パーティー登録
冒険者ギルドの中へと入った私は、露骨にならないよう注意しながら周囲を見回しゆっくりと歩く。
そうして観察した結果、ここは左側に依頼関係を請け負う受付と、その内容を提示する掲示板があり、右側に新規登録やパーティー登録などを請け負う受付があるらしい事がわかった。
そして中央奥には冒険者達が寛ぎ、食事などをする酒場があるようだ。
そこにはまだ朝なのにも関わらず、ジョッキを手にお酒を飲んでいる人達の姿がある。
まあ、『やっぱり仕事の後の一杯はうまいぜ!』などという声が聞こえた事から察するに、夜間に依頼をこなしてきたのだろうけどね。
さて、それはさておき。
誰にパーティーを組んでくれるようお願いをしよう?
私は今日から魔法を使って経験を積みたいのだから、既に仕事を終えて飲んだくれてる人達は除外だ。
見るからに良くない事を考えてそうな、私を見てなんだかニヤニヤしてるガラの悪い人も除外。
強面のマッチョな人も避けたいけど……ああ見えて実は優しい人って事もあり得るし、安易に外見で判断するのはいけないから勇気を出して声をかけなきゃね。
優しそうに見えたレイディアさんの件を、しっかり教訓にしなくちゃ。
よし、まずは、掲示板で依頼を見てる人達からお願いしに行ってみよう!
私はきゅっと顔を引き締め、掲示板に向かって歩き出した。
☆ ★ ☆ ★ ☆
パーティーを組むべく、また、その一員として入れて貰うべく、私は冒険者さん達に声をかけていった。
一組、二組、三組目とお願いしては断られ、そう簡単にはいくはずないよね、まだまだ! と私は次へと向かった。
四組、五組、六組目にも断られ、ま、負けないもん! と私は気合いを新たに次へと向かった。
七組、八組、九組目にまで断られ、や、やっぱり私じゃ駄目なのかもしれない……と、少し涙目になりながら、それでも私は次へと向かった。
そして十組目にまで断られたところで、私の心はぽっきり折れた。
「あ、あのぅ……パーティーを組んでくれる方を、お探しなんですよね?」
「え?」
壁に寄りかかり、俯き項垂れて計画の変更を考えていた私に、いつの間に近くに来ていたのか、さっきまで右側の受付にいたはずのお姉さんがそう声をかけてきた。
「そ、そう、なんですけど……でも……」
私はそう言いながら、声をかけられた事で上げた顔を、また俯かせる。
「……断られてしまっていました、よね。見ておりました。それでもめげずに他の方に声をかけておられたのに、ついに足が止まってしまわれたので、参りました。宜しければ、私がパーティーを組んで下さりそうな方をご紹介致しましょうか?」
「えっ!? い、いいんですか……!?」
「はい。それも、私の業務の一環ですので。……貴女は先程登録されたばかりの、レベル1の魔法使いでしたよね? ならば……そうですね。今ギルド内にいるパーティーでも二組程心当たりがございます。どうぞこちらへ」
「! は、はい!!」
天の助けだ!!
微笑みながらしっかりと頷いて歩き出したお姉さんの後を、私は心の底からホッとした顔でついて行った。
そして連れて行かれたのは、奥にある酒場。
既に仕事を終えた飲んだくれしかいないと思っていたその場所の一角に、素面の三人組がいた。
「すみません、失礼致します。ユージスさん、シャルフさん、ヨゼットさん、少々よろしいでしょうか?」
お姉さんがその三人組がいるテーブルに近づきそう声をかけると、談笑していたらしい三人の視線がお姉さんに集中する。
「あれ、受付のお姉さんじゃん! 何々どうしたの? 一緒に食事する?」
三人組の中の明るい翠色した髪の青年が、お姉さんを見るなりパッと顔を輝かせてそう捲し立てる。
するとお姉さんは笑みを深め、首を横に振った。
「いいえ、仕事中ですから。それよりも皆さん、パーティーメンバーを一人増やしては戴けませんか? こちらの方なのですが」
次いでそう言うと、私を見た。
それにつられるように三人の視線も私に移る。
私は集まったそれに肩を揺らし、一気に押し寄せた緊張に体を強ばらせながらも口を開いた。
「あっ、あのっ、初めまして! わわ私、ツキハ・ホシカワといいます! 今日このギルドに登録した魔法使いです!」
「光魔法と水魔法を使う、レベル1の新人冒険者さんです。その為、パーティーを組んで下さる方をお探しなのですわ」
「へえ、新人なんだ? いいよいいよ、おいでよ! 俺達かなり強いからさ、安心して後ろにいていいよ! 女の子なら大歓迎!! なあ二人とも?」
「ユージス、お前はまたそんな事を……。……まあ、メンバーに加える事に異論はないが。ユージスの言う通り、俺達は強い。新人が一人増えたところで問題はないからな。なあシャルフ?」
「ああ、そうだな。ツキハさん、だったな。俺は風魔法と光魔法を使う魔法使いだ。だから光魔法なら教えられる。上達したいなら、それが一番の近道だが、どうする?」
「!! 本当ですか!? 是非お願いします!!」
「では、彼女をパーティーに加えて下さるのですね。良かったですね、ツキハ・ホシカワさん。メンバー登録は、私のほうでしておきます。それでは失礼致しますね」
「あ、はい! どうも、ありがとうございました!」
「まったね~、お姉さん!」
「ご苦労さん」
「登録、よろしくお願いします」
三人からの了承らしい言葉と、シャルフさんからの嬉しい申し出に前のめりになって喜んだ私の声を聞くと、お姉さんは静かに立ち去って行った。
私はその後ろ姿にお礼を言いながら頭を下げたあと、再び三人に向き直る。
「まだ成り立ての新人で、できる事も僅かですが、私精一杯頑張りますので、どうかよろしくお願いします!」
そして明るくそう言うと、丁寧に深々と頭を下げた。