スポドリ!
暑さとは困りもの。
生き物も、地形も、天候も、気が狂っていく。
それでも、青春な汗は変わらないものだ。そうであり続けるのが、平穏な1ページ。
土手沿いの木陰で待つ女性はいた。
夏仕様のセーラー服に、透き通った冷たいスポーツドリンクを両手で握りしめ、人ではなく、男を待っていると言っていいくらいの雰囲気だ。
「広嶋様も暑い事でしょうね。でも」
この時期は広嶋様の好きな野球の季節ですわ。
オフの日でも、ランニングをしている事。投げ込みをしている事。素振りをしている事。ちょっとやり過ぎて、未来の野球選手達をイジメている事も。この裏切京子は知っているのですわ。
トレーニングの後で、この冷たい冷たいスポーツドリンクを差し出し、好感度をアップさせますわ。
「もし、お口に付けていただいたら、残りは私が、でへへへ」
そこまで進んでいく妄想。アイドルの握手会で、2度と手を洗わないといった男のそれと似ている。トイレとお風呂でしっかりと洗えよ。
「!来ましたわ」
そして、お待ちかね。裏切のお目当て、広嶋が走ってくるところを発見。野球ユニじゃなく、そこらへんの野球好きの一般人みたいな恰好だけれど、野球の荷物を抱えていた。
野球をやってきたところのようだ。
裏切も照り付ける陽の中に飛び込んだ。
「広嶋様ー」
「!裏切か」
せっかく飛び出したのに、止まってくれやしない。負けじとこちらも走ってしまう。
ちょっとイメージと違っていたけれど、
「スポーツドリンクです!」
スポーツ系女子マネージャー特有の、雰囲気あるスポーツドリンク渡しではなく、正月のフルマラソンで水を差し出す人っぽくなっていた。
しかし、それでも良いかなと。この暑さに潤いを、お口にお運びくださいと裏切は願った。
「悪いな」
しかし、広嶋は普通に
ビシャーーーーッ
体にスポーツドリンクをぶっかけた……。
「とはいえ、今度は大きめの水で持ってこい。足らん」
「いや、広嶋様!今のは飲む場面でしょ!?」
「まぁ、それもあるがな(さっき飲んだばっかりって言えば、裏切に悪いしなぁ)。全身冷やすならぶっかける方が良くてな」
こ、この方のこーいうところが、意地悪過ぎですわねぇ。
ワザとですか!?ワザとですか!?
走りながら感情豊かに、踏み弄られた裏切に気付き。無意識であったが、弄っていたことに不意の満足が。最後のロードワークをちょっと長めに、そして速く。それでも裏切がついてくる忠誠心。
「裏切」
「な、なんですの!?」
自分と同じくらい汗かいたから。
「お前も帰る前に汗くらいは洗い流せ。シャワーでも浴びようぜ。替えのシャツなら俺のだが貸してやる」
「!そ、そ、それは!ホテルでご一緒にと……」
「なら、残りの金はお前が払うか?」
こー言うと、裏切は払いそうなんだがね。