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19話 『刹那の旅(モーメントリップ)』と『限りなく透明(ノーノーティス・ウィズ・ユー)』③

「……これは珍しい客人だな」


扉を開けたのは、大柄なスキンヘッドの男。

男に目線が集まる中、彼は室内を軽く見渡した後、部屋の奥で佇むジタルに注目すると目を細めた。


「門戸隊長!来ていたのですか」


「ん?おう、そういえば言ってなかったか。ハッハッハ!すまんすまん」


驚いた表情を浮かべる桜に対し、男は場の状況とは不釣り合いに笑う。

その後余裕のある表情を崩さないまま、ジタルの方に向き直した。


「お久しぶりでございます。いつ以来でしょうか」


隊長と呼ばれた男__門戸(もんど)(もん)に向かって、ジタルは懐かし気にそう話しかける。


「『大災害』以来か。随分と老いぼれたなジタル。第一線は退いたのか?」


「ええ。とうの昔に。隊長__ですか。貴方も随分と偉くなったようですね」


「ああ。おかげで毎日無茶ばかり押し付けられてな。ストレスでこんなに禿げ上がっちまったよ」


「ハゲは昔からだったように記憶しておりますが」


談笑を始めた二人に対し、桜を始め室内の皆が戸惑っている。ただ一人、コウだけは門戸のほうを睨み嫌悪感を露わにしていた。


「隊長、二人は知り合いで?」桜が質問する。


「ああ、昔ちょっとな。まあ、俺じゃなくてこの爺さんが有名人なわけだが」


門戸はジタルを見ながらニッと口を曲げる。その彫りの深く若々しい表情はとても40代後半には見えない。


門戸紋__アクス本部に所属する最高幹部の一人。佐護桜直属の上司にあたる。

肩書きとしてはアクス代永班の最高責任者という立場ではあるが、事実上桜がこの街の指揮をとっており隊長である彼は本部からたまに様子を見に来る程度であった。職務怠慢というわけでは無く、あくまでプロジェクトの責任を取る立場にある役職であるということだ。他にも沢山の任務を抱えているのだろう。


門戸紋はジタルに目を向けたまま口を開く。


「桜よ、この爺さんは手強いぞ。自慢の『セネル』で世界中の情報を知り尽くしている上に用心深く、負ける勝負は確実にしてこない。交渉へ爺さん自ら表に出てきたということは、全ての準備を既に終えてしまった後だという事だろう__それだけに、こちらが妥協出来るラインというものもしっかりと見極めて交渉に臨んできているはずだ。そうだろう?」


「……はい。今まさに、彼の要求を受け入れるつもりでした」


桜は一瞬顔を下に向け目を閉じる。その後顔を上げジタルとこころを交互に見た。


「要求を呑もう。ただし人質を今すぐに解放すること、そちらの情報を極力開示すること、そしてこの街の原則を乱さないこと。これが条件だ」


「__ええ、承知いたしました。これにて交渉成立、ですね」


ジタルはフッと一つ息を付くと、桃野こころの首筋に触れていた手をスッと下げ


「人の心を知る『セネル』__とても良い能力です。怖い思いをさせてしまい申し訳ありませんでした」


こころへ向かってそう囁いた。


「いえ__怖くなんてありませんでした。貴方は本来とても優しい人__それが伝わってきましたから」


こころはジタルへそれだけ伝えると、桜とコウの方へ足早に向かっていく。


「先輩、ご心配をお掛けしました!__コウちゃんもありがと!心配してくれてたんだよね!」


「うっせ自惚れんなブス、簡単に捕まってんじゃねーよ」


コウは照れを隠すように顔を背けている。


桜もようやく緊張の糸が解け、大きく息を吐いた。まだまだ問題は山積みだが、彼女が無事戻ってきたことを今は喜ぼう。


桜がそんな事を思っている傍ら、ジタルは門戸の方へ近づくと深々と頭を下げた。


「誠に感謝致します。貴方のおかげでスムーズに事が進みました」


「__ハッ、アンタのことだ。俺がここへ来ることも織り込み済だったという気がしてならんな。俺の手帳でも覗いたか?」


「おや、アナタは手帳と言った類の、自分自身の情報を形に残すような事は一切行っていないハズですが。違いましたか?」


「……フン。相変わらずだ」


そこまで話し終えると、ジタルは踵を返し桜の元へと歩を進めた。


「アナタも__優秀な指揮官の方で、とても助かりました。感謝申し上げます」


そう言いながら深々と頭を下げる。皮肉に聞こえてしまうのは、己の力不足を痛感したからか。

桜はフッと微笑むと


「約束は守ってもらうぞ?」


とだけ答えた。



「それでは__我が王女をご紹介する用意が出来ました。少々お待ちください」


あれから数時間。


ジタルは暫く部屋を現れたり消えたりを繰り返していたが、準備が整ったのか部屋の中央に人を集め始めると、それだけ言い残しこの場から姿を消した。

かと思われたその4,5秒後、再び彼は同じ場所に現れた。


彼の他にもう一人、少女を連れて。


少女はフワリとその金髪を膨らませながら、まるで鳥の羽が地面に落ちるような軽やかさでその場に着地する。


皆が、彼女に注目せざるを得なかった。まるで、そこが宇宙の中心であるかのように。


「ワオ」と、コウが声を漏らした。それ以外の声は一切聞こえない。


少女は目を閉じ、下を向きながら老人から遠ざかるようにゆっくりと前進していく。ある程度歩いたところでその顔を上げ、ゆっくりと目を開いた。


「お初にお目にかかります。私はマークス国、ノスタニア王の娘、名をユーノスタリア・ノスタニアと申します」


容姿、声、仕草、その全てが彼女の言葉一つ一つに説得力をもたらしていく。


なるほど……これが王女、というものか。

佐護桜ですら、ほんの一瞬責務を忘れ彼女に見入ってしまう程だった。


「__まずは、わたくしの『セネル』をご説明致します」


彼女はそう言いながらも、その場から一歩も動かない。


何が始まるのか__皆が疑問に思い始めた瞬間。


彼女は__ジタルが瞬間移動を行う時と同じように、その場から突然消え去った。


周囲が騒つく。


「……これは!彼女も『瞬間移動』が使えるのか?」


桜がジタルに問いかけたが、彼は何も答えない。


「いいえ、違います。私はずっとこの場所にいました。」


「!」


代わりに桜の背後からユーノスタリアの声が聞こえ、桜は驚き振り返った。

__全く気付くことが出来なかった。

一体、どういった仕組みだ?


ユーノスタリアは少しだけバツの悪そうな表情になるが、すぐに表情を引き締めもとの場所に戻り始めた。


「私のセネルは、一言で言えば『透明人間』です。セネルを発動している間、誰も私の姿を見ることはできません。__いえ、少し違いますね。誰も私に()()()()()()()()()()()()


「……」


「そしてもう一つ」


と、ユーノスタリアは突然桜の元へ駆け寄り、その手をギュっと握った。突発的な行動に、相手は女性だが桜はドキリとしてしまう。


「せ、先輩!?」


「班長!」


と、突然周囲が騒がしくなった。桜の名を呼びながら、皆が何かを探すように室内を見回している。


「こ、これは__皆、どうしたんだ!?」


しかし、桜の声に誰一人反応することは無かった。


__彼女の手を握る、ただ一人を除いて。


「『限りなく透明 (ノーノーティス・ウィズ・ユー)』」


彼女は桜を見て、そう呟いた。


「私は自分自身と__手を繋いだもう一人の人間を『透明人間』にすることが出来ます」



後日追記します。

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