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グリムアルム  作者: 赤井家鴨
幕間
92/114

ある<童話>の与太話






これはとある<童話>の昔話。


この<童話>は人間社会に深く興味を持っており、人間と共存することを夢見ていた。


日課はお気に入りの町で散歩をすること。

公園のベンチで日向ぼっこをすること。

ビアホールでたまたま隣の席になった客の話をつまみに美味いビールを(たしな)むこと。


そんな彼を他の<童話>たちは変わり者だと馬鹿にした。

だけども彼はそんな戯言を微塵(みじん)も気にしてはいなかった。

彼には気の合う人間の友人が沢山いたし、波風立たない平凡な日々を心の底から愛していたからだった。


しかしそんな彼は友人たちとも決して"言葉"だけは交わさなかった。

いつもする彼の会話は紙にペンで文字を書く筆談だけ。

彼の友人たちも「コイツは喋れない奴なのだ」と理解して気にもしていなかった。


本当はたくさん喋れるし、面白い冗談だって語りたい。

だけども彼は"言葉"に関する能力を持った<童話>なので迂闊(うかつ)に喋ることができなかったのだ。



“ちょっとでも人間と会話を交わせば、その人の人生を狂わせてしまう”



人間と仲良くしても人間の人生は転ばせたくない<童話>は、それだけは決してやってはいけないと口を強く閉ざしていた。






 その日も彼はビアホールで美味いビールを嗜んでいた。今日のつまみは小さな党の演説会。

人はいつの時代もギャーギャーと誰のせいだ、何が自由だと同じ話題を繰り返す。それがなんとも無意味で愛おしいものかと、<童話>は幸せそうにその演説会を眺めていた。



 時間が過ぎるほどに議論は白熱し、ついには取っ組み合いが始まるぞ! っと緊張感が走る中、ひとりの若者が客席から演説の舞台へと立ち上がってきた。

 登壇(とうだん)した若い男は恐ろしい剣幕で党の者に喰らいつくと、彼らの思想を強引にねじ伏せる。


 いくら愛おしく思っていても、いつも同じ議題を聞いていた<童話>はその光景がとても新鮮で面白く感じられた。


 若くて荒削りで危険な思考に共感せずとも、その男を応援したい気持ちに<童話>はなっていた。

そして何を思ったのか<童話>は舞台から立ち去る若い男に近づくと優しい声で囁いた。


「神のご加護を」



と、





 それから何年か経ってから二度目の大きな戦争が始まるわけだが、


”人の人生を狂わす<童話>” と ”<童話>をも魅了する人間”


本当にタチが悪いのはどちらの方なのでしょうか。






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