表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
グリムアルム  作者: 赤井家鴨
序幕
11/114

003<夜ウグイスとメクラトカゲ> ― Ⅰ




 お昼休みのチャイムが鳴り、学生たちが一斉に学食堂へと向かう。

学生生活の中で最も楽しみにされている時間だ。人々が昼食にありつき和気あいあいとした空気の中で、窓際のとある一部だけはその空気とはかけ離れた、緊張した雰囲気を醸し出していた。

 朝からずっとこの窓際の席を独占している菅 桐子という留学生の女の子が、スプーンを咥えたままじっとある一点を凝視している。外扉のガラスの向こう側、沢山の下級生たちに紛れて見覚えのある顔がこちらを睨んで近づいてきていた。

 昨日の夕暮れ、<童話>という<悪霊>に取り憑かれた桐子は散々恐ろしい目にあった。そしてその恐ろしい目に合わせた本人と今、目と目が合ってしまい離せられずにいた。彼は学食堂の中に入ってくると、断りもなく桐子の前に空いている席に座る。そして、不機嫌そうにあの質問を聞くのであった。

「お前は童話か?」


「…………クラウンくん……だっけ? 私は桐子。菅 桐子。日本から来た留学生で、<童話>と言う<悪霊>とか……その、<悪霊>の力とかには全く興味がないの。……言葉合ってるかな?」

 クラウンの感情を激しく揺さぶらないようにと、片言なドイツ語ではあるがゆっくり丁寧に、子供に難しい話を分かりやすく伝えるように桐子は彼の質問に正直に答えた。すると彼女の努力が伝わったのか、クラウンも「そうか」と納得したように頷く。

「お前がその、キリコって言う奴になりきっている事がよーく分かった……」

クラウンの瞳により一層闘志の火が点り、ギロリと強く桐子を睨む。

 「理解してないやんよ!」と心の中で叫んでみても、誰もその危機的状況下を感知する者はいない。桐子がこの状況から脱出するには自分の力で何とかするしかないのだ。ここは彼に注意しながらゆっくり、ゆっくり逃げ出そう。桐子は静かにカバンに手を掛けた。

 今は昼食時だ。沢山の生徒たちが集まっているこの食堂の中、前のように剣を振るうことはできないだろうし、きっと上手く撒くことも出来るだろう。

「とでも、思っているんだろ?」

心を読まれてしまった。桐子はとっさに「ハンカチを取り出そうと……しただけだよ」と嘘をつくがもう無意味なこと。クラウンは懐からあるものを取り出して「お前にはこれで十分だ」と意地悪く言った。

紡錘(つむ)って知ってるか? 昔、糸を自分たちで紡いでいた時代の機械の一部だ。

童話の世界じゃ、魔女とかの表現の一つらしいな」

そう言って彼は取り出した古い紡錘の先をくるくると、まるで指揮者のように優雅に振ってみせた。しかしその手がピタリと止まると、また新しい質問を桐子に問う。

「お前、<いばら姫>って知ってるか?」

その質問はグリム童話好きの桐子にとっては愚問であった。



<いばら姫>

子供に恵まれない王族に、ようやく女の赤子が授けられる。

そのお祝いに王様は国の賢女達を姫の誕生会に招待した。一人を除いて。

招待されなかった賢女は怒りに任せて赤子に呪いをかける。


『お前の姫は一五歳になった時、紡錘に刺さって死ぬだろう』


 しかしその呪いは他の賢女によって上書きされた。が、十五歳になった姫は紡錘に刺さって百年の眠りについてしまう。これが桐子に憑りついている<いばら姫>の大まかな物語りだ。

 クラウンの手にする紡錘の先が桐子の方を向いて怪しく光る。まさか彼はこの場で、その紡錘を桐子に刺そうとしているのではないのだろうか。

 確か、桐子に<童話>の存在を教えてくれたハンスが言っていた。

<童話>の封印の仕方は童話のお話通りに事を進めるか、殴る蹴るして弱らせるか。しかしそれは<童話>相手にやる行為。生身の人間である桐子がそんな、<いばら姫>のお話通りに紡錘に刺さってしまったら、<いばら姫>と一緒に百年の眠りについてしまうのではないのだろうか。

 桐子は固唾をのんでクラウンに質問を返した。

「私の中の<童話>を……追い出そうとしてくれているの?」

「あぁ、そうさ…………お前の生死は別だがなっ!」

話し終わるや否や素早く紡錘を握りしめたクラウンは桐子の左胸にそれを突き刺した。その衝撃はトンッと物が軽く当たった程度のものなのだが、桐子の心臓はキュッと縮み上がり、凍りついたように硬直した。

 ――あ、このまま私は死ぬんだ。

と呑気な考えが桐子の頭の中によぎる。が、しかし、一向に桐子は苦しみもだえて倒れることも、眠気に襲われることもなかった。二人は茫然として互いに見つめ合う。確かに桐子に取り憑いている<童話>は<いばら姫>だ。お話通りであれば眠ることになっている。しかし桐子は眠っていない。何故なのか……


「あ、いたいた! 桐子ーぉ! そろそろガイダンスの時間だよ!」

 バンッとガラス窓が小さく揺れて、その場にいた数人が窓の方に注目した。そこには窓に張り付く智菊(ちあき)の姿が。

 授業が午後からのため、今のんびりと登校してきたのだろう。彼女は元気よくにっかりと笑っていたかと思うと、驚いたような顔をして急いで桐子たちの元へと駆けてきた。

「えっ、えっ?! ドイツっ子? 桐子の知り合い、ドイツっ子?!

男子?! 男子だよねぇえ?! 女の子よりもまつげ長ーい! グーテンモルゲーン!」

 うんざりするほどのハイテンション。クラウンは邪魔者が入ってきて苛立ちを隠しきれない様子。ワザとらしく舌打ちを打つと何も言わずに案外あっさりとその場から去ってしまった。しかしその去り際に、彼は桐子のことをねっとりと見下すように睨みつけて行ったので、桐子も緊張した面持ちで、彼に屈しないと言う意を込めて視線をジッと見つめ返した。


 クラウンの姿がすっかり外の木漏れ日の中へと消えていくと、どっと押し寄せる緊張の疲れで桐子は椅子からずれ落ちそうになってしまった。

「智菊、助かったよ。ありがとう」

 途中から乱入した智菊には理解できない桐子の言葉に、彼女はただ素直に頭の上にハテナマークを浮かべてみせた。

「今の子は?」

「クラウンくん。ちょっとね、なんか目をつけられちゃって……」

「ははぁ~ん。早速、桐子はんの魅力に惑わされた男子がこの学校にいると」

「そんなんじゃ……」 「んなわけあるか!」

 突如、少年の声が彼女らに向かってかけられた。二人が声の方へと振り向くと、そこには二人よりも数センチほど背の低い少年、ウィルヘルムが不機嫌そうに突っ立っていた。彼はクラウンが去っていったガラス窓を見つめてより一層眉をひそめる。

「今のはクラウンか?」

「え……? あ! うん」「!! おー! またもや桐子を訪ねてドイツっ子だー!! グーテンモルゲンッ!」

まだ桐子が話している途中だというのに、智菊はハイテンションに彼女の言葉をさえぎった。智菊は元気よく覚えたての自己紹介をウィルヘルムにする。

「マイン ナーメ イスト チアキ!」

桐子ほどドイツ語が達者ではない智菊の、お世辞にも上手とは言えない片言な挨拶にウィルヘルムは、不機嫌そうにあしらうことも馬鹿にするそぶりも見せずに、なんとにっこり笑って「tiaki! guten Tag!」と爽やかに挨拶を返した。

桐子とはあまりにも違いすぎる彼の態度に、彼女は思わず呆気にとられた。

「ちょっと! ウィルヘルムくん?! あからさまに態度が違くない?!!」

「対等だが? それよりも、クラウンとは何があった?」

あからさまに対等ではない。ムッと顔をしかめる桐子。しかしそんな事にこだわるよりも、さっき起きたことを彼に話すことの方が大切だろう。腑に落ちない思いを飲み込んで、桐子はつまらなそうな声を出して話した。

「紡錘に刺された」

「紡錘に刺されたぁ?! じゃあ……なんで無事なんだよ」

「そんなのっ! そんなの、私だって知らないわよ……死んじゃうんじゃないかって、私だってビックリして……」

思い返して恐ろしくなったのか、桐子の声色が段々と悲しみの色に染まっていく。

 昨日、殺意むき出しで桐子のことを追いかけていたあのクラウンが、今日も彼女の目の前に現れたのだ。しかも下手したらこの場で彼に殺されていた。桐子はただの一女子高生。命を狙われるような生活とは無縁の世界を生きていたのだから怖くたって仕方ない。

 ドイツ語が少ししか分からなくとも、親友の異変に気付いた智菊が桐子の手を強く握りしめた。

「ウィルヘルムくん、ごめんなさい。私たち、これから説明会を受けに行かなくっちゃだから……また後でいい?」

つたないドイツ語で懸命に伝えると、ウィルヘルムは承諾の意味として深くうなずいた。

「桐子、放課後図書館に行くぞ。ハンスにも言う。授業が終わったらこっちの校舎に来てくれ」

彼の言葉に桐子は小さくうなずいた。そして智菊に手を引かれるがままに、二人はガイダンスが行われる部屋へと向かう。



 小さな会議室のような部屋の中、日本以外の国からも来ている留学生たちと共に、この学校の教師から時間割やら授業内容といった説明を受ける。しかし桐子の心は上の空。大切な説明が話されていようとも、耳の中を右から左へとすり抜けていく。

「……――と、以上が今後の予定です。何か質問がある生徒は? いないですね。

それでは本日の説明会は終わります。明日からは本校の生徒たちと一緒の授業に出てもらいますが……えっと、明日の一時限目は英語ですね。遅刻しないように」

 順調に説明会が終わり、教師が教卓の上に広げたプリントを片付け始める。それを合図に他の生徒たちも自分の荷物をまとめて帰り支度をし始めた。

「桐にゃん、桐にゃん。さっきウィルヘルムくんと何お話ししてたか?」

さっさと荷物をまとめた智菊が素早く桐子の机にやってきた。彼女は楽しそうな顔をしながら桐子の顔をのぞきこむ。

「あ、うん。っちょっとね……放課後に図書館で調べ物をしようって話してたの」

「おやおや、早速図書館デートですか~い? ……ケッ」

「そんなんじゃないってば!」

楽しそうに話してはいるが、未だにどこか桐子の顔には暗い影が落ちている。

「……大丈夫? 私も行こうか?」

智菊が心配している。桐子はとっさに笑顔を作り、裏返りそうなほどに明るい声を出した。

「うん大丈夫。じゃ、ウィルヘルムくんを待たしちゃあ悪いし、行ってくるね」

明らかに作られた明るさだ。さすがの智菊もそれに気づいたのか、ムーッと唇を尖らせて眉をグッとひそめてる。が、すぐに「そ、わかった」と表情を元に戻して、何も気にしてないよーっというようにケロリと笑ってみせた。桐子と智菊の付き合いはそこそこ長いようで、智菊は彼女のことを信用して送り出すことにしたようだ。

「それじゃあ、先に寮に戻ってるから……」

教室から出ようと軽やかに、扉の方へと智菊が向かう。と、その前に。智菊は桐子の元に駆けて戻ると、急に深刻そうな顔をして彼女の耳元でボソボソとある事を確認した。

「思ったんだけどさ……ここのギムナジウムって、英語の授業があるじゃん。ウィルヘルムくんも英語……喋れるよね?」

「うん。中学生レベルの英語はペラペラだよ」

 何せ昨日はウィルヘルムを含め図書館のメンバー全員、英語を使って会話をしていたのだった。最初こそドイツ語を使ってはいたのだが、桐子がだんだん付いて行けずにシドロモドロになっていったので、最終的にみんなでつたない英会話をしていたのだった。

 ウィルヘルムは英語がしゃべれる。その真実に智菊は先ほどの自分の挨拶と、ウィルヘルムの微笑みを思い出して一人沈黙した。




* * *




「え、ウィルヘルムくんはもう帰ったのですか?」

 初期学生の校舎前で捕まえた教師に彼の居場所を聞いたのだが、どうやら彼はすでに建物を出た後のようだった。

「ああフェルベルト君だろ? 調べてきたけど、今日の彼の授業は午前授業だけのようだ。補習授業を受けなくてはいけないような成績でもないし、もう帰っちゃったんじゃないかな」

人のことを呼んどいて、さっさと帰ってしまったのか。呆れたように肩の力が抜ける。

「はぁ……、ありがとうございます」

 捕まえた教師を開放し、トボトボと桐子も外に出る。が、どうしたものか。

「携帯の番号、聞いとけばよかった」と後悔しても彼がひょっこりと都合良く出てくるわけではない。もしかしたらまだ何所かにいるのかも。そう思って桐子は校舎の周りや学校の図書室など、彼が居そうな場所を探し始めた。しかしウィルヘルムはどこにも居ない。今度は共通の食堂に校舎裏の小さな庭、学校中の草木を分ける勢いでウィルヘルムを探し回ったのだが結果としては彼女が彼を見つけ出すことはできなかった。

 やはり先に童話図書館へと向かってしまったのだろうか。時刻は午後二時を指している。その可能性は十分あり得るか……仕方ない。裏庭の隅々を納得するまで探し終わると桐子は早速、図書館へと向かおうと地面に置いていたカバンをひょいっと背負う。しかし何だろう。突如、背後から何か熱い視線を感じた。桐子は恐る恐る振り向く。そこには堂々と、裏庭の出入り口を封鎖する彼のシルエットが、桐子の事を変わらぬ敵意で睨んでいた。

「…………貴方も懲りないわね。クラウン」

流石に三度目。桐子もいい加減慣れてしまったのか、緊張はしているが呆れたような声を出した。

「今度こそ邪魔者はいないみたいだね」

辺りを見渡すと彼の言う通り、人影は二人以外誰もいない。自ら人気のない場所へと入り込み、非常に危険な状況であると流石の桐子も理解した。無駄にあがいて逃げ出そうとしても怪我するだけだ。意味がないこと。桐子はおとなしく荷物を彼の前に放り投げ、しずかに両手を挙げてみせた。

「……? なんのつもりだ?」

「私は貴方と戦う気も、関わる気もないって意味。

 何度も言うけど、私は自分に取り憑いた<童話>なんてどうでもいい。……と言うか、今の状況に追い込んだ元凶として本っ当に迷惑だとしか思っていないの。欲しいのならあげる。でも私はまだ死にたくない。……言ってる意味わかる?」

小首を傾げ、しばらく沈黙するクラウン。

「……取り憑いた人間本体はどうなってもいいから見逃してくれ……ってことか?」

「違っ……!! ん、もう!」

 成り立たない会話にいい加減しびれを切らしたが、すぐに大きく深呼吸をする。今自分が取り乱して変にクラウンに刺激を与えれば今度こそ自分の命がない。冷静になれ、心を落ち着かせろ。自己暗示し、平常心を取り戻す。そして桐子は今いる状況とクラウンの考えを再認識し、もう一度彼に向かって丁寧に話した。

「…………人間を殺さずに……ね、〈童話〉だけを祓たいの」

桐子の精一杯の訴え。言葉の締めにはにっこり可愛い笑顔を添えて。

しかし、何ともまぁ、相変わらず下手くそな作り笑い。逆に言葉の信頼性を妨げているようにしか見えない。が、なんと、桐子の訴えが届いたのか、クラウンの顔がみるみると驚きの色に変わっていく。やったあ! と喜びに浸かる。その前に、

「うひゃひゃ。それは無理だねぇ」

と、突如二人の間に別の男の声がなり響いた。先に反応したクラウンが辺りを見渡すが誰もいない。しかし雲ひとつない青空の元、巨大な影が二人の上を横切った。

 一つは地面を這い、クラウンの足を伝って彼の中へと潜り込み、遅れて反応した桐子には空飛ぶ影が、そのまま彼女の上へと降ってきた。

「なぜならこの俺様が、お前らを殺すんだからな!!」

 クラウンの方向だ。そっちの方角から男の声が聞こえる。桐子は急いで声の主を確認しようとクラウンの方を見た。のだが、何かがおかしい。何故ならそこいたはずのクラウンが、いないのだ。一体どういうことだ。桐子は辺りの地理を再確認した。

 裏庭の入り口は狭く一つしかない。その通りの真ん中にクラウンが堂々と立っていた。しかし今見える視界の中には誰もいない。というか……どうも視界がぼやけている。画面半分が暗く不判明というか……。

 桐子はこの違和感をきみ悪く思い、無意識に自分の左頬を撫でていた。何だろう。不安が胸をかきむしる。どうしても自分の左半分の視界がうまく見えないのだ。その時「ああっ!!」と甲高い悲鳴が桐子の左方向から聞こえてきた。

 クラウンの声だ! 桐子は勢いよく体を左の方へと向けた。するとそこには、右腕から大量の血を流すクラウンの姿が、苦しそうに傷口をおさえて立っていた。しかも彼の前には見知らぬ男が、ナイフについた血を払ってケタケタ気味悪く笑っている。

「うひゃひゃひゃひゃ。お前らいつになったら殺し合うんだよ。俺様が動いた方が早いじゃねーかよ!」

そう言って、もう一刺しと言わんばかりに男はナイフをクラウンの右腕めがけて振り下ろした。

だがクラウンは難なく男の攻撃を振りかわし、傷ついた右手で腰にしまった木製の短剣を取り出した。赤黒い鎖が短剣を包み込み、崩れると中から大きな剣が現れる。桐子を苦しめたあの大剣だ。しかしそれと同時かすぐに、男はクラウンから見て右方向に近づくと、彼の右腕を深く切り裂いた。

「ぐわぁ!」

またもやクラウンが苦しい悲鳴をあげる。右手でしっかりと剣を掴めないのか、クラウンは自身の左手を、右手も一緒に支えるようにして剣の柄を握りしめる。

 男は俗にいう不良少年といった恰好をしており若く見えるが、その力強さは桐子たちよりも歳上だという印象を持った。しかしそれよりも、桐子はクラウンが斬りつけられた所をまじかで見て、何故だと一つの疑問を抱いた。

 突如現れた男の動き、ウィルヘルムの動きとは比べ物にならないほどに遅かった。ウィルヘルムと張り合ったクラウンならば避けられたはず。しかしクラウンはその動きを避けずに深い傷を負ってしまった。なぜ?

 不思議に思う桐子は一瞬、クラウンの横顔をハッと見る。なぜ彼がこんなにも苦戦しているのか。その理由を、彼の横顔から理解すると同時に、恐怖で身が固まる感覚を味わってしまう。

「ク……クラウンくん……。右目、どうしたの?」

 右目。彼は右目をつむっていた。が、それだけではない。彼の右目は本来の、目をつむった時の形状とは違い、瞼が深くへこんでいたのだ。クラウンは脂汗をかいた自身の顔を、桐子の方に振り向かす。

「そういうお前も……左目、無いぞ」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ