プロローグ ――Grimm Arm Märchen――
昔々、とある大きな山のふもとに小さな村がありました。
その村には立派なお屋敷がありまして、そこには元気な男の子が住んでおりました。
この男の子は「やってはいけないよ」と注意された事を平気でやってしまう悪い子なのですが、この日も「入っちゃいけないよ」と注意されていた地下室に内緒で冒険しに行きました。
地下へと続く螺旋階段を男の子はそろり、そろりと音を立てないように下りてゆきます。
無事にたどり着いた地下室はとても小さな書斎室でした。
沢山の本に囲まれた部屋の中、男の子はとある一冊の本を見つけます。
古い木の机に置かれた真っ赤な本。
その本に導かれるように男の子はゆっくりと表紙を開けました。すると……、
『Danke!』
感謝の声が、男の子の耳に響いてきます。
その途端、部屋の中に大きなつむじ風が吹き荒れました。
辺りに散らばる本やメモ用紙が宙を舞い、部屋の中を駆け回ります。
どうもこのつむじ風は赤い本の中から出てきているようで、驚いた男の子は尻もちをつきながら赤い本を放り投げてしまいました。
しかし本の中からあふれ出る風は止むことも無く、より一層強くなってゆきます。
風の中には黒い馬や騎士の格好をした男、ドレスを着た美しい女性に腰の曲がった醜い老婆。他にも沢山の人や動物たちの影が渦巻いて、歓喜の声をあげていました。
割れんばかりの笑い声が部屋中に響き渡り、男の子は耳を塞いで小さく縮こまっていたのですが、つむじ風が地下室の窓から抜け出すと影も一緒に逃げ出してしまいました。
<つづく>