最初の名前を男女で入れ替えると大丈夫です。それで登録し直します。登録しました♪」
「修正、入力回数制限付き!?」
パチンじゃねぇよ。何とんでもないことを思いついてくださったの? 性別切り替えで他ユーザーの名前を騙れるってまずくないですか? 恨まれない? みんなやってるの? 面白いからOK、そんなノリなのか??
恐る恐る頭上を見ると、美少女然とした俺には《ロリ未亡人》の文字が燦然と居座っていた。つまり、彼方は《隣の寝取り男》とかいう名前の女の子なんですね。最低ですよ。最低だよ。主人公がこんな名前のラノベ見たことないもん俺。アニメ化とか絶対無理じゃんこれ。そんなの本物の勇者だもんな誰がやるかよこんなもん!! 放送されていたらちょっと観たいけどさ!?
「改めまして、この世界へようこそ《ロリ未》様」
奇しくも名前っぽく区切られている。此方の名前はまだマシか。誰かの性癖に刺さりそうな予感もある。もうどうにでもなれ……俺はギーアのチュートリアルを進めることにした。
「結婚のためには指輪が必要です。婚約のための指輪を入手する方法は、大きく分けて二つ! 一つ目はお金を集めて買う方法。もう一つはダンジョンをクリアしてドロップ入手」
「戦闘で入手するか、制作系ジョブで金を稼ぐかって話か……」
「はい。どちらの生活スタイルでも結婚は可能です! 唯、指輪にはランクがありまして……結婚条件の厳しい方ほど高ランクの指輪が必要となります。相手の欲しがっている指輪を持って行くことが大事ですよ♪ その前にも気になる相手には、贈り物をしましょう! そうやって好感度を上げていくことでゆくゆくは結婚することが出来ます」
クエストの積み重ね、装備や戦闘・制作スキルの向上が重要。煽りバカゲーかと思いきや、意外と育成要素がある様子。制作者の闇と低い民度さえなければ、良ゲーになれたかもしれない。
「それって誕生日以外の日にも? 誕生日だけでそこまで関係を進めるのって難しくないか?」
「ええ、今説明させて頂きましたのは、誕生日以外の日の話ですね。誕生日には全ての人に最初から求婚可能になっていて誰とでも恋人関係になります。相手に拒否権限はありません。結婚式はドタキャンは出来ますけどね」
「そりゃ結婚詐欺が横行するわけだ」
「貴方はどちらのプレイスタイルを選択しますか? 今、《世界入門》では、初心者歓迎ウェルカムボックスをお渡ししています」
制作系ジョブか、戦闘系ジョブか。すぐに始められるよう、まずやってみたいタイプのアイテムや装備が貰えるらしい。
俺は畑が魔王に蹂躙されるという妹の話を思い出し、戦闘ジョブのボックスに手を伸ばす。その先にも選択肢はいくつかあって、自分のジョブ用装備を選べと言われる。俺は初期、騎士に設定していたが……バグの憂き目に遭い美味しい展開がなくなっためジョブチェンジを考えている。
そうだこんな体で騎士なんかやっていられるか! 俺が選んだのは――……ヒーラーボックス!
「ヒーラーなら装備の露出度も控えめで恐らく可愛いはず! 白衣の天使!! 吊り橋効果だ! 窮地を救えば惚れられる!! これは絶対にモテる!!」
「あ、男性用ボックスはこっち……」
俺が開封した箱には、それはそれは可愛らしいヒーラー装備が入っていたが、“女キャラ限定”と記述してある。
「…………男女、両方貰えるんじゃないの?」
「いえ、無課金冒険者様にはどっちかだけですね」
「今から課金したら貰える?」
「この会話イベント一回だけなんです。会話、……終わったので無理です」
可愛い俺では装備できないヒーラー服。ロリ未が扱える装備は、同梱された杖だけだった。
「ロリ未様、ファイト、おー♪」
ギーアの他人行儀な笑顔を眺め、…………無駄な荷物を減らすため、次は魔法職になりたいと思う俺がいた。
何故こんなことになってしまったのか。全ては寝不足が悪いのです。
浮かんだ名前がそれしかなかったんや……1周回って、ありがと思います。何処かの世界でご活用下さい、そして登録しようとする私を阻止して下さい。