――Grimm Arm Märchen ―Ⅳ――
「私奴は死神様の弟にして一番の召使い『悪夢』と申します。この度はそこの坊ちゃんに助けていただき感謝極まりない。お陰様で私たちは晴れて自由の身になることが出来ました。おっと、この赤ちゃんは私奴の物です。この子のお父様から頂きました」
『悪夢』と名乗った骸骨は悠々とお喋りをして男の子とお母さんを置いてけぼりにします。ですがまだまだこの『悪夢』のお喋りは終わりません。
「さて、私たちが自由になったのはいい事ですが災難な目に合われましたねお坊ちゃん。心中お察し致します」
「村の人たちが可笑しくなったのは『悪夢』さんのせいなの?」
「私奴の?! いやいや! 私奴だけでなく、お坊ちゃんが開いた本から出てきた悪い精霊さんたちのせいでございます!」
男の子はドキッとしました。
「あの赤い本には悪い精霊さんや霊たちが沢山封印されていたのですよ。私奴もですが。それを坊ちゃんが本を開いてくれましたでしょう? それで私たち、つい嬉しくなっちゃって……ちょっと遊んだだけなんです」
男の子は自分がしてしまった恐ろしい行いに戸惑い、ぽろぽろと大粒の涙を流しました。
『悪夢』はすかさず男の子の涙を拭おうとしましたが、男の子のお母さんが急いで男の子を庇ったので『悪夢』は少々残念そうに首を垂れました。
「『悪夢』さん、どうすれば村の人たちは元に戻るの?」
「そのために私奴はここにいます。私奴は死神様の弟にして一番の召使い。あなた様の願いを聞き、お手伝いするのが私奴の役目。
もう村で起きたことを元に戻す事は出来ません。しかしもう一度、悪い精霊さんたちを封印する事は出来ますよ」
「ほんと?! どうすればいいの?」
「坊ちゃんの魂を使うのです!」
『悪夢』はカラカラと骨を震わせて笑います。その音と『悪夢』の提案に男の子はびっくりして飛び上がりました。
「僕の魂?!!」
「はい! 坊ちゃんの魂には精霊たちを封印する力が宿っております。その魂を取り出して鎖のように紡ぎ、精霊たちの首に引っ掛けてまた本の中に閉じ込めるのです!」
それはつまり男の子の命を生贄に捧げるという事。確かに男の子は禁止されていた事を破ってしまいましたが、死んでまで償うには幼すぎます。
「いかが致しましょう?」
表情は無いのに笑っているように見える『悪夢』の顔に男の子は怖気ついてしまいました。しかし男の子のお母さんがずいっと前に出てくると『悪夢』に強く言いました。
「この子の命は取らずとも私の命を使ってください。私も赤い本を納める家と知って嫁いだ身。たとえその血筋を引いていなくとも、私の命一つで精霊たちを食い止める鎖になる事は出来るでしょう」
<つづく>