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語事【カタリゴト】  作者: 紅茶花伝
第1章→人間的日常
3/3

第3話→太刀衛門青年の日常❸

「おはよう太刀衛門君。授業はちゃんと受けたろうねぇ?」


茶髪の先生が話しかけてきた。太刀衛門はシャツを脱ぎながら答える。


「受けましたよ。寝てたけど…参加はしてます。」


「人はそれを参加とは呼ばない。」


深水フカミズ先生おはようございます。」


「あぁおはよう、沙原サハラさん」


この女子は演劇部の一年生。今度の劇で主役を務める子だ。因みに太刀衛門はその父親役をやる。尚、ここの演劇部の挨拶はいつでもどこでも〈おはよう〉限定なのだ。

部長が手を叩いた。


「ミーティング始めるから、円になって集まって‼︎」


口々に返事をしながら集まる。太刀衛門を始め、皆ジャージ姿。その円を少し離れて見守る深水先生。その後ろから赤木先生が話しかける。


「深水先生って、佐伯君のことかってますよね。演技力はあるけど、ずば抜けた才能ってほどでも無いですし…何故です?」


「…うーんとねぇ、まだあんまりだけど、『舞台映え』かなぁ。太刀衛門君さ、なんかこう、妖気とでも言えばいいのか、たまに不思議なオーラを出すんだよ。よく見てるとわかるけど。すごくそっちに惹きつけられるっていうか、そんな感じ。」


「あーそれで。舞台上では、それは大きいですからね。それなら私はやはり沙原さん推しですね。」


「あの目鼻立ちの良さ。体幹のしっかりした身体。あれは天性のものでしょうね。」


「あー!言われた!…ち」


「舌打ちはやめましょうよ。」



------------------------


帰り道、今度は自転車を押して歩く。自転車の反対側を、祈子が並行して歩く。それだけでとても、俺は幸せだったんだ。


------------------------


翌朝。太刀衛門は何を思ったか、祈子の家に向かった。いや、理由は単純だろう。本人に自覚がないだけなのだ。

インターホンを押しても反応がない。気になってドアノブに手をかけた。カチャリと音がして開いてしまうドアは、太刀衛門の危機意識を高めた。


「佐伯太郎太刀衛門ダァ!一緒に登校しよう祈子‼︎」


なんの返事もない。しんと静まり返った家の中で、太刀衛門は目を瞑る。意識を水面のように静寂にする。二階で微かな空気の揺れがあった。


「祈子!」


太刀衛門は気付いていないが、階段を全段飛び越えて二階に来た。ドアは開いている。その向こう、ベッドの上。祈子が寝ている。が、そのすぐ隣に、蒼白く光を放つ祈子がいる。


「あ、太刀衛門。おはよう。どうしたの?」


「お前こそどうしたんだ?その姿。」


「え?…きゃっ。なにこれ。」


「自覚なしか。」


「ねぇねぇすごい!この格好凄い!ほら見て!」


祈子が小さくなっている。物理的に、全長20センチ程度だろう。ひとまず何故か安心した太刀衛門は、ふと尋ねる。


「どうする?学校休む?」


「いやよ、絶対。三年間無遅刻無欠席で皆勤賞を狙ってるんだから。」


「昨日遅刻したろ?」


「けどいや、なんかつまんない。ブレザーの内ポケットならいんじゃない?」


「どっちにしろ出席は無理だろ?」


「仕方ないから皆勤賞は…あ、あき……あきら……めたく……め、めめめ…める!」


「そんなに本気だったの⁉︎まぁあれだ、図書室広いし文献の一つでも見つかるんじゃねぇの?」


学校に着いてから全授業が終わるまでの過程は、またいつか、機会があれば語ろう。


部活は欠席して図書室に向かう。まぁ、そんな都合のいい文献はない。

ここで、この高校の図書室棟の説明を使用。図書室棟は体育館の向かいにある。一階と二階が図書室になっており、多種多様古今東西の書物があるのだ。そしてその上の三回は社会科室という、広くて長机とパイプ椅子がある部屋だ。そして金曜日の演劇部は、この社会科室で活動する。

となれば当然、上で稽古している。


「部活いいの?」


「たまにはいいだろ?お父さん役のセリフ全部覚えてるし。」


「一人でブツブツと、稽古かな?それなら部活に参加しなよ。」


茶髪のオッサン改め、深水先生が入ってきた。


「どうして⁉︎」


「いやいやいやいや。部活休んどきながら、下の階にいりゃあねぇ。何か探してる本でもあるのかい?」


「えっと…」


「図書室の扉の右上、見たかい?ここの管理人は僕だよ。どこにどの本があるのか、全て把握してるし、その内容も全て把握してる。」


「すご!あの、じゃ、幽体離脱の本とかって?」


〈幽体離脱〉、登校中に二人で出した結論だ。


「幽体離脱なら、小説はあるけど…そうじゃなさそうだね?」


「はい、できれば文献とかが…」


「少しズレるけど、キョンシーって知ってる?日本語だと僵尸キョウシだけど、キョンシーのが有名な呼び方だね。」


「それくらいは、テンナンちゃんとかの…」


「そうそう。さて、諸説あるけど…キョンシーっての始まりは昔々の中国の道士が、自体を運ぶために使った術なんだとか。魂魄コンバクって…わからないよね?魂は精神を、魄は肉体を司る。死ぬと魂は天へ昇り、魄は地に沈む。キョンシーは魄だけ残ってる状態のこと。それと似た状態だろうね。」


「へ?」


「その内ポケットに入ってるガールフレンドだよ。」


「え!バレて⁉︎」


「君には打ち明けてしまうか。僕のフルネームは?」


「深水…サトル


「僕の正体は妖怪・さとり。毛むくじゃらな山の妖怪で、人の心が読めるんだよ。今心の中で、『こいつヤベェけど、祈子のことどうにか出来るかも』って考えたろ?」


「ほんとらしいですね。」


太刀衛門は内ポケットに手を入れ、祈子を見せる。


「…全く気付いてなかったけど、服は着せてあげたら?」


そういえば今、小さい上に蒼白く光ってるからよく見えないけど…祈子は裸だ。

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