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18話 『刹那の旅(モーメントリップ)』と『限りなく透明(ノーノーティス・ウィズ・ユー)』②

後日、優パート追記します。



「王女を、匿う……それも一生、だと?」


予想だにしていなかった要求に、佐護桜はジタルの言葉を繰り返すことしか出来なかった。


「はい。言葉通りの意味でございます」


ジタルは淡々と言葉を進める。返答に迷いが無い。ここまでは彼のシナリオ通りに事が進んでいるようだった。


「一生匿う……つまり、その王女をこの『代永』に居住させる、ということか?」


「その通り。正確には……『アクス代永監視班』という秘密軍事施設に、ということになりますが」


「……くっ」


彼の話ぶりから薄々気付いてはいたが……これではっきりした。彼は『この街の秘密』を知っている。


代永市は表向きにはアクスの軍事基地ということになっており、この街の本当の目的や『九重優』の素性は国外はもちろんのこと国内でも極秘事項として扱われている。アクス内ですら、限られた者しか『この街の真実』を知らないのだ。


どのような手段で情報を手に入れたのか分からないが__『この街の秘密』を知っているということは、彼等は『この街で絶対にしてはいけない事』が分かっているという事だ。


『マークス』という謎の多い国家__

『瞬間移動』のセネルを持つ老執事__

真意の読めない要求__

そして『王女』__


戦況は圧倒的にこちらが不利な状況だった。致命的な弱点を握られているにも関わらず、こちらは相手側の情報が殆ど無い。


だとしても……


「……駄目だ、と言ったら?」


要求を受け入れる事__それは『世界の滅亡』を招くことにさえなりかねない。簡単に呑む訳にはいかなかった。


(コウ、『リンク』は済んでいるか?)


桜は隣にいるコウに対して、他の誰にも聞こえない大きさでそう耳打ちする。


(とっくに終わってる。ただあのマヌケの命の保証はできねーけど)


コウはそう耳打ちを返しながら、桜に一瞬目配せをした。

桜はジタルの方に視線を向けたまま、首を数センチ横に振る。こちらにも反撃の手段はあるが、もう少し情報を得る必要がある。


「ふむ……そうですね」


ジタルは少しだけ間を置いた後、キリ、とその鋭い眼光をさらに細めた。


「九重優と我が『王女』、二人が既に接触済みだとすれば、どうでしょうか」


「!!」


「班長!あれを!」


班員の一人が叫びながら指を差した。


室内にいる者が一斉に監視カメラの映像に注目する。

その中の一つの映像……そこには、照れ臭そうに歩いている九重優と、共に歩くもう一人の女性の姿。


「そんな!いつの間に……」


桃野こころが唇を震わせる。


やられた__


「……順番が逆だった、と言うことか」


桜がジタルを睨む。彼はその問いには何も答えなかった。


(……まあ、もう少しスムーズにやって欲しかったのですがね)


ジタルは誰にも聞こえないような小さい声で何かを呟いたが、その後すぐに彼は室内中に通るように声を響かせた。


「要求が呑めないのであれば、こちらの取る手段は一つです。『九重優への秘密の暴露』__ワタクシの 『刹那の旅 (モーメントリップ)』を含め、それを実行できる手段は既にいくつか用意しております故」


そう、我々は最初から彼等に心臓を握られていたのだ。

王女が九重優への接触に成功した。だからこそジタルは単身でこの室内へ侵入し、交渉を求めてきた。確実に要求を呑ませるための、下準備を終えた後で__


「さて、ここまでがワタクシのカード」


ジタルは一旦言葉を切る。

と、突然彼は鋭かった眼光を緩ませ、神妙な面持ちになった。


「繰り返しますが、ワタクシは戦いを望んでおりません。要求を呑んでいただく為にはいかなる手段も辞さないつもりですが、呑んでいただいた暁には『この街』のサポート含め、どんな協力も惜しまぬ所存でございます。老い先短いジジイの願い、どうか受け入れては頂けませんでしょうか」


「!」


彼は桃野こころの首筋に手を触れたまま、あろうことか深々と頭を下げた。


コウが驚いた表情で桜を見る。


桜の額から汗が滴り落ちた。


もちろん、彼の言葉を信じることなど出来ない。しかし、依然こころが人質に取られているとは言え、目の前の彼に明確な隙が出来たのも事実だ。


要求を呑むか、反撃に出るか__


「__待ってください!!」


桜が決断に迫られたその時、重苦しい空気を切り裂くように口を開いたのは、まさに今人質に取られている桃野こころ本人だった。


「この人の言う事……嘘ではないみたいです」


こころは自らの胸に手を当て、目を瞑る。


「直に触れてるので、とても鮮明に伝わってきます。私に対する殺意は始めから無く、心はとても穏やか……話す言葉に躊躇いやノイズもありません。心と言葉のギャップに驚いたほどです。しかし、その奥底には非常に強い『意志』を感じます__詳しく話を聞いてみてもいいかもしれません」


「……ココちゃん」


こころの言葉に、桜の決心が揺らぐ。


「……」


室内の全ての視線が桜に送られる。


「……我々は、要求を__」


桜がその言葉を口に出そうとした瞬間。



監視統括室の扉が、大きな音を立てて開いた。





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