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No.05 入試前夜

 受験前日になっておなかをこわした。

 本当に、最悪。最後の模試の結果もさんざんで、踏んだり蹴ったりとはこのことだと思う。


 世間では休日の今日、午前中からやまない雨にずいぶん気分も左右されている。

 エビのようにベッドでまるくなりながら、背中にひりひりと焦燥を感じる。雨音がさらに緊張をたかぶらせて、あと一ミリでも動いたら、泣いてしまうだろうと思った。


 受験は孤独な作業だ。それはもう、痛いほどわかっている。参考書をひらくこと、寝る間を惜しんで机にかじりつくこと、雑談さえ責め立てられるように感じて、自然と寡黙になっていく。日々の生活すべてが、まぢかに迫る試験へと集約されていく。


 深呼吸をしてみた。余計に痛みが走って、思わずうめく。かっこ悪い。


 そう。そもそも、あたしの三年間って、かっこ悪いの連続だったかもしれない。

 それでもなけなしのプライドが、“青春”の一言を拒むけれど、泥まみれなのはかわりなかった。

 あたしにとってこの年月は、荒れ狂う大海に放り出され、必死でもがき続ける日々だったし、荒涼とした砂漠で、一滴の水を見つけるような旅だった。たとえが良すぎるかな。今ちょうど、国語をやっつけていたから。


 背中まで響く鈍痛が、多少おさまってきている。今のうちにと、そっと手をついて、なんとか起きあがった。

 雨はふりつづいている。憎らしいほど、穏やかな音をたてて。


 あたしは目をつむって、イメージした。

 大海のなかで、覚悟を決め、力をぬいて、うきだすところ。広大な砂漠で、一滴の水を見つけだすところ。


 深呼吸を、する。痛みは底で、いまだ沈殿している。


 勝負はまだ終わっちゃいない。目を開けて、顔をあげる。


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