第1話→太刀衛門青年の日常❶
記念すべき第1話、そうなるよう頑張ります。連載の間隔はひどいことになるかもしれませんが、どうぞ宜しく。ふと気付いた時に「あ、新しい話出てる」くらいの感覚で読み続けてくれると幸いです。
「異世界冒険ファンタジー小説を読んで、ハーレムしてる主人公の気持ちになる。ゲーム内で無双して一人自意識過剰気味にため息をつく。君はちゃんと理解してるのかなぁ?」
茶髪のオッサンが青年の耳元で囁く。青年は死んだような目で言葉を返す。
「知ってます。俺が自堕落だっていうんでしょ?知ってます。重々承知してます。受験を控えた中3の冬にやる気をなくし、志願した高校に落第。併願校の私立に入るも授業は寝て、部活だけ参加。嫌なことから逃げてばかりの俺に、あの子を助けるなんて無理だ。そう言いたいんでしょ?」
「いやいやいやいや、別に。そんなことは〜ない!助けようと思えばできる。ただねぇ。」
オッサンは無精髭を撫でる。
「君は今まで、嫌なことから逃げてきたんじゃない。興味のないことをやらなかっただけだ。つまり裏っ返すとさ、興味本位の行動しかしてないんだよ。これはね太刀衛門君。興味本位でできることじゃないんだよ。」
「今回ばかりは興味本位じゃないです。」
太刀衛門と呼ばれた青年は、俯いた。
事の発端を話すなら、先週とも言えるし、2年前とも言える。物事に明確な始まりも終わりもないという事だが、これにはわかりやすい目安がある。ひとまずは彼のことを知ってもらうために、先々週のとある土曜日のことを語る。
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激しくドアをノックする音で、太刀衛門は目が覚めた。まるでアサルトライフルで、襲撃されるような気分。ソファの上で、溜息をつく。
「我が幼馴染、佐伯 太郎 太刀衛門‼︎召喚‼︎」
「フルネームで呼ぶな!召喚するな‼︎我が幼馴染、霊山祈子。お互い珍名も珍名なんだからよ。」
「貴方みたいに、受験に落ちた落第生と、仲良く登校してくれる美少女なんて、私くらいなんだから。」
「昨晩はなんのアニメ見た?どのキャラだ?自分で自分を美少女とかいう程に、お前から羞恥心を奪ったキャラは?」
「A secret makes a woman woman.フフーーン‼︎」
「得意げに言ってるな?お前みたいな子供がベルモットの真似しても意味ねーぞ。大体朝起こしに来るなんて、昔のラブコメじゃないんだから。今日俺はな、午後まで布団で寝てしまう病気なんだ!だから授業は休む。でも部活はいく。」
「演劇部の先輩、やたら美人な人がいたけど、それ目当てでしょ?」
「いやさんなことは……てかなんで先輩のこと知ってる?」
「A secret mak」
「五月蝿ぇ‼︎」
「るろ剣か!背中に悪の一文字を背負うのか!」
「さっきから漫画ばっかだな。」
「ダーリン浮気は許さないっちゃ!」
「それさ、原作漫画じゃ言ってないと思うんだよね俺。まだ時間あんだろ?部屋はいって見てみろよ。」
太刀衛門は祈子を家に入れた。家の中はシンとしていて、誰もいない。なぜかということは、祈子も知っているので聞かない。階段を上がって最初が、太刀衛門の部屋。隣にはもう一つ部屋がある。その扉には[次郎 槍左衛門]と書かれた表札がかかっている。
「何もたついてるんだよ?早く入れ。」
「うん、ごめん。で、うる星やつらどこ?」
「らんまの奥にあるはず。…えっと…ほら!」
「ねぇ、今更だけどさ…全巻見て確認とかできないよ?」
「あ。そうだね。どうする?」
「言ってないって言う太刀衛門の意見を取り敢えずの事実としておこう。いつか読んでて見つけたらそっちが事実。」
「それ俺の意見いつまでたってもほんとに事実だって認められないじゃん。」
「それより着替えたら?」
「わかった。」
太刀衛門はパジャマを脱ぎ、パンツ姿で洗面所に行った。顔を洗って歯を磨く時、太刀衛門はこの姿だ。そして祈子は慣れている。らんまの2巻を手に取り読み出した。暫くの後、制服姿の太刀衛門がらんまの5巻を取り上げた。
「相変わらず速読だな。漫画限定だけど。」
「というか、一度見た話だから、少し流しながら読んでる。それはそうとさ、私歩いてきたんだけど、ローファーで歩くのは疲れた。自転車の後ろに乗せて。」