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訪れた三人

 部屋に戻りベッドに潜り込んだ後、どんなに固く目を閉じて眠ろうとしても、結局眠りにつく事はなかった。

 レイディアさんが、そしてグレイさんがあんな酷い事をするなんて信じられなかった。

 『君、騙されやすそうだから』と言ったあの男性の言葉が脳裏に甦る。

 ……私は、騙されたのだろうか。

 優しく穏やかな人だと思っていたあのレイディアさんは、嘘の姿だったんだろうか……。

 どちらにしろ、いつまでもこうしてはいられない。

 朝の光は、もう部屋に射し込んできている。

 じきに部屋に訪れるレイディアさんとグレイさんに、昨夜の事など何も見なかったように、いつも通り振る舞わなくちゃ。

 今日から始まる身代わりをしっかり務め、勉強も頑張ってこの世界の事を覚え、いつここを出る事になってもいいように備えなきゃ。

 考えてみれば、身代わりを務める程そっくりな私を、その務めが終わった後お役御免にして旅立たせてくれる保証はない。

 その事について、レイディアさんは何も言っていないのだから。

 役目が終わるその時にこっそり逃げ出すんだ。


「頑張らなくちゃ。……しっかり、しなくちゃ」


 ギュッと目と拳を握り、そして目を開けると、覚悟と決意を胸に、私はベッドから体を起こした。


☆  ★  ☆  ★  ☆


 肩に届くくらいの長さの真っ直ぐな黒髪は、腰まであるふわふわの金髪に。

 ちょっとだけぽっちゃりした体は、ほっそりした華奢な体に。

 レイディアさんの魔法により、ツキハ・ホシカワはレイディア・ビシャールゼルとなった。

 現在私は、執事さんやメイドさんと一緒に、玄関先で補佐となる貴族の来訪を待っている。

 もうまもなく到着すると先触れがきたのだ。

 グレイさんは、私の側にはいない。

 『屋敷からは出ないから、グレイは特に必要ないから私の側に置くわね』と、レイディアさんが連れていった。

 正直、これにはホッとした。

 あんな場面を見た後で、グレイさんが側にいるのは、きっと怖かったと思うから。


「お嬢様、いらっしゃいました」

「!」


 耳打ちする執事さんの声に顔を上げ、意識を前へと向けた。

 立派な馬車が、門から屋敷まで伸びた長い道を、こちらに向かって走ってくるのが目に入る。

 やがてそれが屋敷に横付けされ、扉が開かれると、中から三人の男性が降りてきた。

 一人目は、四十才前後で、長いエメラルドグリーンの髪を首の後ろでひとくくりにした、深い緑の瞳の人。

 二人目は、二十歳くらいで、明るいオレンジ色の短髪に赤い瞳をした人。

 そして三人目は、同じく二十歳くらいで、首の付け根までの長さの淡い紫色の髪に、紺色の瞳をした人。


「……!!」


 その三人目を見た時、私は目を見開き息を飲んだ。

 淡い紫色の髪に、紺色の瞳。

 その容貌は、レヴィと同じもの。

 だから一瞬、レヴィかと思ってしまった。

 あの男性が親切心で、私をレヴィが訪れる予定のある場所に誘導してくれたのかと。

 けれど、レヴィは私より年下。

 二十歳くらいに見えるあの人がレヴィであるはずはないと、すぐに思い直した。

 喜びと失望に騒いだ胸を落ち着かせるべく、私は一度小さく深呼吸をして、意識して口を笑みの形にした。


「ようこそ、ビシャルゼへ。歓迎致しますわ、ロライアン様」


 次いでそう言ってスカートの端を摘まみ、教わった淑女の礼をする。

 すると、エメラルドグリーンの髪をした男性、レグリーズ・ロライアン様はにこやかに微笑んだ。


「王城で会って以来ですね、レイディア嬢。しばらくの間、お世話になりますよ」

「まあ。お世話になるのはこちらのほうですわ。どうかご指導の程、よろしくお願い致します」


 特に、この世界についてと、一般常識についてを!

 心のなかだけでそう付け加え、私は軽く頭を下げた。


「ええ、勿論です。……とはいえ、私も治める領地を持つ身です。補佐として学んでいる息子に一切を任せてはきましたが、時々は様子を見に戻らねばなりません。その際は、私の従者であるこちらの二人に、貴女の補佐をさせたいと考えております」


 私の言葉に頷きながらもそう続けたロライアン様は、一度言葉を区切ると体を斜めにずらし、後ろを指し示した。

 それにつられるように、私の視線もロライアン様の背後に移る。


「ご紹介しましょう。左が、シグルト・シャガーセン」


 ロライアン様がそう名を告げると、左側にいたオレンジ色の髪の青年が会釈をする。

 それに対し、私は再びスカートの端を摘まみ、軽く膝を曲げる事で挨拶を返した。


「右が、セレヴィン・コランフルー」


 ロライアン様は今度は右側にいた青年を見て、その名を告げた。

 ……この人は、セレヴィンさんというのか。

 そう思いながら視線を向けるも、彼は何故か目を大きく開いてじっと私を見つめるだけで、動かなかった。

 ……な、何だろう?


「……セレヴィン、セレヴィン!」

「!!」


 その様子を疑問に思った私が首を傾げるのと同時に、隣にいたシグルトさんが小さな声で名前を呼びながらセレヴィンさんの肘を掴んで軽く揺らした。

 すれとセレヴィンさんはハッとしたような顔をして、慌てて会釈をした。

 それを見て、疑問は残りつつも私は再び同じ挨拶を返す。

 そして、顔だけで背後の執事さんを振り返った。


「では、じいや。皆様をお部屋へご案内して頂戴。……長く馬車に揺られて、お疲れでございましょう。どうか本日はごゆるりとお休み下さいませ。ご指導は明日から、お願い致しますわ」


 執事さんに指示を出し、最後にロライアン様方へと向き直るとそう告げて、私は屋敷の中へと入って行った。

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