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14話 戦闘班と目良千①

「皆さんもご存知の通り、セネルは人を媒介することでのみエネルギーとなり得ます」


太陽がまだ地を照らす時間帯。


辺りを壁で囲まれた一見して運動競技場のような空間の中心に、男女数十人が集まっていた。

年齢はバラバラだが比較的若い者が多く、全員が統一された隊服を着用している。


日野辰もその中の一人だった。体格の大きさから彼の姿は集団の中でも目立って見える。


辰の、そして彼らの目線は、正面に立っている眼鏡を掛けた男に向けられていた。

男はアクス代永監視部隊『戦闘班』の副班長。彼もまた25歳前後の若い青年だが、その落ち着いた雰囲気や口調から実年齢より5歳から10歳は高く見える。


「……前から思ってたけど、辰君って結構デリカシーが無いよね」


日野辰がこの話を矢田陽にしたとき、冷めた目でそう言われたことを辰は思い出した。


陽の方を見ると一瞬目が合う。彼女は同極の磁石のようにスルリと目を逸らすと、そのまま瞳は髪の毛に覆われ完全に見えなくなってしまった。


「人を介さなければ扱えないエネルギー……この点がセネルの非常に厄介なところで、セネル発生から数百年……そこまでの技術革命が成されなかったのもこの特性のためにあると言えるでしょう」


副班長は集団に向かって話をしている。その右手には球状の装置が握られていた。


「逆に言えば、『セネル』を利用した技術は現在も進化の最中にあると言えます。__例えば、今の世において最もメジャーな技術が『シールドこれ』です」


そう言いながら、彼は手に持っているシールドと呼ばれた装置を目の前に掲げた。場所が場所なだけに、何か球技の練習風景のようだ、と辰は思った。もちろん、これはスポーツの講演などでは無いことを辰はよく知っている。ここに集まるのは、決して今回が初めての事では無いからだ。


週に1度、定期的に行われる戦闘訓練。

基本的に、戦闘は街の外側に配置されている『戦闘班』が行うため『内部班』が訓練を行う必要は無い。だが、希望した者はこのように1つの場所に集められ、『戦闘班』班員指導の下、実戦を想定した戦闘訓練を受けることが出来る。


辰はほぼ毎週、この訓練に参加していた。矢田陽やエンペレス姉妹も辰ほどでは無いが参加率は高く、逆に上玉利灯をこの訓練で見かけたことは一度も無かった。


「シールド……セネルが人間にしか扱えないのであれば、セネルを人間が放出した『後』のエネルギーを用いれば良いのではないか、という発想から生まれた装置です。これは『シールド』に限らず、セネルに関する技術のほとんどにおいて基礎的な考えとなります」


副班長がそこで言葉を区切る。それと同時にシールドが一瞬膨張するような動きを見せたかと思うと、瞬く間に装置は透明になり目では見えなくなった。


「これがシールドを展開している状態です。人が放出するセネルを体の周りに留め、外部からの攻撃エネルギーにぶつけることで威力を相殺させる……いわば『防具』の役割を行うものになります。ボールやタイヤをイメージして貰えると分かりやすいでしょう。私達から放出されたセネルが空気の役割を果たし、外側に展開されたシールドの強度を保つ役割を持っています。やっていることは実に単純。人によっては装置無しで同じ芸当が出来る者もいるぐらいです。しかし単純ゆえにいち早く技術として確立し、様々な形に派生されていきました」


そこまで言うと副班長はおもむろに空を見上げた。一見すると何の変哲も無い青空であるが……彼は目線を集団に戻し、再び話し始める。


「例えば、この技術を応用したものが『結界』です。厳密には異なりますが、この一人用のシールド装置を巨大化したものだと考えて頂ければ分かりやすいでしょう。領域内にいる全ての人々を媒介し、円状に大きなシールドを生成する技術……主に軍事基地や王城で外部からの攻撃を防ぐために活用されています。勿論、この代永も大きな結界で覆われていることは皆さんご存知ですね?外部からのセネルによる攻撃をシャットアウトする上で、結界は非常に重要な役割を持っているのです__っと、少し長話が過ぎましたね。まったく……」


そう言いながら副隊長は腕時計をチラリと見た。その顔が僅かに曇る。半ば呆れの混じった表情だった。


「班長は相変わらず不在ですが……まあ良いでしょう。それでは、今日はこのシールドの扱い方を中心に戦闘訓練を行ってもらいます!戦闘において防御は攻撃以上に重要です!呼ばれたものはこちらに、それ以外の者はこの訓練場内で各自訓練に励むように!」


「「はい!」」


その号令を機に、集団は少しずつ散り散りになっていく。辰は軽く辺りを見回し目的の人物がいないことを確認すると、自らもその場を離れ、訓練の準備を行い始めた__





日野辰がしばらく自主訓練を行っていると、訓練場に一人の男がふらりと入ってきた。気づいた者は一瞬チラリと男を見るが、すぐに目線を戻し再び訓練に取り組んでいる。


「やあ、福くん」


無地のシャツに色褪せたジーンズを履いた30前後の優男は、背を曲げながら副班長の元にゆっくりと歩いていき、そう声をかけた。


「……また遅刻ですか。目良めら班長」


副班長は目線だけ男の方に向け、低い声でギッと睨む。

目良と呼ばれたその男は、片手を頭の裏に付け申し訳なさそうに頭を下げた。


「いやあ、ごめんね。どうも僕、時間通りに起きるってのができなくて……」


「まあ、今日はちゃんと来ただけマシですが……そんなことでは、班長として皆に示しがつきませんよ」


「ハハ……最初から示しなんてついてないさ。それに僕がやることなんてほとんどないし」


「あ・な・たがやるべき事は!ぼ・く・が!全部やってるからですよ!」


「ああ、そうだったね。いつもありがとう、福君。キミみたいな優秀な人がいれば『戦闘班』は安泰だ」


「なに開き直ってるんですか!あと福君はやめてください!」


「え、どうして? 水戸みとふく副隊長。水戸が苗字で福が名前、合ってるよね?もしかして名前変わった?」


「変わってません!そういう問題じゃなくてですね……」


男は副班長と言葉を交わしている。普段冷静沈着な副班長も、彼の前では声を荒げることが多い。だがこの二人の問答はいつもの事であるため、知っている者からすればその様子はむしろコントのようだった。


辰はそんな二人の元に駆け寄っていく。先に副班長がこちらに気付くと、咳ばらいをしながら会話を止めた。続けて優男もこちらに気付く。


「班長」


「やあ、日野君。またデカくなった?」


男は辰のほうを向くと、手を軽く上げて優しげに微笑んだ。


目良めらせん__戦闘班の班長。役職で言うと『監視班』班長の佐護桜と同じ階級だ。つまりかなり偉い。


しかし佐護班長とは違い、少なくともその見た目や雰囲気からは、とても上に立つ者としての風格を感じることは出来なかった。むしろ見た目だけで言えば、浮浪者やダサいオッサンと言った方が印象としては近いかもしれない。


辰は背筋を伸ばし、目良千に向かって深く礼をした。


「はい。日々鍛錬に励んでいるため、その成果が出ているのかもしれません」


「うんうん、いいことだ。ただそんなに筋肉は要らないけどね」


……やはり優に言われた通り、筋肉無駄にしてるマンなのだろうか。

辰は心の中で少し落ち込む。


「さて……日野君。今日もやるかい?」


「はい!お願いします!」


「じゃ、裏に回ろうか」


辰が大きな声で返事をすると、目良千は目を細めながら軽く頷き、再びゆっくりと歩き始めた__



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