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No.04 晩年のブルドッグ

 どれだけ遠くへきてしまったのだろう。

 年老いたブルドッグは、ふと振り返りそう思った。

 彼の短い手足はいまや砂と塵と泥で灰色に染まりきり、もとの毛色さえ判別できないほどである。


 なだらかな丘に、おだやかなみどりの風が吹く。

 フン、と大きく鼻息をついて、ようやく足を折り、固い地面に彼は寝転がった。すこしだけ身をよじり、寝心地のいい場所を見つけ出すと、ひとしきり大きなあくびを数回して目をつむる。


 さやさやと、草が擦れて震えた。もうじき夕方だろうか。久しぶりに安らかな気持ちで彼はおもう。

 うつらうつらとしているうちに、過去の残像が浮かんでは消えた。目を開けると、それもすべて忘れてしまう。


 ――どこか名も知らない場所で、また太陽は地平線に落ちていくのだろう。

 わたしのあずかり知らぬところで、だれかが産声をあげ、だれかが天に召されている。


 午後のはつらつとした天気の下で、彼はふとこう考え、満足した。

 言い知れぬほど甘美な深い眠りが、彼をつつみこんでいる。


 あともう一度まぶたを閉じれば、彼は真っ青な世界へ行けるだろう。きっと拍子抜けするほど迷いなく、悔いもせずに。

 それがわかったからもう、なにもこわくはない、と思えた。


 静かな眠りが、まぢかに迫っている。


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